騒がしいのは変わらない



「みんなで鍋パーティしない?」
 春休みだし、と夏目が言い出した。神崎組とレッドテイルのメンバーで集まるようになったのは、ここ数ヶ月のことで当たり前のことだった。LINEでつながっているメンバーの夏目と花澤が中心になって勝手に決めたらしい。もうほぼ決定状態になっているにも関わらず、難航を極めたのは邦枝の家にするか、神崎の家にするかでちょっとだけモメたことか。でも結局は神崎の家に集まることになった。自由がきくわけがない、あの頑固な爺さんがいる家では。
 その日は誰も、家族がいないように神崎がうまく取り計らい、確かに誰もがいない空間の家に集まった。日取りもよかったのだ。大型連休で神崎組はワラワラと社員旅行的なものに出払う。それを狙ったのかもしれなかった。毎年の行事の隙間、神崎と言えど毎年行われるなんちゃらを忘れるほどアホではない。だが、それを口にしない以上、周りの誰もが「ラッキー」と言うしかないのだ。何より家のことに深く触れようとすると神崎は嫌がるのであるし。
 大鍋に野菜を先に投げ入れてから煮立つのを待つ。高校生の間なので当然「肉、肉!」とメインディッシュをせがむ声も、肉食系女子から聞こえたけど、意外にも鍋奉行な城山がそれに耳を貸さず黙々と鍋を作っていく。グツグツと煮立つ度に鍋の良い香りが部屋の中を満たしていく。その様子を目を細めて見つめるレッドテイルの面々。神崎組の二人は城山の家庭的な様子など見慣れたものであるからだ。
「城山ッチさん、いいお嫁さんになりそっスね〜」
「……心境としては、複雑だな」
 言葉も静かで、表情も変わらず城山は淡々とそんな言葉を返す。夏目がそのまっすぐな花澤の言葉に吹き出す。「お嫁さんって」と笑い、花澤の方を見て随分前から気になっていたことを話す。
「でさ、由加チャン。最近、神崎くんとはどうなってるのよ?」
 その言葉に神崎が啜っていた鍋のつゆに盛大に噎せた。いずれ、そんな話になるだろうことは分かっていた。でも、やっぱり面と向かって聞かれればひどく照れ臭いのだった。

 色気など皆無に近い二人が、いろんな学校行事や悪魔野学園やらのイザコザを通して好き合うようになったのは、自然の流れだったと当人たちも思っているし、周りも分かってはいる。背中を押したのはレッドテイルの花澤以外の誰かだったり、夏目だったりしたのだけれど、想いを伝え合った瞬間は、ほんとうに感動的だった。「好き」という言葉が、好きな人から聞ける嬉しさ。嫌われているわけじゃないのは分かっていた。でも、好きと返してくれるなんて思ってなかった。「大丈夫」と背中を押してくれる仲間がいなければ、お互いに気持ちを伝え合うなんてことはきっと、できなかったろう。どうしてだかその時は教室で、しかも大声で言えてしまったのだ。きっと、おかしなテンションになっていたのだろうと今になってはどちらも思っている。結果が良かったのだからあえてどうこう言わないが、もう少しスマートな告白と、それに応える返事があったようには思うが。不器用な花澤と神崎らしいと言えばそうなのだが。
 その日、背中を押された花澤は神崎の目の前に行った。しかも、文字通り背中を押された。つんのめって転びそうになりながら神崎の元へ行った。送り出す言葉は、
「アンタ、神崎のことが好きなんでしょ!言いたくてたまんないって顔してる。我慢してるぐらいなら、言ってきな。ウジウジ悩むなんて由加らしくないよ」とかなんとか。寧々らしいストレートな言葉。
 つんのめりながら、急には止まれなくて神崎の胸板へとダイブ、ごっつんこしてまるでドジっ娘属性ですかアンタは的な行動を取りつつ、額を押さえて体勢も整えないうちに花澤は言った。
「先輩。ウチ、先輩好きっス!かっけぇし、強いし、頼りがいあるし!先輩はどっスか?!」
 なにが? なんて聞ける状況でもなかった。一方的にまくしたてられるみたいな騒がしい告白。神崎はあまりの驚きに口が半開きのままでボンヤリしてしまっていた。でも、何か答えなきゃとそればかりが頭の中に巡っていた。だって、これは告白だよな? あまりに色気のない告白に気圧されて、照れるヒマすりゃありゃしない。もう少し、雰囲気というものが普通は欲しいでしょうと。でも考えるヒマもなくただ押されるまま応えた。元より気持ちはお互いの元にあったのだ。それが寄り添えた喜び。そんなもの素直に出せるわけもなくて、
「パー子っ、俺、だって…そ、うだっつぅの!でも…っ、てめ騒ぐんじゃねぇ」
「好きっスか?!」
「おーよ」
「両思い、っスか」
「おーよ」
「付き合うっスか?」
「……お、おう」
 だんだん神崎のヘタレが外にでてきた。いたたまれないほど恥ずかしさが込み上げてきて、周りの視線も気になり出す。もう時は既に遅かった。にやつくクラスメイトがウザい。わあっと沸いたかと思うと、もう二人とももみくちゃになって胴上げまでされる始末。もちろん祝福されるのは悪い気持ちではないのだが、それ以上に気恥ずかしくて仕方がない。騒ぐ側ならまったく問題ないのだが、騒がれる側は初めてでとても居心地が悪いような、いいような…。どちらでもいけど恥ずかしくて堪らないのは、神崎も花澤もおんなじなのだった。胴上げされてムチャクチャになってズタボロ状態に近い花澤と神崎は、ヘロヘロになりながら二人仲良く溜息を吐いたのだった。お互いに乱れ切った髪型に、平和にも笑えてしまった。
「すいませんっス…」
「んや。アイツラ勝手にやったこったろ…」
 神崎としてもどうのこうの言うつもりもなかった。髪の毛を整えながら花澤が笑う。ただ、嬉しいというまっすぐな感情を示して。その日は、何だか放課後までフワフワした雰囲気になってしまった。一緒に帰ったが、それは別段珍しいことでもなかった。元より家が近いのだし。みんなに認められて、祝福されるのは、照れるけど嫌な気分ではないことを知った。

