ふたつの欠陥品003


joy


 十代の子供の探究心は留まる事を知らない。
 二人は、貪るように【自分以外の誰か】の体にひどく興味を覚えた。相手の胸に手をやると、同じようにどくどくと力強く脈打っているのが分かる。自分以外に相手しかいない部屋。なのにどうしてこんなに気温が上昇しているのだろうか。どちらの顔も熱を持って火照っているし、狭い所に閉じ込められたように呼吸を荒くしている。
「何コーフンしてやがる」
「!…っ、な、それはオメエだろ、ダインっ」
 二人でぴったりとくっついて漁るように本を読む。毎度毎度ヤラシイシロモノだ。十代の性に対する探究心は、留まる事を止めはなしない。
 二人とも体が大きく歳以上に老けて見られる事が多かった。時折町に出かけて本を買うのにも、もう抵抗がない。だが中身は子供のままだ。予備知識は十分。あとは試したいと思うのが子供というもの。不意にダインの手がぐ、とバレットの股間を掴む。
「…オメエ、だよ。バ〜カ」作業ズボンの上からでも熱を感じる程にすっかり興奮を露わにした勃起をからかうように、ぐにぐにぐにぐに、と揉む。強めに揉んでいるはずだが、起ち上がってしまうと痛みなど感じないのが、自分自身の体であっても不思議なものだ。
「うわっ、ダァ…っ、ヤ、やめろ!ダインっ、大体オメエだって」
 そしてバレットもまたダインの股間に手を伸ばしてジッパーを下ろしながらじゃれ合う。
 どちらにせよ、本を読んでビンビンに興奮しきった勃起チンポを知られてしまった。…というか、じゃれ合う前からお互いに知っていたのだが。そうでなきゃあんな興奮でもわもわとした部屋の雰囲気になるわけがない。何を見てもすぐに反応してしまうのはお互い様だ。
「チェッ、しょうがねえ。やるか…」
 ダインが呟くと同時に腰を浮かせ、自分のズボンとトランクスを下げ座り直す。
「…?何してんだよ」「何、って……おまえも早く脱げ」バレットはダインが何をやると言っているのか皆目分からずポカンとしつつも、自分の以外の、しかも親友の勃起チンポから目を離す事ができない。さっさと動かないバレットにしびれを切らせ、ダインは馬乗りになるようにバレットのズボンに掴みかかった。二人はまたじゃれ合いながらもみくちゃになりながらも、ちゃっかりダインはバレットのトランクスとズボンを部屋の脇に丸めて投げたのであった。
 バレットはハッキリ言って不服である。ダインは半端にパンツを下ろしているだけ。しかしバレットは下半身丸裸である。それを不快感露わな表情のまま申し立てようとしたところ、
「バレットも早くやれって…」
 ダインが自分のチンポを掴み、ごしごしと擦る。その目は興奮の眼差しでエロ本を見ている。その姿はバレットにとっては本なんかよりも実に官能的に映った。「おぅ…」と、返事は小さいが自ずと股間に手が伸びていく。本の中の女はムリヤリ犯されて悦んでいる。嫌だ嫌だと口では言ってもよがって、最後には気をやっている。――…なら、目の前の男はどうなのだろう? そんな事をいくら考えても答えはないが、考えるだけで興奮は高まりオナニーする手の動きは速くなってゆく。ダインの方もそうだ。ふと、爛々と情欲に燃え光る妖しい瞳と、目が合う。
「本、要らねえかも」
 ダインはバレットが思った事を口にする。バレットは自分が思わずぽろりと呟いてしまったのかと一瞬、勘違いしたほどだ。だが、間違いなく今の言葉はダインが口にした事である。その証拠にダインは本から目を離し、バレットの側を向いた。「お・ぉ……すげ…」吐息に近いダインの声。その目は親友の股間に釘付けだ。
 親友同士と言えど全く別の人。分かりやすく言えばダインとバレットは肌の色も違うし、体の大きさも違う。バレットはダインの白い肌がひどく眩しく見えたし、黒いよりも白い方が筋肉の線もよく映えるし、スタイルだってよく見える。身長だけならバレットよりも大きいのだが、筋肉質でよく締まったその体には女とは違った独特の色気のようなものがある。日焼けの痕も健康的で好きだ。何より、こうして興奮に身を任せている姿を見れば、色白というのはすごく得なものだと思う。桃色に色づく体はとても魅力的としか言いようがない。
 そうバレットは思っていたのだが…、ダインはまた逆にバレットの体を舐めるように見つめながらその体を褒めちぎり始めた。
 濃い肌の色は男らしい色香を伴い、ダインよりも数段分厚い胸板は薄暗い部屋に射し込む光に照らされて、汗の流れすらくっきりと映し出す。ただし、今は薄いシャツが邪魔だが。しかしどうにも尖って主張する乳首の存在がイヤラシイ。それに汗で張り付いたシャツが隆々と盛り上がった筋肉の線を浮き立たせている。それはそうだろう、絨毯に付いた手とチンポを擦る両の手には時折、血管が浮き上がっている。腹につきそうな程に起ちあがった勃起チンポは赤黒くびくびくとバレットの手の中で脈打っている。まるで鼓動すらも聞こえそうな程に。それと同時に我慢汁を先端からたらたらと垂れ流している姿は、実に性的な興奮を誘った。色黒というのは顔色の変化はあまり分からないが、汗の流れ落ちる様をまじまじと見る事ができるのがとてもよい。何より、黒くて分かりづらいその頬を赤く染めてみたいという支配欲もムクムクと湧いてくるのである。しかもその相手が自分よりも逞しい肉体の持ち主だというのだから、余計に支配欲は満たされるはずだ。
 ダインはその想いの全てを口にしたわけではないが、どのように思っているのか、それを告げつつ現在のバレットのあられもない姿を事細かく彼自身に聞かせながら二人でオナニーを続けていたのだった。バレットは「言うな、言うな」と唱えながら、その言葉とは逆に見られる事にひどく興奮を覚え、そして自分を見ながらチンポをシゴき続ける親友の痴態に激しく興奮を覚えていた。そうしながら二人は、若い精を親友の真ん前でまき散らし果てた。

