惚れた腫れたのど真ん中行くかィ一発ホームラン








これぁ、阿呆な蒙太っちゅう野郎の恋の話だ。
蒙太の阿呆振りにゃあ、ちゃあんと意味がある。蒙太はその日の飯も食えねぇ程のド貧乏で、勉強するどころじゃあなかったんだな。蒙太は、盗人やったり男娼なったりしながら、その日暮しをしていたんだが、姉の旦那のとこの若旦那に気に入れられて若旦那の付き人になっちまった。お守してんだかされてんだか、何がなんだか分かんなくなっちまうような感じだったみたいだけどな。ま、なにはともあれ、急な大出世だぁな。
その若旦那、周りにキャーキャー言われるような色男でたいそう人気があったんだ。面の皮一枚だけがいいわけじゃねぇ、中身も明るく優しい色男だったのさ。蒙太もスグ仲良くなっちまった。
しかも若旦那の義理の弟っていう野郎も頭の切れる美男子で、そこらの人気者だったんだ。二人がいると女どもは祭りみてぇなドンチャン騒ぎになるってモンだ。蒙太はそんなところで楽しく働いてたのよ。
けどそこにゃぁ悪ぃとこが一つだけあって、環境は最高だったけども、金も食い物もちぃと足りねぇ。蒙太はいまだに盗人や男娼から足が洗えねぇ。そんなことしてるなんて若旦那に知れたらマズいかも知れねぇ。若旦那にゃ内緒でやってたんだが、蒙太は札付きの阿呆だから隠し切れてたかどうかはわかんねぇな。
若旦那が金がねぇことにもわけあって、若旦那は今の国はおかしいってんで、俺が国建てたる!って意気込んで旗揚げした直後だったのよ。やっとこさ軌道にゃ乗って来たかも知れねぇが、まだまだ何も出来てねぇヒヨッコの段階だったわけよ。言うなら、志は立派だけど、伴ってねぇってわけだ。お陰で給料なんてモンは雀の涙程しか貰えねぇ。それでも人が離れて行かなかったのは、若旦那が魅力ある男だったからよ。そりゃー男から見たって惚れちまうような男だったってわけさ。若旦那だけじゃねぇ、その義弟もだ。
その若旦那は、国を興すために自分の陣地を拡げてるとこだ。そりゃ急がなきゃならねぇ。国民引っ張って、飯も食わにゃならねぇ。一刻でも早く!ってんで、陣地取りの戦をガンガンしてたんだ。この若旦那、戦のセンスってモンが最高で、怒濤の勢いで陣地拡げて行った。そんなだから金はまだまだねぇが、人だけは集まって来る。けども若旦那がどうしても欲しい奴だけは、若旦那のところにゃ来やがらねぇ。仕方ねぇから若旦那は、その欲しがってるデクノボウを、負かして引っ捕らえて連れて来た。戦にゃ出てねぇ蒙太は、その時初めてそのデクノボウを見たわけよ。まーぁその男、ホントにデカい野郎で、体もいい体してんだわ。
そいつに若旦那は俺の建てる国に来い、って説教をしてる最中、蒙太は頼まれて食事を置きに行った。蒙太は阿呆だから、此処にいる奴は皆仲間だと勘違いしてたんだな、でも食事運ぶぐれぇだ。大事な客なんだな、じゃサービスしなきゃならねぇ。って思ってちょっと色っぽい服着て食事運んだわけだ。飯食ってる最中に、蒙太が服脱ぎ出してサービスするもんだから、デクノボウもビックリしちまって飯を吐き出す始末。しかも蒙太、ホントに阿呆だもんで、汚い格好でそんなことやっちまった。
けどそれが逆に別の方向に目を引いたらしい。デクノボウは此処では乞食が、給料も貰わず働いていているのか!と同情したもんだ。可哀想に、と頭を撫でて、飯を食えと駄賃寄越すもんだから、蒙太は更に勘違いして、今日は大事な客だから無償のはずなのに、気に入って貰って駄賃くれたんだ!じゃあ目一杯イイ思いさせてやらねぇと!なんて思っちまったんだ。どうすりゃそんな勘違いが出来るのかねぇ。
でもそりゃあ勘違いだから、男は買わねぇよと言う。蒙太はそれじゃ悪ぃと思って売る。わけのわからねぇ輪みてぇなもんだ。メビウスの輪ってぇやつか。
そこでデクノボウは若旦那に乞食を雇っているのか、と訊きに行ったら、事情を知らねぇ若旦那、俺の付き人よと言っちまった。それ聞いたデクノボウは、やっぱりこんなところじゃ働けねぇと言ったんだ。言ったはいいが、それ聞いた蒙太も若旦那も、いなくなられちゃ困るから、わぁわぁ泣いてその言葉押しとどめようとした。普通じゃ誰が考えても止まらねぇが、アマちゃんなデクノボウは、泣き落としに負けちまった。何だか分からねぇうちに、悪くもねぇのに謝ったり慰めたりしてる始末だ。二人の泣き落としはそれぐれぇ強力だったってぇことだな。
もうお分かりかもしれねぇが、これぐらい蒙太に優しくしてくれた奴はいねぇ。飯を食えと金を渡してくれたり、泣いてるとこを慰めてくれたり…。蒙太にとってはこれだけでイッパツだったのよ。惚れちまったら一直線、蒙太はいつもくっついて歩いた。もともと人なつっこい性格は、周りに溶け込ませるようにするには十分だった。デクノボウはすぐ周りに馴染めた。
そんな理由がありゃあ、デクノボウの方もまんざらでもなくなっちまうだろうと思うかも知れねぇが、デクノボウに惚れたのは、何も蒙太だけじゃねぇ。若旦那もまたそうだった。勿論惚れてるから連れて来たんだし、仲間に入れたいと思ったんだ。何だか微妙な感じになっちまったが、その続きがあるとしたら、それはまた別の物語だぁ。そんなこんなで、蒙太は恋に落ちちまったのさ。
デクノボウはというと、周りの変化についてくだけで手一杯。惚れた腫れたなんて考える暇もありゃしねぇ。此処にいると決めたからにゃ此処でがんばらなきゃならねぇ。とりあえず後回しにされんのが色恋沙汰。しばらくは何の変化もなさそうだ。
そう。しばらくは若旦那と蒙太に追いかけ回されてるだけだろうよ。




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平成 17年5月2日月曜日

太史慈×蒙さんを落語風に書いてみた(笑)某ドラマ観て落語イケるじゃん!なんて思ったから書いたのさ。
蒙太って名前は、手塚治虫の本をパラパラってめくってたらモウ太ってのがあったんで、蒙さんを連想したから使わせてもらいました。特に意味はない。
思考当初は、下ネタも絡んでて、もっと笑うとこもあったんだけれど、イヤイヤ思ったように話進まずムスコの話は出て来なかったな。(注:ここで言うムスコは、股間に関わる話だぁね)
次回作はないだろうが、機会があったら、いずれ…。
落語風、とは言ったものの、落語ってもんがよくわからねぇ。知ったかぶりのつもりじゃぁないんで見逃してやってください。


2005/05/02 08:03:44