※ ちょっとHな話なので閲覧ちゅうい

※ Hなことに目覚めるおんなのこ。


 レディースコミック。
 女性向けのマンガ。大人向けというべきか性的な、まあいってしまえばちょっとHな描写のあるマンガで、ナニをしているか皆まで分からずともおおよそ想像がつくというか、子供の作り方を知っている女子が読む本だといった方がよいだろう。そんなにヤラシイ作品の類でもないが、ことに彼女にとっては脳内から消えないほどの衝撃を与えた。脳から伝って脊髄を伝う。背筋がゾクゾクするような感覚で身体が痺れる。高校生にもなってこんな子供騙しのようなマンガ本に翻弄されている。なんと浅ましいことだろう、と彼女自身も思う。熱を持った脳内をどうやって冷ますべきか分からないままに冬の夜空の中、冷え切った窓を見つめる。本から視線を外して。
「…まったく、由加に千秋ったら。こんな本を貸してよこすなんて」
 わざと声を出してみた。熱っぽく掠れていて恥ずかしさを覚える。誰も聞いていないだろうな、と辺りを伺ってしまう。そうやってキョロキョロしていると、ふと頭に浮かぶ。祖父が最近いう言葉だ。お前、最近たるんでおるのではないか、と。きっとそうかもしれない。色恋などにうつつを抜かしていたことは、祖父にすら見破られていたのだろうか。そこまでは分からずとも、祖父は彼女自身よりも彼女について理解している可能性な高い。おかしな行動をするわけにはいかない。頭を冷やすには修業でもすべきかと思い、さっと部屋から立った。いくら自分が誰かを好きになったと認めたからといっても、たるんだ気持ちでいていいわけではない。先の甘やかな痺れの記憶など消してしまおう、邦枝葵はそう思いながら軽く左右に首を振って打ち消す気持ちを強く持とうとした。部屋から出ると冷え切った空気が葵の頬を、肌を、身体を、すべてをうつ。

 そんな風に、冷えた夜に修業をすることで頭を空っぽにする日が増えた。恋心を認めてしまうことは、自分自身の今まで知らなかった心の中を見てしまうことや、暴かれてしまうことに似ている。疲れた身体なのに、頭の中は思い人の姿がそこにある。好きであることを彼自身には言っていない。言えるはずなどないと思う。シャワーで汗を流してから部屋に戻り、ごろりとベッドに横になる。男鹿の顔ばかりが脳裏に浮かぶ。悪魔のような冷たい笑みの中に、たまに浮かぶ純粋な色の言葉や真剣そうな顔。よいところばかりを見てしまっているのだろうか、と思う。確かに周りの不良たちが言うように、実に楽しそうに冷たい笑みを浮かべながら誰かを殴ったり蹴ったりする彼の姿は確かに悪魔のようだと感じることもある。それは彼の友人である古市もまた何度もボソボソと呟いているほどだ。見知ってからの期間が短い葵がそう思わないわけもない。分かっているはずなのに、どうしてこんなに彼のことを想ってしまうのだろうか。こんな気持ちになったことは、これまでの記憶にはないのでどうすればよいのか、また、自分自身の気持ちが分からないといった気持ちだ。言葉としては矛盾しているかもしれないけど、焦がれることはよく分からないことだと思う。言葉にできないような複雑だけど、もしかしたら単純かもしれない想いを葵は持て余して困っている。それを口に出すこともできずにただ悶々としている。強いて言うならば、男鹿というキーワード一つでカッと身体が熱を持つような……そんな想いが葵の中にはある。