「バレットの方がデカイ」
「あんま、見んなっ…!」
 二人でオナニーを見せ合ってザーメンを飛ばし合った直後、先程の硬度を失ったチンポを拭こうとその場で膝立ちになりながらティッシュを取ろうとしているバレットの姿を見ながらダインはボソリと呟いていた。しかし何がボソリなものか。股間にぶら下がるモノの大きさを測るその言葉に思わずバレットはツッコミを入れていた。まだ親友は股間から目が離せないでいるらしい。そう思うと羞恥に顔が火照ってくるのが分かる。余計な事は考えずにティッシュでザーメンを拭くべきだ。お互いの吐き出した精液は、白く互いの服を汚していたのだから。
「ホラ、ティッシュ、…………あ。な、何で…」
 バレットがダインから目を背け、否、背中さえ向けて互いが服を清めんがために探していたティッシュを見つけた時には、ダインの股間は再び戦闘態勢に起ちあがっていた。どうして元気な状態に戻っているのか分からず、だがまた凝視してしまうバレット自身でもあるわけで。それを見ているとバレットも再び興奮してしまった。
「何で、ってホラ、バレットが四つん這いになってティッシュ探してんの見たら、さ」
 彼らは何にでも興奮する、ちょうど興味のある世代・華の十代である事を忘れてはならない。
 くちゅり。まだ拭いてもいない互いの肉棒同士が触れ合う。その思いがけない行動と感触に「はっ!」と大きくバレットが吐息する。ダインが身を寄せて来たのである。どちらもガチガチに勃起している。今度はお互いのチンポを擦り合わせて快感を共有しよう、それもダインの頭の悪い意見だ。分かってはいても、親友の魅力的な意見には抗う事ができないバレットであった。
 厭らしい水音をグチュグチュと立てながら、二本のチンポは激しく擦り合わせられていた。まるでセックスするように向かい合って、唇を合わせながら座り二人で腰を動かす。互いの我慢汁でぬるぬるになったソコは、滑りが良すぎて時にぬるん、と滑って体のバランスを崩す事さえあったほどだ。
 その時バランスを崩してのしかかってきたのは、ダインだ。圧し掛かるようにダインはバレットの両方の脇腹の横に両手を付いた。その際にバレットは後頭部をがっつり打ち、「痛っ」と思っていた所だ。視線を上げると上から見ているダインと目が合う。真剣な表情。…と、股間に熱いモノが押しつけられた。ソレが何かなんて、この状況で理解できない方がおかしい。ダインの勃起の硬さがぐりぐりと、尻と股間に押しつけられている。もちろん挿れようとする動きではない。だが、押しつけられている場所はあまりにも下方にありすぎた。バレットはその事に違和感を持った。が、不快感は我慢汁のお陰でほとんど感じない。ぬるぬると尻と付け根の間をダインのチンポは行ったり来たりするように、押しつけられている。その動きに合点のいかないバレットは非難の声を掛ける。
「っは、…スマタってヤツ、じゃねえの」
腰の動きは止めずに、ダインは何とも大胆な答えをバレットに投げかけてくる。
「オっ…オレは女じゃねえーーー!!!!!」
 バレットが否定しても、動いている腰を止める事は不可能だ。摩擦はとても感度を高めてくれる。敏感なソコは実に回りくどく、じれったい快感をバレットに与えてきた。キンタマとアナルの間の縫い目の部分、つまりは蟻の門渡りという箇所。そこを強く激しく擦られているうち、気持ちよいと感じていた。もちろん我慢汁が潤滑油となっていたせいが大きいだろうが。
 互いが吐く息が同調していく。はぁはぁ、と顔も近い位置でどちらもすっかり平静を失った状態を晒して腰を振ったりしがみついたり…。上気して目も虚ろになった顔が互いの眼前にあった。いつもの親友ではない。だが、非常に色っぽい。口にはせずともそれを互いが互いに思っていた。そんな所だけは以心伝心。――だが、互いにそう思われていた事を知る由もないのだが。
 擦りつけていたダインが先に吐精した。そのザーメンはバレットの顔の近くまで飛び、胸辺りに飛び散った。さっき一度出したというのにしっかりと白濁したザーメンは、有り余る性欲を示すかのようだ。それから程なくしてバレットが精を吐き出す。腹につくほど上を向いたチンポから溢れだしたザーメンは自分の顔の方へと噴射した。


