世界崩壊の過程ととある二人の物語0.5




 ここは明るい場所だったはずなのに、いつの間にかその光りは失われてしまっている。ああ、気付かずにその光りを探すことなどどれほどに愚かなことであるのか、それは分かり切っているというのにそれでも光りを探さずにはおられないのは、人間としての性であるとしかいいようがない。ああでも、光りだけを求めるのが人間であるのか。それを思い始めると、わたしのこころの中はじくじくとし始めるのでした。それは、あなた、とか、わたし、とかそんなものは全く関係なくて。それでも、求めてしまうものこそが光りというものなんだろう、とわたしは思うのです。それは、だれが、何と言おうとも。
 ぐちゃ。
 足下で音がした。それは、何かを踏みつけたのだと思って、わたしは飛びすさった。足の下を、恐る恐る見るまでの時間、数十秒。──もしかしたら、数分だったのかもしれないけれども。それは。あ、とわたしは声に出した。けれど、誰も聞いてはいなかった、と思う。だから、もう一度あ、と声に出した。それはわざとだった。そこには、今まで見たこともないような闇があった。闇が、濡れてそこに存在していた。闇が溢れている。ここは何処なのだろう。わたしはあてもなく光りを探しだした。闇を目に入れるのはこわい、と初めて思った。この闇は、どこか近しいものを感じる。こんなに冷たくて哀しいのに、近しいだなんてどこかおかしな感覚だ。わたしは光りの中に有りたい。愚かにも、まだわたしは光りばかりを望んでいる。
 どうしてですか。
 そのような問いなど、今まで感じたことはなかったのに急に生まれるものなのだろうか。どうして光りばかりを求めてしまうような自分になってしまったのですか。闇は怖いなどと、植えつけられた記憶の中にあるような思い込み。なぜなら、闇は近しいものなので恐れることはない。分かっているのに、光りはよいものだ、闇は怖いものだ、と一般的に決まっているように存在している。その考えを払拭すべきなのか、それとも、今の欲望のまま光りを求めるべきなのか、わたしには分からない。わたしはわたしのやりたいことややるだけです。もう一度、わたしは闇を見た。今度は目をそらさない、そう決めて。濡れた闇は、気づけばもう逃れられないくらいにそこらじゅうに広がっていた。わたしは、堪らずはぁあ、と息を吐き出してしまっていた。ここにはもう、光りはないのかもしれないと、どこか冷めた気持ちでわたしはようやく気づいた。認めることが怖かったのです。
 闇があるから光りがあるということを。わたしは気づかぬうちに、こころを開きつつありました。光りだけを認めて、闇を認めないなどと、それは偏ったものであることを知りながら、知らないふりをしていたのです。それこそが人間の弱さなのでしょう。わたしは強くなりたいわけではないけれど、ただ、弱いだけの人間に甘んじているつもりはないのです。だからわたしは、光りも闇も一緒に抱いて、弱さも認めてわたし自身を赦そう、と思うのです。思うのですが、恐れはそう簡単にはなくならない。どうすればよいのかも分からないまま、わたしは闇へと手をのばしました。もしかしたらこれは、わたしの中にある、わたしだけの闇なのかもしれない。濡れた感触は、足で触れてぐちゃりといった時に比べれば、思っていたよりも大分大気の温度に近い。ああ、これが近しい理由だったのかもしれないとわたしは思いました。両手でそれを掬ってみると、身体に絡みつくような感覚。これはなんだろう? わたしは今までこんな感触を味わったことはない。心地よいとはとても言えませんが、この闇の中にはどこか懐かしさを感じるのです。それで、ようやく感じることができました。わたしの居場所は、光りでも闇でもないのだということを。それを感じれば、すぐに光りに似た何か、光明のようなものが見えました。目の前には変わらず闇の濡れたものが浮かんでいるのにも関わらず、どうしてでしょうか光りのような一本の手綱のような線が見えたような気がして、わたしは懸命にそれを掴もうとするのです。それは、幸せだけを願うものではなくて、不幸をも呼ぶ可能性などわたしは瞬時に浮かぶはずもなくて。ああ、それがどれだけ愚かな行動だったとしてもきっと、今のわたしであってもそれを掴もうともがくのでしょう。それが、欲のある生き物だという証なのでしょう。ああ、それがどんなに汚れた行為だとしてもきっとわたしにはどうにもできない欲望の目指すところなのでしょう。ああ!
 わたしは、気がつくと闇でも光りでもない、孤独が満ちた場所にいました。分からないうちに。わたしは光りに向けて手を伸ばしたはずだったのに。わたしは存在があるのか知りたくて、声を発することにしました。
「わたしは、……………」
 それ以上続けることができなかったのは、わたしがわたしの声、発したはずのわたしの声が聞こえなかったからです。ひゅう、ひゅうという風の音だけがどこからともなく聞こえたからです。わたしは耳をすませました。なぜなら、風の吹いていないここで、風の音など聞こえるはずがないからです。どうして風の音が聞こえたのか、それは、わたしの短い二十数年という期間のうち浮かぶことは、音をどこか、近いところで擬似的に鳴らしているのではないか、ということ。もしくは、擬似的な音というのは同じだけれど、それは風に似た音まで擬似音だということ。または、近くで擬似的に風を、実際に起こしているのではないかということ──例えば、巨大扇風機などを使って──。そんなことを瞬時に浮かべました。わたしはきょろきょろとあたりを見回しました。しかし、そこは闇でも光りでもない、ただの『空間』だったのです。わたしは、そんなところに迷い込んでいる。誰もいない、誰ともつながりあえない、そんな孤独な空間に。わたしのこころはただひたすらに孤独を感じだしたのでした。それならば闇でも構わない。わたしは、わたしだけになりたくないのだと思いました。わたしだけということは、わたしだけでしかないのだということを。それこそが、孤独なのではないでしょうか。そうして、いずれわたしはわたしかどうか、それすら考えられなくなるのかもしれないのです。それが怖いのだとわたしは感じました。わたしがわたしであることになど、意味を求めてもしかたがないというのに。それは、分かっているというのに。わたしは、わたしじゃなくなるのが怖いなどと、本当に人間は愚かで、脆い生き物だと感じるのです。
 わたしは、わたしであることを知るために、また闇の濡れたそれをぴちゃぴちゃと、わざと音立てて触れてみました。さっきよりも温かく感じすらするのです。これは闇ではないのだったか、わたしは先ほどまでこれにも恐れをなしていました。そんな数分ほど前の自分自身にも笑ってしまいそうです。これは恐るべきものではない。人間には必要なものだと感じました。そう、人間には必要なものがたくさん有りすぎるのです。わたしたち人間は、両手では抱えきれないほど多くのものを必要として、そしてそれを吸収したり吐き出したりしながらただいっときの絶望や希望に向けて足を踏み出すのです。それが、この何もない空間で見つけた光りと闇の中の答えです。間違っているかもしれない、合っているかもしれない。そもそも、◯か×かなどとちゃんちゃらおかしい話なのです。倫理など言葉でしかなく、わたしたちは言葉によって発展し、言葉によって生かされ、言葉によって苦しめられ悩まされているだけなのです。答えは頭数ほどあると、どうして分からなかったのか、何もない世界で何もかもを感じることができたからこそ、言える言葉なのでしょう。
 わたしは気づいたら歩いていました。ああ、これは光りだ、とわたしは目を細めました。射し込む光りに懐かしさを覚えます。わたしはやっぱり光りを求めてしまったようです。そういう生き物なのかもしれません。光りがよいとも悪いとも、闇がどうとも感じることはありません。ただ、早く安堵したいと願いました。どのような状態が安堵であるのか、今のわたしには分かりませんが、それでも早く安堵したいと思うばかりです。そればかり考えてただ、ひたすらにわたしは道もないのに歩いてきたのですから。あああ、もしかしたら、道などなくても人間は進めるのかもしれません。それほどまでに弱くも、もしくは脆くもないのかもしれません。わたしは、そんなことを思いながら闇と思われる所から光りへと思われる所へと、手を伸ばしました。そうしたら、わたしは、



