世界崩壊の過程ととある二人の物語2




 三島一八に監禁され、好きなように嬲られた日は突然に終わりを告げました。彼はどうやら私の身体に飽いたようです。ですが、それは私が思っているだけのことであって、彼の思いなどは私のような若輩者には分からないのです。抱かれながらもただ、辛そうな彼の紅い眼が私を見る時、何を思っているのだろうと何度も思ったものです。結局、私には彼を分かってあげられなかった、あの日々は何だったのかと思うばかりです。もちろん、あれは愛や恋などではありませんでした。彼のデビル化を何とかしたいと思っていたのでした。私も彼も、そんなことなど思ってはいませんが、ならばどうして彼は私とあんなことをしたのでしょうか。女の私には、その気持ちは一生かかってでも分からないものなのかもしれません。それは、少し腑に落ちない気がしますが、彼と私はべつの人間なのですから、仕方のないことなのでしょう。起こったことのすべてを嘲笑うかのように、ある日私は今まで感じたことのない不快を覚えました。具合が悪く、嘔吐を繰り返し、食べなきゃならないと思えば思うほど吐き気が、食物のニオイだけでもそれはとても不快なものでした。歩けばふらつき私は途方に暮れました。その時、私は一人でしたから病院に行くのもそれは苦行のように思いました。病院に行った際に聞かれた言葉で、ハッとしました。お医者様は何食わぬ顔様子で、私の背中を摩りながら洗面器の中に嘔吐する胃液を見て言ったのです。
「調べてみないと分からないけど、妊娠じゃないかな。憶えはありますか?」
 ある。
 思い当たる節は、三島一八にだけはありました。どうして今までピンと来なかったのだろうかと、自分自身に対して悔やまれるばかりでした。女として、私は彼とのあの時の関係に関し、全てを拒否したかったのでしょう。それは感情論。しかし、彼との子どもを身籠ったとなれば私は、拒否することは許されないのでした。私はどうすべきなのでしょうか。妊娠検査薬を念の為使ってくださいと言われ、その結果は言うまでもなく子どもが出来ているという結果を突きつけられたのですが、嫌だとは思いませんでした。これもさだめなのでしょう。そう、すぐに思うことができました。三島一八の魂を救うことができるかもしれないなどと、私は愚かにもそんなことを願ってしまったのです。彼は本来ならあのような人ではないはずなのです。私は、そう信じているのです。そう思えば、私は彼との子どもを護りたいと思いました。医者は「おめでとうございます」と遠慮がちに微笑んでくれました。それほどまでに幸せそうな顔を私がしていないということの表れなのだろうと感じました。ですから、せめてこの場だけでもよいのです、私はにっこりとお医者様と看護婦さんに向けてにっこりと微笑み返しました。体調は相変わらず悪かったので、あまり上手くはいかなかったようですが。



 ようやく悪阻も治まった頃、三島一八と会う機会に恵まれました。私は彼に子どものことを言うと決めていました。それでもいざ口にするとなると、とても緊張してしまいます。彼がどんな行動に出るか分からないから余計にです。もしかしたら、そんなのは殺せと言うかもしれません。否、そう言って暴力行為に出る可能性は高いように思いました。しかし、いざ言ってみると彼は「要らん」と言ったのみで、私の方をちらりと見ましたが、それ以上でもそれ以下でもありませんでした。子どもにも、私にもどうやら興味はないようです。本当なら言いたい言葉はありました。ですが、何と言葉をかけたらよいか分かりませんでした。私の口からは何の言葉もでないまま、三島一八は私の前から姿を消してしまいました。今でも、何と声を掛けたらようか思い浮かばないのです。彼の心へ響く言葉など、私には浮かばないのです。まだまだ未熟だと言う他ありません。