 互いに呼吸が整ってから、バレットが手元に手繰り寄せていたティッシュ箱からそれを抜き出しザーメンの処理をしていた。二人とも二回射精したのだ。部屋の中は男のにおいと汗のにおいが充満している。汗に濡れた体は少々冷えていたが構う事はない、窓を大きく開き空気の入換えをしながらザーメンを拭き取る作業に没頭する。そして互いの服がきれいになってから、ダインがバレットの顔をぐ、と引き寄せて乱雑に顔を拭いてやる。自身では自身の顔の状態など分からない。それはダインの優しさだ。乱雑ながらも丁寧に拭き取りながらダインはバレットを見つめた。その目は真剣に、爛々と輝いている。
 バレットと見つめ合った時間は数秒という所だろう。片手で収まる程度の時間。ダインは一言も口にしない。口にしないながらもその真意をバレットは掴んでいた。そしてそれには言葉にはできないが、確信があったのだった。

   『挿れてえ』

 ダインの眼はそう訴えていた。今現在、決まった恋人がいないせいかもしれない。今日はたまたま盛り上がってしまったからかもしれない。さっきまでの行為が気持ちよかったせいかもしれない。もしかしたら、バレットの事を想ってくれているのかもしれない。
 答えがどれか、などバレットには理解できなかった。だが、答えなどどうでもよい。そう思われる事に意味があったのである。



