※ 久しぶりにゲイネタです。
※ 今回はまったく無くて、むしろノンケ過ぎますw

 久しぶりのシャバは寒かった。俺の記憶が確かなら、一週間はブタ箱に入ってたってワケだ。カレンダーはいつの間にかめくられていて、意味もなく殴られた傷みとグウグウ鳴る腹だけが俺の生を示している。だからって生きることに意味があるだなんて思ってもいない。こんな所で真っ当に生きるなんて下らねえと思い始めたのが、今回の冤罪ブタ箱送りの件からだ。これまでは、夢も希望も、気力だって持っていたというのに。だが、これからその気力を取り戻せるのか、それともこのまんま堕ちちまうのか。それは市長と恋人の言葉にかかってる。他人にすべてを委ねるなんてただの弱いものの言い訳だなんて強い誰かはいうだろう。けれど俺はそれに対して声を大にしていいたい。大事なものすべて奪われた人間はなんの力も発揮できない。火事場の馬鹿力なんていうけど、あれは守るものがあるって信じられるからこそ出せる技なんだってことを俺は知っている。大事なものを信じていいか悪いかすら見失った俺に、火事場のなんちゃらを出せなんていわれてもお門違いというヤツで、それをいうだけムダってもんだ。今の俺に分かるのは、今日のメトロシティも荒れているってことだけだ。淀んだ空気は外に出ても不快に絡みつく。空は雲も浮かんでいるが、まだ若干の明るさが残った広く高い空は普通なら快適さを伴うものだろうが、この町の空はどう見ても濁っている。それが工場のせいなのか、くすんだ町の雰囲気のせいなのかは分からない。伸びた髪が頬に張り付いて邪魔臭いが手持ちの金がないから散髪に行くことすらできない。足下でジャリジャリと音がしたので、そこに転がる小石を手にしてみた。なんとなくしっくり来たのでそのまま手の中で弄びながら、通い慣れた役所のビルに入ってゆく。ここの四階がメトロシティ市長、マイク・ハガーの居場所だった。まだこの時刻ならばいるだろう。俺のことは周りのみんなは知っている。俺を見て口をパクパク金魚みたいにしているヤツ、いつもみたいに挨拶してくるヤツ、気付いても知らんフリするヤツ、逃げ腰になるヤツ、さまざまだった。だがその様子を見ただけですぐに分かった。俺が逮捕されたことを知っているのか、知らないのか。知らないヤツもいるということは、ハガー市長は冤罪だということを信じてくれているのではないか。俺はそんな想いを胸に抱く。やはりあの人は、俺と一緒にこの町を救おうと頑張ってくれた勇猛な英雄の一人なのだと。それはそうだろう、自分の娘を嫁にまでくれようとまで言ってくれた人なのだ。それほどに深い信頼がなければそこまではしないはずだ。だからこそ冤罪を認めてくれると信じて────。


