何故こんなことになったのか分からない。悪いことを覚えてしまったようだ。
 俺はまた、窓の前で立たされて、見せつけるようになぶられ続けている。
 俺の後ろにいるのは、恋人じゃない。昔から知っているけれど、そんな関係じゃない。
 でも俺はこいつに犯されることが、今は、全て。また、お前の体温で存在と快楽を感じてる。
  愛してる? 好き?
 いいや、そんなじゃない。ただ抜け出せなくなってしまっただけ。この妙な魅力に、とり憑かれてしまっただけ。
 好きとか嫌いとか、そんなことはひとつも思ったことはない。考える暇なんて無いんだ。ただ、溺れるだけ。
 こいつの前で、俺は小さな水槽に薄く水が張ってある、パクパクしてるサカナ。水を増やしてもらうのを待ってる。

 今日はラブホテルの近くで待ち合わせした。
 家から外に来る道は、少し寒かったけれど、これから起こることに興奮していた。
 どうせ行くのはラブホテル。やることはひとつと決まってる。
 10時。時間きっかりに待ち合わせた相手が来る。街の皆が振り返るような、スレンダー美人。顔ちっちゃい、足長い、スタイル抜群、一緒に歩いていると、周りからは羨望の眼差しで見られる。それはある意味男としての優越感が満たされる。
 でも俺はこいつの恋人じゃない。なんなのか、たぶん、セックスフレンドってヤツだ。きっと。
 待った? なんて。そんなセリフ、いらないのに。ニコニコしながら近寄ってくる彼女。こんな彼女がいれば…それはたまには俺だって思うよ。でも俺はこいつだけはダメなんだ。歩いているだけならいいけれど、恋人となると話は別だ。
 俺たちは二人でホテルの部屋に向かう。シャワーは彼女が先。俺はそれまで、テレビを見ながら時間を過ごす。服はすぐジャマになる。俺は上半身裸になって待っていた。
 彼女はしっかり服を着て上がってくる。俺は入れ違いに風呂に向かう。こんな関係、いつまで続くんだろうか。たまに、そう思う。
 鏡の前で体を洗う。鏡に映る自分は、色男でもない。彼女は美人なのに、何故俺を選んだんだろうか。何故俺の全てを、見抜いたんだろうか。あいつには、人の心の奥底を読む、そんな能力でも備わっているんだろうか。自分自身も知らないような、隠された真実、彼女はそれを見切った、というのだろうか。俺の、困った性癖を。
 俺は軽くバスローブを羽織って風呂から上がった。彼女はタバコをふかして座っている。彼女は近況を聞いてくる。俺はそれに簡単に答える。会話をしながらも彼女は俺の体に触れ始める。いつもこうやって行為が始まる。このさりげなさは、他の人には真似できないんじゃないかと思う。
 シャワーに濡れた髪を撫でながら、耳元や首筋に軽く息を吹きかけるようにして、その整った唇で触れる。それだけで顔が熱くなってくる。これからの快感を期待する自分の体は、普通以上に敏感になっている。羽織ってきたはずのバスローブは、いつの間にかはだけていた。何も無い上半身を、唇と指でなぞられていく感触が堪らない。自分の口から呻き声が出てしまう。彼女は俺の乳首を軽く噛みながら腹筋をなぞる。触って欲しい箇所にはまだ手を触れず、その部分はいまだにバスローブに覆われている。その近くをゆるゆると行ったり来たりしている。彼女は、いつもこうやって俺を焦らす。もう股間は膨れ上がっているというのに。
 今度は背中に触れる。背中が舌を這う感触というのは、何度されても普段触れられる場所でないから慣れないもので、ゾクゾクと鳥肌が立つ。そのゾクゾク感が癖になる、興奮が高まるのだ。舌はどんどん下に向かって下りて行く。でも俺はベッドに座った体勢だから、ペッティングは腰骨の辺りまで。あと、もう少し下…じれったい愛撫に興奮が増していく。興奮と共に感度もよくなる。彼女はそんな俺を見て、サディスティックに微笑む。
 俺は彼女に言う事に逆らえない。彼女は女王バチで、俺は働きバチのようなものだから。
 彼女は俺の前で裸になることは無い。女王様は崇高なるものだから脱ぐ必要は無いんだ。
 攻められるのは、俺。言いなりなのは、俺。
 あくまで受身じゃないと、楽しむことができない、これが、俺の性癖。この性癖のせいで、恋人とはうまくいかない。俺はずっと精神的インポテンツなのかと思っていた。自慰も朝立ちも普通のようだから。お陰でいまだ童貞。天然記念物みたいなもんだ。
 この性癖を知るキッカケになったのが、彼女。
 彼女とは友達だったから、フラレ話を相談した。もちろんインポなのかな〜、なんて相談できるはずも無く。フラレたって事だけを話したんだが、彼女は慰めてあげると言い、ホテルに行った。そんなことしたって俺はダメだと知っていたが、彼女は焦らしながら俺を攻め立てた。俺は勃起した。いける!そう思ったが、彼女は私に任せてと言い、俺の耳たぶに息を吹きかけながら俺を指先で弄んだ。俺は恥ずかしくてどうしようもない。でもすごく今までにないくらい感じていた。興奮していた。ここに手をついてと言われるがままに応じる。気がついたら俺はベッドの上で四つん這いの姿勢。尻の穴が丸見えじゃないか。気付いた時は顔から火が出るかと思った。彼女はお構いなしに後ろ側からペニスの縫い目を指でなぞり、俺の先端から流れ出た先走りの粘液を自分の指に絡ませ、その指を穴に差し入れる。細い指だから痛みは感じない。でもそこは入れる所じゃない。異物が初めて入って来た感覚は、不思議な感じがした。今は慣れたものだが。ほら、今だって彼女が入口の周りを弄くってる。濡れた指を出し入れしていると、その時空気も一緒に入って来るから、腹の中がスースーするような感じがする。体温より冷たい空気が中に入って来ると、分かっていてもゾクリとして声が上がってしまう。もう一方の手は、先程のように裏筋をなぞって俺を高みへ誘う。濡れたそこからは、わざとらしくクチュクチュと卑猥な音が彼女が指を動かす限り鳴り続ける。その音が俺の耳に届くと、俺は自分がこんなに濡らしているのかと感じ、また恥ずかしくなる。でもその恥ずかしさが甘い疼きを生む。それは、また別の快楽だ。
 こうやって俺は、日頃のうっぷんや、ストレスを吐き出している。この行為自体は汚れているけれど、他人がとやかく言うことじゃない。俺のもやもやを取り払ってくれる彼女の存在が、俺には大きい。
 それを認識したのは、つい最近のことだ。
 彼女が消えた日の事。
 彼女は、死んでしまった。
 そこにあると気づかないものでも、なくなると分かる時が来る。それの大事さを。悲しいかな、ある時には分からない。