 返した本の続きが手元にはあった。由加に手渡す時に冷めた口調で言った言葉は白々しくはなかっただろうか、と内心どきどきしながら葵は口を開いたものだった。そんなやましいことで胸を高鳴らせるなどと馬鹿の極みとしか言いようがないが、そうなってしまった以上は己の中だけであろうとも認めるしかない。全てにおいて足りないのだということを。満たされない熱が、身体の中に燻っている。モヤモヤとしたものが塊になっていく感覚だけが、葵の中にしこりのように残った。だが、葵はそれに気づかないふりをした。目を背けることが正しいのだと思おうとした。部屋の机の上に仕方なしに置かれたその本は、電気を消した眠りの色に染まった部屋の中で、ようやく葵の手の中に収まった。煌々と明るい部屋の中でそれを手に取ることは、葵の中でとても躊躇われたからだ。借りた──とはいっても、貸してくれと言ったわけでもないのだったが──本を読まずに返すのはどうかと思うし、と口の中だけでモゴモゴ言う。自分への言い訳だと葵自身も悲しいほどに理解していた。布団に入って枕元のスタンドの薄明かりの中、本を開いた。
 実を言うと、前巻は何度か読んだ。読む度にせつない溜息が洩れてしまった。ゾクゾクと駆け上がるむず痒い感じが、堪らなく心地好かった。だが、それを誰かに言ってはならないし、気取られてもならないと葵は直感的に悟ってもいた。それは恥ずかしいことだ。性的な意味で。開く本の中では、美男と美女が唇を吸い合ったり、裸で触れ合ったりしている。表情は恍惚としたもので、触れ合うことが至高であると述べていたりもする。男は女と触れ合うことでこれだけの喜びを感じるものなのだろうか。女だってそうだ、例えば自分だったなら…? 自ずと浮かんでしまった彼の顔が笑顔に変わる。その途端、ハッとして葵は息を呑む。こんな想像しちゃダメだ!と何度も自分へ言い聞かせる。男鹿が微笑んでいる。彼はたまに、本当に無邪気に笑うものだから、そう悪いヤツなどではないのだと感じてしまうのだ。本の中では男は女の服を脱がせて、胸を肌蹴させて膨らみの上にツンと立つそれを咥えている。ごく、と喉が鳴る。本の中の男の顔が、どこか彼に似ているような気がした。本の中の女がビクビクと身体全体を震わせてあ、とか、ん、とか、言葉にならない声を発する。それが続いていると女が気持ちいい、などと言うのだ。そんなことが本当にあるのだろうか? 信じられない気持ちで、それでも葵は本をめくるのをやめられなかった。気づけば、パジャマの上から自分の胸を触っていた。ゴシゴシと乳首を擦るように小刻みに動かす。ジンワリと感覚が広がる。でも、それが気持ちいいかどうかは分からない。ただ、葵の頭の中では本の中の男は男鹿みたいに見えてしかたない。やらしく、だがやさしく女を追い詰める男鹿がそこにはいた。やがて男は女の下着を、ショーツまで強引に取り払ってしまう。葵はそこまで想像できずに、ただそこにある毛布を抱き締めながらモジモジと内股をこすり合わせるみたいにした。どうしてか分からなかったが息がハァハァと動物のように上がっていた。本の中の男は、女の股間に顔をうずめてペチャペチャと音を立てる。女がもっともっと、と仰け反りながら言う。女はこんな恥ずかしいことを喜ぶわけないだろうと葵は感じる。それと同時にギュッと足に力が入ってしまう。身体がとても熱い。熱があるような怠さがあるわけではない。何かが足らないと身体はいうけれど、何が足りないかは葵には分からない。そして、知るのも怖いような気がした。男は身体を起こすと「そろそろ、入れるよ」と言う。男鹿っぽくないな、とここでなぜか葵はふと我に返る。マンガの中の男を、男鹿に見たてて読むなんて、本当に浅ましいと思う。恥ずかしくてカッとまた顔が赤くなるのが分かった。だがすぐ男は女に被さって、女はそれを受け入れてあああ、と苦しげに呻く。「動くよ」下の方の描写はほとんどされていない。男が腰を動かすと、女がまた言葉にならない声であ、とか、うう、とか、やん、とか言う。腹の下辺りに熱が溜まるように感じる。下の方の描写は、葵の想像の中だけでしかない。ゾクゾクが脳を痺れさせるみたいだった。毛布を挟んだ足と足に強く力が入っている。ん、と小さい声が出てしまう。よく分からない。ただ、こんなことをしていていいわけがないと、頭のどこかで分かってはいた。だが、ここには誰もいないのだし、誰に暴かれてしまうというのだろう。ギュッと毛布を握った。


 葵は、こんな日々をもう一週間以上も過ごしている。誰にも言えない欲が、ジワジワと身体のおくの方から生まれてくるみたいでひどく恥ずかしくて、みっともないことだと葵自身も理解している。だが、生まれてしまった欲はどうすることもできないのだった。誰にも知られていない以上は、ここに留まれるのであればこのままでも問題はないのだろうか。そんなことを思う自体がどうか、そう思えば思考はそのまま停止してしまうばかりだ。由加から借りたレディースコミックの続きが、葵の手の中にあった。暗いスタンドの明かりの中でそれを読むと、淫靡な光の中で、まるで雰囲気を出してるみたいに思えて仕方ない。そんなつもりなんて、葵はなかったはずなのに。そう感じられてしまう自分の思考が嫌だと思いつつも、それに性的な何かを覚え始めていた。気づきたくないし、知りたくないし、目を背けたい。そんなことを葵はひたすらに願ったのだった。


不完全燃焼な戸惑いを晒す・上



題:両手じゃ足りないよ、

13.03.20
お疲れ様です!

ちょっとエッチな葵ちゃんの話です。

じつは、続きます!!
いつ書けるか分からんけど!


や、女の子もほんとは悶々とするんですよってな話です。アレもします。アレ、は内緒w

とりあえず、葵ちゃんが悶々としてんのはエロいし、可愛いって話www

2013/03/20 22:10:22