ふたつの欠陥品001


joy


 ‘星を救う旅’…
 ひょんなことから始まった、息の合わないクラウド達との旅の途中、バレットは故郷であるコレルに足を踏み入れてしまっていた。
 故郷。バレットは嫌いではない。むしろ、そこは亡き妻との思い出の地でもあり、しかし、親友と別れた悲しき地でもあり…、そして、迎える人、人…人。ティファも息をのむほどに彼らはバレットに対し敵意をむき出しにしている。「死神」呼ばわりして。その理由をバレットは思い出したくも、なかった。
 そう、理由を思い出す事は、生き別れた親友との思い出を蘇らせることになる、だからである。



 四年前にもなる……。
 魔坑炉の建設は本格的なものとなっていた。バレットは賛成派であり、町の住人は殆ど賛成派だった。だが、親友のダインは数少ない反対派であった。現在のバレットの立場とは真逆な雰囲気。ダインは村の者たちに石を投げられたり、罵声を浴びせられたりしていた。
 だが、ダインはそれに動じる事はなかった。今のバレットとは、違う。これこそが、自分にとって正しい道だ。そう信じて疑わない。芯の強さは周りの者の心にこそ響かなかったが、石を投げつける手を止めさせるには、十分であった。
 むろん、ダインは炭坑の町の男らしく図体のデカイ男であったし、腕っぷしはそこらの炭坑夫になど負けた事はないのではないだろうか。当然子供ではないのだし、ケンカうんぬんの話はそう最近にはないのだったが。
 バレットは何度もダインの傷を手当してやりながら、諭したものだった。
「なぁ、オレはやっぱりミーナをラクさせてやりてえし、何より、炭坑夫なんざあこの‘カガク’って世の中にゃあ時代おくれ…ってモンじゃねえかって。ハッキリ言っちゃぁ悪ィけどよ、コレルの町もそんなに治安がイイワケじゃねえじゃねえか。そのう…、マリンも生まれたんだしよ、もう少し考えた方がいいんじゃねえのか?ダインよう…」
 炭坑の町・コレル。
 ハッキリ言って町全体の様子としては、ガラの悪い男どものせいで他の町には劣った所がたくさんある。腕っぷしの強い男どもがうようよしている。むしろ、女の人口は相当に少ない。結婚した男どもは他の町に移っていく事も多い。その理由は、運よく貰った嫁がレイプされる事件も少なくない。真面目な炭坑夫もいるのだが、ろくでもないゴロツキも多い。だが、それは見分ける事などできない。
 しかし代々コレルに暮らすバレットやダイン達のような者らは、やはり故郷を捨てることなど簡単にできないのだ。今まで彼の父や、祖父や曾祖父らが守ってきた地なのだ。そう思うと…彼らはそこを動く事はできないのだった。そしてそれは、彼らの愛する嫁もまた、そういった気持ちをよく理解してくれたのだから。
 ならば。とバレットはダインを説得にかかる。この地を動かないのであれば、ここをよくする方法を考えればいい、と。
「それでよくなるんなら、…神羅サマサマ、だな!」
 嘲るようにダインは唾を吐く。神羅の【神】の字を更に笑いのタネにした。
「カミサマサマサマ・カンパニー、とでも名乗ればいいんじゃねえのか、クソヤローどもが」
 クチの悪さは一級品だった。これはダインに限らず、炭坑夫らの特徴でもあるのだが。

 そんなやりとりの末、ダインが正しい物を見ていた事が判明するのだが。
「だい、…じょうぶ?」ティファが心配そうに声を掛ける。バレットはそんな声を振り切り、一人にしてくれ、とその場を後にするのだった。ある思いを胸に………。



 バレットの胸の内、どくんどくんと落ち着かずに激しくなる動悸を抑えようと、何度も一人で深呼吸をしては姿勢を正したり…、を何十回と繰り返している。忘れたくても忘れられない思い出が脳裏をぐるぐると廻り、うざったいほどに興奮してくる。どうしてよい思い出というものは色褪せずに、逆に色を鮮やかにしていくものなのだろう。
 バレットの心の奥にしまってある記憶は、クラウド達にも、妻であるミーナにも、そしてマリンにも、誰にも口にすることができないものであった。
 幼い頃から正反対であり親友であった彼らは、正反対にも関わらず、どこか似たところがあったのかもしれない。反対の意見を言い合っていても、時にふと話がかみ合ってしまうことがある。不思議なものだ。
 十代中盤、お互いに初めて恋人ができ、デートを楽しんだ。その時期はまるで口裏を合わせたかのように殆ど変わらない。
 こんなものだから、バレットはダインの、ダインはバレットの恋愛の相手や、そのいきさつ、悩みや別れについて、お互いに知らない事はない。不思議とバレットの方が美人と付き合っていたのがまた謎なのだが、それは別の話――好みの問題かもしれない――。

 バレットの胸に熱く残る記憶は十代の後半から二十代中盤まで続けられた思い出にあった。
 どく、どく…と高鳴る胸の音を、元は利き手ではなく失ってから矯正した利き手である左手を胸に当て、深く感じた。「……ダイン…」小さく親友の名を呼ぶ。記憶はその当時に遡れる。いつであっても。