 夏目の問いにゲホゲホ咳込む神崎のことなどお構いなしに花澤は、ボケっとした様子で夏目を見やる。何を言っているのか分からない、といったふうに。他人のコイバナなら飛びついて余計な気が回るくせに、自分のことになると途端に無頓着になる。谷村が花澤を突ついて真意をボソリと耳打ちする。と、すぐに花澤は顔色を変えて赤くなった。こんな時でないと、恋人の存在を深く考えるヒマもないくらい、ただ神崎と花澤は幼いままで向き合っているのだ。小学生の恋のようだ、と夏目は思った。だが、そんな恋も悪くない、自分にはできないだろうけど。
「そうそ。何の変化も見えないっつーか」
「付き合う前と、変わらないわよね」
 畳み掛けるようにレッドテイルのメンバーが次々に神崎と花澤について話しながら、城山によそってもらった鍋を口へと運ぶ。コイバナの途中にも旨い!とか好き勝手なことを言っているあたり、キッチリ女子だと神崎は感じる。そもそも付き合う前から一緒に帰ったり、よく喋ったりしていたのだし、そんなに目に見えて変わるようなこともないだろうと思う。急に誰もが入り込めないくらいにいちゃつくなんて、どう考えたって問題だろうと思うし。そんなことをようやく照れから冷めつつある頭で考えられるようになってから、神崎ははあと溜息を洩らした。まだ鍋には手をつけていなかった。どうやら花澤もいつもの調子を取り戻したらしく、女子同士で会話を始めていた。神崎よりも順応は相変わらず早い。
「でも、手をつないで帰るようになったっスよ〜」
「へえぇ〜。ラブラブじゃん」
「いつもウチからっスけどねぇ〜」
「やっぱオクテなんだ神崎って」
 とてつもない方向にいっているのは分かるが、下手に口など出せない。聞かざるで逃げるしかないと神崎は城山と夏目の方に向き直る。女どもは放っておくことにする。その固い動きに、さすがの城山もおかしな顔をして、不憫そうに神崎を見やる。まるでロボのような動きだ。夏目がウケた。そして、夏目はワザと神崎に向けて言うのだ。
「ねぇ、神崎くん。今日、このまま由加チャンお泊まりさせちゃったら? そしたら、せめてチューくらいまではイケるよね。あわよくば、愛のA…B……し、」
 途中で言葉が止まったのは、神崎が無言で真っ赤な顔をしながら掌打を近距離から素早く放ったがためだ。珍しく避け切らずアゴにヒットさせられた。まったく昼間っから深夜番組のような発言をする男である。何より、神崎と花澤の新生カップルがどうゆっくり育もうと関係ないだろう。わやわやとガヤはうるさいが、キスすらまだなどと神崎は一言も口にしていないのに、どうしてみんなが知っているのか。ふ、と花澤と神崎は目が合った。お前が言ったんだろ、視線で語ったつもりだったが花澤は気にした様子もなく、へらっといつもみたいに笑った。夏目の余計な言葉は聞こえていなかったようだ。色気なんて程遠いけれど、今は手をつなぐくらいで精いっぱいだけれど、今はこれでいいんだと神崎は思う。こんな騒がしい中で、みんなとじゃれ合ってる方がまだ楽しい時期なのだ。一緒にワァワァ言いながら、オトナになろうぜ。

13.04.13

今書いてる神崎×パー子シリーズ完結編ではないんだけど、二人はやっぱりこういうイメージ

色気より食い気っていうか。
周りがやいのやいの言ってくれて、ようやく進む…みたいな。コドモコドモしてて可愛いっていうか。これじゃ中学生だよな…

お題ったーシリーズですた


大人っぽい感じにならない騒がしさ
この青さが好きです。
こういう話ならまた書いてしまいそうです。まぁべるぜ同人ならよく見るタイプの話だよなぁ、、オリジナリティが無ぁい。


エッチしちゃったあとについても、書きたいのだがとりあえずそれは、神崎と寧々のシリーズの初エッチで書きたいものです。
まだ書いてないし!

なんか、こういうデレデレできない感じが、どうにも自分の書くものらしいというか。まぁ自分がそうなんだよなー…とか思いながら書いてたりもします。
パー子は甘えるのがうまそうでいいな。葵ちゃんは無理だよね。とか
…妄想ふくらむ!!
あああ、イチャイチャさせたい!イチャイチャしたい!!w

2013/04/13 12:20:55