 俺はエサをもらえないサカナ。
 彼女が亡くなってから、彼女に晴らしてもらっていたうっぷんを、どこで晴らせばよいだろう?
 部屋に戻り、自分のクシャクシャのベッドで、下半身だけ脱いで自分の溜まった欲望を、握り揺さぶった。手の中でそれは大きくなり、樹液を滲ませている。彼女が来ないもどかしさに、これも泣いている。左手を湿らせ、先程から痙攣している入口に差し入れる。俺は独り、ベッドの中でどこか物足りない快感に悶える。
 もっともっともっと。
 手の動きを早くして、事を済ませる。これじゃ事務的過ぎる。俺は足りない物がなんなのか考えていた。なんだろう?彼女は俺になにを与えてくれたのだろう。俺は、鏡に映る自分の姿を見て、ハッとする。そうだ!


 今月10日未明、市内で頻発していた変質者が逮捕された。男は山岸啓修28歳、会社員。……


 彼の堕ちる先は、何処までか。
 もういない彼女が犯した罪は、かくも彼の人生を散らせる………




※ギャグです、ギャグ!(笑)
 ちゃんとまともにエロ小説を書こう!と思ったらば、「僕が変質者になった理由」みたいなものが出来上がってしまった。
 たぶんネギは官能小説は書けません。というのも、話の筋がないと書いてるうちにメチャメチャになってしまう。これが代表例。


2006/01/23 23:36:26