 バレットは瓦礫の不快な空気に噎せながらそこを後にした。
 初めてダインと間違いを冒した場所、そして、間違った快感を覚えた場所。思い出しただけで呼吸は乱れ、胸は早鐘のように素早く激しく打ち付ける。何を感じてもダインは彼の隣には戻ってこないというのに。
 素早くバレットは朽ちた屋内に転がり込んだ。こんな失態をコレルの連中にも、クラウド達にも見せるわけにはいかない。
 転がり込んだ家は自分とは無関係の家だ。半分は瓦礫に埋もれたようになっている。崩れた家屋だったが、外から見られる心配もない様子だ。屋根が斜めに倒壊しているので、外からは瓦礫になっていない窓からしか見る事はない。そしてこの家はしばらくの間誰も暮らしていないようで、生活臭がしなかった。
 バレットは体を投げ込むように家の中に身を潜ませる。数秒待って、追手がない事を確かめる。もうこの火照った体は待ってくれそうにない。ダインとの思い出によって今まさに勃起しヨダレを垂らして刺激を待つチンポが、ギンと真上を向いてバレットに訴えかけていた。
 半倒壊した家の古くカビ臭いソファに体を横たえると、すぐに足元近くまでズボンを下ろして事に取り掛かる。手慣れたオナニーはすぐに敏感な鈴口をくりくりと刺激し、カウパーを滴れさせる。バレットはソファの寄りかかるべき所に足を乗せ、楽に腰を上げるように仕向ける。どろどろの粘液を先端から根本、玉袋、尻穴にまで余す事なく塗り伸ばしていく。股間はバレット自身のカウパーでぬるぬるの状態にしていくのだ。
 それは、ダインの燃え盛るような激しい瞳を見てから、ずっとこうしてオナニーしてきたのだ。もちろんダインには黙って、だが。言わずとも親友はこの恥ずかしい姿、きっと分かっていただろうが。



「彼女とヨロシクやったそうじゃねえか」
 二人でオナニーを晒し合った日から、そう遠くない未来のある日。ダインはそう切り出してきた。よく知ってるな。とバレットは冷たく返す。意外にもモテそうなダインより先に童貞を失ったのはバレットだった。彼女と長く付き合う気質もあったし、彼女が年上なのも手伝っての事だ。いつの間にやら童貞喪失の話は皆に知れ渡っていたようである。気恥ずかしい事だっただけにバレットは口を噤んでいたはずなのだけれど、こういった話は尾ヒレが付いて周囲にぶら下がっているものだ。
 初体験とは実に情けないもので、特に相手が年上ともなれば余計にカッコワルイ姿を晒すもの。そしてバレットもその餌食となった一人だ。今まで本などで勉強してきた事はなんだったのか…。彼女といざ事に進もうとした時に頭が真っ白になってしまい、しっかり経験済みな相手にリードして貰ったというナサバナの一話が出来上がった。…それだけの話である。
 彼女は感じていてくれていたのか。むしろ、それ以前の話。喘いでいたのか、笑っていたような覚えはあるが、それはどんな笑みだったのか。そんな事の一つ一つが真っ白頭のバレットには「記憶にございません」だった。唯一覚えているのは、自分が達した後に彼女は慈しんでくれた、それだけである。
 期待した初体験の思い出を待つ親友には悪いが、そう告げるだけだった。どうせ嘘を吐いた所でいつかバレるだけだ。
「う〜〜〜ん、まぁ噂によると……そんなモンなのかもしんねえな。あ、でもフェラは?」
 ダインの侮れぬ性欲というのはここにある。すぐに発想の転換をするのだ。頭はよく働いている。エロい方向に。そしてバレットにはフェラチオをしてもらった事などない、それだけは明白だ。ふうん、とつまらなさそうに鼻を鳴らしたダインが次に続ける言葉はもう分かり切っていた。親友と呼び合うのは伊達じゃない、それだけ長い付き合いで、それだけお互いの性格を解り合っているという事だ。
「興味………ねえ?」
 刺激的で、実に興味深い誘いに抗えないのは、初体験を済ませてからでさえ変わる事はない。

 口に含むソイツは実に厄介なシロモノだ。硬いのに柔らかで、ビクビクと時に蠢き咥える動きを阻もうとする。滲み出てくる汁は脳髄を犯すように思考を奪ってゆく。邪魔な動きを止めるために手を添えて、それを阻止しなければならない。そうしながらも上下に扱くように手を動かすと彼はその快感に低く呻きを洩らす。それは心地好い一時なのだと初めて気付く。気付く事でソレを口に含む嫌悪感のようなものは無くなった。先端にキスをして、軽く鈴口に溜まった淫汁を吸い上げる。カリ首に舌を伸ばして軽く刺激してやり、鈍感な竿にはごく軽く歯を立てるように唇を当てていく。ぢゅうぢゅうと音を立ててやると、ガマンを抑えていたかのようにビクリと反応し、竿には先程よりもくっきりと筋が浮かぶ。先程吸ってやったばかりの我慢汁がまたねっとりと先端に溜まっている様を見ればすぐにそこに舌を這わせ、垂れる前に舐め取ってしまう。その間じゅう、しゃぶっている間に忘れてしまう事もあるが、根元を握った手が上下にゆるゆると擦る動きも加えられている。
 急に口の中に更に深く押し込むような動きが加えられる。息が荒い。もはやどちらの呼吸の方が荒くなっているのか分からない。それ程に部屋内は呼吸音と、水音のようなものと、摩擦音、その三つだけに支配されていたのだから。