「ん、ドアを開ける時はノックをしてくれと……───」
 俺の顔を見た途端、ハガー市長は顔色を変えた。驚きの色に染まったその顔は、やがて思い出したようにすぐいつもの彼のものへと変わり、まるで俺を抱き締めるように両手を広げながら歩み寄って来た。市長は知っている。俺が逮捕されたということを。それはジェシカが話しているはずだ。そして彼は何故捕まったのか、理由を警察に問い合わせていることだろう。そして俺の冤罪を、罪として聞いたはずだ。その先のことは俺には分からない。だが、この調子ならなんらかの勘違いがあったとしても話せば理解してもらえる範疇だろう、なんとかなりそうだ。
「コーディ! 一体どうしたというんだ。今は拘留期間と聞いていたが…」
「ハガー市長。ジェシカから聞いたと思いますがね、俺が捕まったのは冤罪ですよ」
「だがっ、拘留期間中に出て来たということは君のこれからに関わるぞ」
「それでも構わない。俺は、なにも悪いことはしてないんだからさ」
 ハガー市長が両手を掴む。その手には思ったよりも力が込められていて、俺は意外に感じた。なにより彼の声が僅かだが震えていたことも気にかかる。娘のフィアンセが来たというのにあまり嬉しそうではないこの態度。確かに彼がいうことも最もだとは思うが、市長のあんたが弁護してくれれば俺は無罪放免になるはずだろうが!そう叫びたかったが、ここで騒いだところでなんの解決にもならないことは明白だったし、ガキでもないのだから黙っておくことにする。ハガー市長にがっちりと掴まれて、ぐ、と引き寄せられる。真面目くさった目と俺の目が合う。嫌な流れだ。嫌な空気だ。ごくり、と俺の喉が鳴る。嫌な汗が背中に流れているのが分かる。地上四階の部屋は静かで、防音の利いた部屋は余計な音からシャットアウトされてとても静かだ。互いの息遣いと、冷たく張り詰めた空気だけが時を刻む。
「君の罪状は、冤罪ではない」
 真剣な眼差しで、市長は残酷なことをいう。ただの役人なのか。俺の目の前は、瞬時に真っ暗になった。こんなことを聞きにきたんじゃない。ハガー市長は続ける。
「君は、確かにベルガーを殺害した。娘を助けてくれたことに対しては、前に例をした通りだが、婚約は解消させて貰った」
 は? という言葉の前に怒りが先に立つ。俺の目の色もすぐに変わったのだろう。ハガー市長が俺を掴む手の強さはさらに強くなっていた。大体、マッドギアの頭のベルガーを蹴ってビルから落としたのは事故だったのだし、正当防衛だったはずだ。それをしてこその英雄譚だったはずではないか。そして、それを望んだのもハガー市長も同じだったはずだ。ならば同じ罪状を突きつけられるべき人物のはずだ。もちろん、ガイだってそうだ。どうして俺だけがブタ箱にぶち込まれて、意味のない暴力を受け、果てに婚約まで取り消されなければならないのか。すべてが理不尽で、納得がいくはずがない。
「犯罪者と、娘を結婚させるわけにはいかん」
 父親の目をしている。似ていない親子の顔が浮かぶ。だが、考え方も似ていないのか?
「ジェシカ、は………」
 情けないほどに俺の声は震えている。泣いているみたいでカッコ悪いと思ったが、そうなってしまった以上は仕方ないことだ。一度言い出した言葉は止まるわけがない。
「ジェシカは、どう思ってるん、すか…?」
 それでも言葉が弱気になってしまっているのは、結婚を取り消されたばかりのせいもあり、この父親の娘のことだからということもあり、捕まった後だということもあり、すべての自信が失われている状態だったからだろう。ハガー市長は娘の名前を出されると、目をそらした。わざとだ、そう思った。思いきり力を入れて腕を払う。だが、すぐに彼も分かったのか片腕しか払わせてもらえない。片手を掴む手の力がかなり強く。体を離そうとする俺と市長の視線が強く絡み合う。
「離して、ください…!」
「コーディ、どこに行こうと、している?」
 離れようとしている者と、離そうとしない者とが一緒にいれば噛み合わないのは当然。身を引く俺を、追ってくるハガー市長は、結局手を離してくれずに俺を壁まで追い込んだ。この人の力には敵わないと俺だって分かっている。だからこそ、逃れたいと思う。
「…は、離せ……!」
 身の危険を感じれば、婚約者の父親だろうとなんだろうと構わない。それにコイツのいいたいことは分かった。娘はやるつもりはない。以前の言葉を撤回した父と、娘の意見が一致しているかどうかは知る必要があった。もちろん、父親が一緒にいてはジェシカだって本当の気持ちなどいえるはずもない。だからこの人がいない所で本心を問い質す必要があった。そのために必要なのは、ハガー市長をいいくるめるか、それとも、娘を攫ってても一人にするか、そのどちらかだ。そして、後者はなるべくしたくはない。だから俺は前者を選びたい。問題は、それを選ばせてくれるか、それが一番の難関だ。頑なになった父親をどうやって説得するのか。そもそも俺にできるのか?という不安。だが、力勝負や逃げ出すことでなんてうまくいくはずがないことは分かっている。逃れようと身を捩りながらもなんとか自分の思いは言葉にする。それで力を緩めてもらえればめっけもんだ。
「俺は、ジェシカに聞きにいく…!」
「娘は納得がしてくれた!!」
「本人の口から、聞いたわけじゃねぇっ」