 私は三島平八氏の所へ向かうことにしました。孫の存在は、彼は知らなかったようです。お腹の大きくなった私の姿を見て、平八氏は意外そうに眼を大きく見開いて聞いてきました。まさか、自分の息子が、などとは露と知らずに。私は包み隠さず話しました。そうすることが最良だと思ったからです。もちろん、そんなに悪いことを口にしたわけではありません。なるべく他意を込めないよう話したつもりです。三島一八の起こしたことは確かに、私から見れば犯罪なのですが、それによってこの子が命を落とす必要などないと私は思っていました。私は産みますと平八氏に告ました。また彼は驚いたようでした。それはそうでしょう、願って産まれる子ではないことを、私が口にせずとも彼は分かっているからです。しかし、子に罪は無いのです。それは分かって欲しかった。私は強く、もう一度平八氏に言いました。
「産ませて頂きます。是非、お孫さんの顔を見て欲しいと思ったものですから」
 平八氏は複雑な表情を浮かべます。その気持ちは、まだ親になっていない私ですからそれほど理解できるなどと穿った気持ちはありませんが、それでもある程度は理解できます。孫を見たい気持ちはある。しかし、息子があの調子で、デビル化してもいるし、正気ではない。それを思うと喜ぶだけでは足りない気がする。でも、鬼でも蛇でもないのだから喜んでいないわけでもない。そんなところだったのでしょう。平八氏は何も言おうとはしませんでした。ただ、私を見て言葉を失っていました。愛がない行為を思ったのもあるのでしょう。それが幸せを生むはずなどないと、彼はむかしびとですからそう感じたのかもしれません。しかし、私はそうは思わないのです。なぜなら、絶望は人を陥れますが、そうなるかならないかは、やはり当人の前向きな姿勢にもかかっていると、そう思うのです。前向きな姿勢こそが、幸せを呼ぶような気がします。勝手で幸せな思い違いなのかもしれませんが、それでいいと私は思うのです。何かを信じることで、人は救われるのですから。そして、何もかもを信じられない三島一八は…、私は彼のことをデビル化した可哀相な者だと思うばかりです。彼を救ってやりたいと思うのは、決して情ではありません。私がその力を持っているためです。それだけのことなのです。私にはデビル化を浄化する力を持っているのです。そして、その力のせいで引き寄せあったのかもしれないのでした。私と、三島一八との存在は。だからこそ、こうして身籠ったのかもしれません。それ自体に意味があるのだなどと偉そうなことを言うつもりはありませんが、無意味だとはとても思えない、そんな思いの丈を、私は平八氏にぶつけたのでした。
 もしかしたら、と私は思っていたのです。それは淡い願いに過ぎません。そして、恥ずかしくて言葉になどできるものでもありません。けれど、そうであってほしいと願うばかりのその思い。私は誰かに打ち明けたくてたまりませんでした。でも、平八氏には口が裂けても言えませんでしたけど。その思いとは、私にとって、ただひたすら都合のいい願いであり、恥ずかしい願いだったので。それは誰の耳にも届くことはない、私の心の中だけの淡い、けれどもとても強い願い。私は三島一八のデビル化の力を浄化する力を持っているので、交わりを強くすればするほど、彼のその忌まわしい潜在能力はなりを潜めていけばよいのだ。交わる度に彼が人間に戻っていくのならば、私はこの身を捧げても、もう構わないのだ。そのうちに情が湧くことがあればそれはきっと幸せに感じることだろう。むろん現段階でそのような温かな心持ちになることはないのだが、しかし、そうなることを望んでいる気持ちもあるのです。私とてただの女であるのだし、人間であるのだから身を任せる幸せを願う気持ちがないわけではないのです。それを三島一八に寝返るかどうかと問われれば、理性的に考えればきっと無理でしょうね、と答えざるをないのでしょうけど。それでも普通に戻った彼を見ることができたのなら、それは今よりもきっと、確かに幸せな何かなのでしょうから。ただのていのいい現実逃避かもしれません、このようなくだらない思いなど。
 私は平八氏を後にし、お腹に宿った新たな命を抱いて家に戻りました。夜眠る時、私はぼんやりと思ったものです。私は、私自身が思っているよりもずっと、この子を愛しているのだなぁ、などと。だからこそ、三島一八のデビル化がなくなることを、誰よりも強く願ってしまうのだと思ったのです。彼という人を何一つ理解しないままに体だけをつなげたことを後悔しないはずはありません。けれど、そうすることでしか今の彼はいられないことも分かっています。ならば、それを許してあげることで、彼が救われればよいと私は思うのです。彼よりも、彼の遺伝子を継いだこの子のためにも。両親がいがみ合うほど子どもにとって嫌なものはないのですから。そう、認知など要らないから、ただ、見ていて欲しいと願うのです。私は、平八氏に見守られながら三島一八のデビル化を浄化したいと思うのでした。



 数奇なさだめを持つこの子にとって、ああ、少しでも幸せが訪れますように。少なくとも、私も平八氏も、お前を要らぬ子だなどと思ったことはこれっぽっちもないのですよ。



13.05.03

一八と風間準の話。準パート

なんだかだんだん気持ち悪くなってきましたねw
いや、嗤うしかwww
アンノウンのせいかな??

結局、このシリーズは一人称でいくようです。
風間仁出生秘話的なものを書こうと最初から思っていたので、こんな感じになりました。もちろん後から風間仁出ますよ。
いのまたむつみさん大好きな風間仁。

グロいシーンとか書いてないのに、勝手にグロいなぁ、と思うのはなんなんでしょ?
レイプネタで単にグロい!なんて思うほどウブじゃねぇーし。ようわからんです。

青春
2013/05/03 21:06:23