「…ッ、ゲホッ、ガッ、…グホッ…ん、んぐぅう…」
 ダインの精液を嚥下するバレットの姿があった。初めて飲み干そうとする男の精液は実に旨いとは言えないもの。生臭くそのあまりに噎せ返るような有様。飲み切れないザーメンは顔と胸元に飛び散った。口元に残ったソレを拭いながらも唇に残ったものは舌を伸ばして舐め取る。
 エロ雑誌のように飲み干したバレットに、お礼のつもりでダインもすっかり勃起した股間にキスをした。どうしてもまるっと飲み込むような気にはなれず、そして、そう強要するわけでもない親友にダインは甘える事にした。
 バレットは有無を言わさずその大きな口をあんぐり開いてできる所まで咥えてくれた。ダインが腰を動かして更に奥まで擦りつけても、文句を言うでもなく咥えて飲み込んで吸い付いてくれた。しかしダインはその気になれずにいた。オナニーして生臭いザーメンを吐き出すチンポにしゃぶりつく気には。なので自分がやるように竿を擦りながらカリをぐりぐりと刺激しつつ、たまに舌を出す。要するにあまり舐める事はないように行動していた。
 舐めないせいか我慢汁はトロトロと下へ向かい、竿を濡らし縫い目を濡らしていった。もちろんその先にあるのはアナルだ。濡れたアナルがヒクヒクとダインを誘っている。…ようにダインには映った――否!…ダインが前に挿れたいような表情をしてから、少しずつバレットはアナルに目覚めていったのだ、と前述している。しかし、バレットからの直接的なアプローチはない――。だからと言ってそんな所にすぐに突っ込む程、理性がないわけではない。ソコは糞をひり出す所だと思えばこそ、すぐ突っ込む気になどなれない。ソコが清潔であるという事実が分からない限りは、大事な部分を捩じ込む事などできはしない。そこまで野獣ではないのだ。
 なのでダインはバレットのアナルを三本指で擦りまくった。内部にぬるりと入り込まないように気を付けながら。そうする事でバレットは、実に分かりやすい動きをした。擦るたびにビクビクと腰を跳ねさせ、自分から擦り付けるように腰を振り出した。この動きの示す所は実に単純で、「アナルの周りは気持ちいい、もっと擦って」と言わんばかりである。まったくもって浅ましい姿を晒しているのだが、バレット自身は気付いていない。
 しかしバレットはふと気付く。親友の目が自分を見ている事に。あられもない姿をしている事を理解させられて、顔が真っ赤に染まる。元より黒い肌の色のせいで目立たなくとも、これだけ耳まで熱を持っているのだから、きっとダインが見れば一目に分かる事だろう。しかし赤子のように足を開いた姿を晒したまま静止しているのには、なかなか耐えられるものではない。態とらしくならないよう気を使いながら足を閉じようとするが、やはり態とらしくならないように、など無理なのだ。ダインが足を掴んでいる。
「コッチでオナってたのか?随分気持ちよさそうだけど」
 ダインが望んだからソレを始めた、なんて言えるわけもない。イエスもノーも口にできなかった。その間じゅうあまりの恥ずかしさに顔から火が出そうになっていた。ダインの話はいつも単純だ。もしアナルでオナニーしていたのなら、どういうふうにやっていたのか見てみたい。とこういう話だ。言うのは簡単だが、親友の目の前でそれをやれと言われてやる……その背徳的な行為に踏み切る事はできない。バレットは首を横に振る。ダインにしてみれば、マングリ返しのような格好をさせられている今を考えれば、ケツオナニーぐらい何という事はないように思われた。それに少しだけ視線を上げれば嫌でも目に入る勃起は収まる様子もない。気持ちいいようにやって、吐き出してしまえばいいのにと思う。放っておいても物足りない様子で腰は揺れているのだし。
「…………指、…入れたりとか?」
 バレットは黙っている。ただし、ダインのこの質問でハッキリしたことは、ダインはアナルに興味を持ってしまったという事実だ。そう考えるだけで心臓が跳ねあがるように激しく鼓動をうつのを感じる。だがバレットは答えない。
 答えを強要するようにダインは先程よりも強い口調で同じ質問を繰り返す。ダインの指がひくりと動く。生きているのだから当然である。だが、それだけの事にバレットはひどく欲情した。ダインに「指を入れてるのか」と問われ、彼の指が動く。それは彼の指がナカで動く事を彷彿とさせる。