 言葉を飾る余裕なんてない。俺の一生がかかった話だ。ジェシカの生涯だってもちろんかかっている。愛してる、なんてばかに照れ臭いことだって何度も口にした相手のことだ。親の反対だけではいそうですか、と引き下がれる思いならば結婚などしない。男が口にしたことに──もちろん冗談やユーモアは別として──ウソなんかない。なにより、こんな切羽詰まった状況でウソなんかつけるかよ!と俺は思う。
「言ったじゃないっすか!俺は、前に。ジェシカを絶対に、幸せにするって。本気っすよ、俺は、本気で言ってんだ。ジェシカにも!ハガー市長にも!」
 そんなことを口にしてもムダだって分かってた。でも、いわずにいれない状況ってヤツがあるのも確かで、俺はまくしたてるみたいに逃げて後ずさってたのとは真逆に近寄ってやる。ずい、と無遠慮にハガー市長と真ん前に出るとやっぱりデカい。俺だってチビな方じゃないはずなのに、この人と並べば見上げる格好になってしまう。一時期はあのメトロシティ市長のマイク・マッチョ・ハガーとして興行プロレスに出ていたこともある。今だってゲストには呼ばれているみたいだし、体を鍛えるのは相変わらず趣味のようで、しょっちゅう筋トレしている姿を見る。だから力勝負はできる限りしたくないと思う相手でもある。
「マジだから、俺は聞きたいんす。ジェシカの言葉で…!」
 ハガー市長の力が緩み、視線の厳しさもいくらか緩んだようだ。俺はすぐにそこから逃れようなどとはしない。話して分かることは話した方がいい。そして、目の前のこの人は話して分からない人ではない。長年の付き合いでそれは分かっていた。ハガー市長の顔は微笑みの形に緩められて、俺もなんとなくホッとした。これ以上、なにかを失うのは本当は俺だって怖いんだ。ハガー市長の手が俺の腕から離れる。その力が強かったことが、じぃんと残る痛みと痺れからもよく分かる。思わず見てしまった俺の腕には、ハガー市長の握力の痕がクッキリと痛々しく、しかも指の形に残ってしまっていた。見なければよかったなと思いながら、見てしまったことを後悔した。だが致し方ないとしかいいようがない。僅かに体をずらして離れる。それについて市長は特になんということもない。
「コーディ、君のいうことは分かる。もちろん君のいうとおり、娘と話をする時間は設けよう。だが、君のやり方はまずかったのだよ」
 ハガー市長はゆったりと笑った。それは、昔を懐かしむような微笑みで、今を憂いているような表情ではない。憐れみの色はその目の奥に浮かんでいるようだ。そう思った途端、俺の体はがつん、となにかにうたれてそのまま前のめりに倒れた。後ろからなにかがくることなどありえない。なぜなら、後ろは壁のはずだからだ。どうやら脇からうたれたらしかった。物凄い衝撃。首の後ろを思いきり殴られたらしかった。目から星が散っていて、クラクラしてすぐには起き上がれない。声すら出せなかった。どうして、なんで、そんなことしか思えない。なんとか視線を上げると、ハガー市長はさっきのままの憐れみの色を浮かべたままの表情で俺を見下ろしていた。下から見ると困っているかのようにも見える。俺は言葉を発することもできずゲホゲホと咳込んだ。
「──だから、警察が来てしまった」
 ハガー市長の話は終わっていなかった。確かに俺のやり方はまずかったのだろう。だが、あの警察はウソだということを俺は知っている。そして市長は知らないからこそ、そんなことがいえるのだと思う。まだ頭がぐらついている。咳はそこそこ治まったらしい。気付けばぐるりと周りを囲まれている。まだ体は好きなように動いてくれそうにないが、片手に力を込めながらなんとか起き上がろうと下半身と下腹に力を込めて起き上がろうとした。視線を動かすと警官の制服が目にちらつく。いつの間にか市長室に忍び込んでいた。そして知らぬ間に囲まれていた。仏の手で踊る猿ってわけか。そう思えばバカらしくもなったが事実は事実なので致し方ない。周りから、懐かしい痛みが次から次へと襲ってくる。これは最近にも感じた、何度も打ち付けられた警棒の痛みだ。ガハッ、と声にもならない声が喉から洩れたが大声を出さずに済んだのは日頃の、血なまぐさいことばかりしてる賜物かと思うばかりだ。そんな思いの中、何度も何度も懐かしい痛みを受けてようやく気をやろうという時、市長の憐れむような冷え切った笑みが遥か上方に、そしてぐるりと回ったかと思えば白く消えてどこかにいってしまったようだった。だからとどのつまり、俺はジェシカの気持ちも、ジェシカの父親であるハガー市長のことも、よく分からないとしかいいようがなかった。まだ、信じたいだなんて甘ちゃんだって笑われるんだろうけど、まだ信じたい。せめてお前のことは。ジェシカ、と頭の中の声で何度か呼んだけれど、きっとお前には届いてないだろう。それでも構わない。俺はきっと、近いうちにお前に会いにいくから。


13.1.4

今年二発目もファイナルファイトでした!
カプコンな年になったら、それはそれで幸せでございますけれどもけれども!

2話では終わらなかったですねー。うーん、でも色んな不幸とか暴力とかがあるので書いててちゃらちゃらーっとお気楽に書けてて楽しいです。
しばらくコーディの不幸な話は続きます。
次回こそゲイネタいこう!みたいな。

その前にジェシカと会わせてもやりたいのですが、、どうなることやら。
しばらくはこうして葛藤するコーディも楽しいかも?
好きな方はお付き合いください。

タイトル…Aコース

2013/01/04 21:13:58