 解放、されるのでしょうか。
 わたしは。
どこか遠くの方で、子どもの、否、赤子の泣き声を聞いたような気がした。それは、どこか懐かしい響きでした。わたしは、これを望んでいたのでしょうか。それとも、ああ、わたしにはもう、よくわからないのです。目がすべて白に埋まりました。光りも闇も、そう変わらないものなのかもしれません。それは、一色に染まってしまえばわたしは何も見えなくなってしまうのですから。
 それを分かってはいるのですが、わたしは、果たすことができるのでしょうか。わたしは、わたしのいる世界へ、わたしのいるはずである世界へ行くことができるのかなどと、そんなことを思うばかり。ただ、光りの世界がそこに広がっているだけ。きっと、わたしはこの世界によって明るいだけの、何もない世界に向けてわたしは旅立ったのです。もちろん、何も見えないままなのです。すべてが。ああ。



13.05.08

お疲れさまです!
タラタラ書いてたら長くなりました。
イミフかもしれませんが、一応頭の中では風間準とアウンノウンの関係性というか………そんな感じです。勝手な想像ですけど、まぁいいか。

鉄拳の風間準と一八と仁あたりの、ごちゃついてる話を勝手に紐解いて、勝手に納得してるだけです。もっともっと、勝手に納得したいのでもっと書きます。まぁ、GW終わったしボチボチですけど。

今回のような精神世界ってぐるぐるしますよね、頭の中とかさ。もうぐるぐーるですよね。
しゃぁねぇか。
気が向きましたら、もう少しお付き合い頂ければ。よろしゅうございます。

青春

2013/05/08 22:22:39