 ダインとバレットは狭い風呂場にいた。
 どくどくと脈打つチンポは置き去りで、指はバレットのアナルにもう二本も入り込んでいる。石鹸の泡を塗り伸ばしてローションの代わりにした。ぬるり、もう一本、指はナカへ潜り込んできた。思わず足を風呂の縁に座るバレットが呻き声を上げる。
 先程ダインが問いかけて望んだとおり、バレットはアナル弄りを披露するハメになった。肉棒がはちきれんばかりにその欲望を示していたし、彼自身も性的な興奮を抑える事はできなかったのである。そして、初めてやった尻オナニーは風呂場だった、という話になり、それを実践しているまでだ。
 どうしてそんな事をしたのか。今この際それはどうでもよかった。バレットも自分の体と言えど、さすがにケツの穴にガーッと指を入れたりする気にはなれず、風呂場で始めてみた。それはやはりこの間のスマタ事件があったせいだと…小声で付け加えておく。ただし、あの時の縫い目から尻穴にかけてを激しく擦られたのが気持ちよかった、という事は伏せて、だが――とは言っても、一部始終を見ていたダインにはモロバレなのだろうが、そんな事はバレットの知る由もない――。
 何にでも反応する少年と青年の間の年齢であるダインは、ごく普通に考えれば男臭さすら漂うバレットの尻遊びの姿にすら反応を見せた。地域柄ゲイも多いコレルではバイセクシュアルは珍しくない。ダインもまたそうなのだというだけの事だろう。ついさっきバレットの顔やらを白く汚したはずのチンポは早くもその欲のカタマリを擡げ始めていた。ちらとバレットがダインの股間を確認すると、それに呼応されたかのように彼のモノも反応した。



 その日は、ソレ以上の事は何もなかった。二人でオナニーし合って結局は事を終えたのである。ある約束を残して。
『機会……あったら弄ってみてぇなぁ…』
 ダインの呟きはどこまでも官能的である。バレットはそんな親友を無碍にできない。
『…あれば、な』小さく、それだけ返すのが精いっぱいだった。本当はスゴク期待しているのに。


 そして今バレットはそんな親友の姿を思い出しながら、自分のカウパーだけでヌラヌラ光った尻穴の入口をくちゅくちゅと弄っている。我慢汁と腸汁が溢れて濡れる。あんな事をした当時は尻穴の周りにワサワサと生えているこんな毛などなかったのだが。腰を下ろしたソファには、早くも我慢汁が垂れてしまいそうな勢いだ。指はずぶずぶと飲み込まれていき、やがて根本しか見えなくなった。あの当時よりも太く節くれだった可愛げのない指ではあるが、バレットの弱点を知り尽くした指だ。
 現在、間違いなくこの近くにいるダインの指はどんな指になっているだろう。数年間触れていない指を想う。そして数年前触れた指を思い出す…。
 ダインの家でもバレットの家でもないここ。そんな場所でさえ乱れる事が出来る。本当に今、親友の指を感じる事が出来たのなら、それはどんな官能なのだろう。妄想は興奮を呼ぶばかり。初めて、自分以外の誰かの指を感じた時の事をまじまじと思い出す。
 快楽は波のように記憶を昔へと攫う。共通しているのは快感と、鼓動の激しさだけだ。