※ 久しぶりにゲイネタです。
※ 今回はエッチなしですご安心を。


 良かれと思ってやっていたことで捕まる。ああ、この市はもうダメなんだと思った。正しいことがまかり通らないこの世はなにかどこか間違えていると思った。思ったところでどうなるわけでもなく、いつの間にかジェシカの真ん前で手錠が両手にはめられていた。こんな情けない姿なんか見られたいわけもないだろうが。ただ、驚いた顔でジェシカは俺の方を見ていた。目をかっと見開いてこっちをずっと。宇宙人を見るかのような目で彼女は俺のことを。ただの俺の被害妄想ならなんの問題もない。だが、そうでなければ俺がどうすればいいのだろうか。まったく分からない。そのまま絶望的な思いでズルズルと引きずられるような格好のまんま留置所にぶち込まれた。見覚えのない警官たちだったので、マッドギアの連中などではなくてちゃんとした正規の公務員たちなんだろう。しかし俺は悪いことなど一つもしていない。冤罪だと何度も牢屋の格子を蹴ったが、見張りの警官はなんの反応もしない。冷たいヤツらで反吐が出そうだと何度思ったことか。抜け出すには手錠が短過ぎたし、鎖で足も巻かれていた。殆ど動けない状態でなにをしろというのか。なによりもそんな気力が湧かないくらいにジェシカのあの表情が忘れられない。今だって脳裏に浮かぶほどショックだった。恋人が逮捕される様を見て絶望する表情というのは、ああいうものなのだろうか。だとしたら、まったく何物をも入り込む余地がないほどに絶望の色に彩られていた。それを思い出すと、無意味に暴れ出したくなる。また鎖を巻かれた足で格子をがつん、がつんと何度も蹴った。近くで見張る警官がチッと舌打ちをしたがどうせ俺になにかするわけじゃなし、俺はやりたいようにやる。金属音が耳障りなほど辺りに響き渡る。こんなことをしてもなんの意味なんてないというのに。気が済むまで牢屋の中で暴れてから、飯も食わずに眠った。くたばったみたいに寝ていた。
 次の朝、というか、朝かどうかは分からないが、日の光が窓から入る辺り、まだ昼間なのかもといったくらいの時間しか分からない。よくよく考えたら、この糞みたいな牢屋にぶち込まれてから何日経ったのかすら記憶にない。それに出られる兆しもないのだからどうでもいいっていったほうが正しいか。ただぼぅっとしていたら警官の一人がニヤニヤ笑いながら声を掛けてきた。邪魔くせぇしいらねぇと思ったが、勝手に話しかけてくるから仕方ない。
「元英雄よぉ、うちの所長が来るってよ。お前が聞き分けなく暴れるからさ」
 聞き分けがないのはてめぇらだろ。俺は冤罪だとずうっといい続けてきたんだから、何が悪いっていうのか。暴れるのなんて、悪いと思ってなければ当たり前のことだ。腹の立つ警官をすぐにでも顔面にワンパン入れてへこましてやりたいものだ。だが牢屋の格子と足と手の鎖が邪魔をしている。そんなことを考えていたら、重そうなゴツゴツという足音が聞こえてきた。あとは何人かの話し声。どうやら例の所長が来たらしい。いらないと思ってるヤツに限って来るのが早いというかなんというか。うざったいとしかいいようがない。だが、来てしまったもんはしょうがないのでソイツの腐ったツラでもせいぜい拝んでやるかと目ヂカラ込めて待った。望んでもないご対面を。
「お。」
 思わず声を上げてしまったのは、見知った顔が現れたからだ。所長と呼ばれる男は、マッドギアの警官マニア・エディEだった。ただの警官のコスプレをしているだけのギャングだ。マッドギアというのはそういうゴッコ遊びをしてぶち暴れているアブナイ集団だ。どうしてコイツがこのメトロシティで警察の所長なんぞをやっていられるんだ? そもそもメトロシティはハガー市長──恋人のジェシカの父であるその人──が統治しているはずじゃなかったのか。それなのにエディは所長だし、意味もなくメトロシティを救ったはずの俺は捕まっちまうし、まるっきり壊れてるこの世界なんてどうなっちまってるんだ。エディの薄汚いツラを見た途端に怒りは爆発しそうだった。そんなことなど知らずに、元英雄をいたぶりに来たエディは、お構いなしで牢屋の鍵穴に鍵を差し込んでしてやったり顔で笑っている。コイツはやっぱり大馬鹿野郎だ、俺は爆発する怒りのままに身体中にみなぎる力を発揮させた。火事場のバカ力ってヤツだ。今まで暴れてたのはまだまだやる気がなかったんだな、なんて暴れながらに思ったりな。俺は足の鎖を引きちぎってそこから離れることができた。いとも簡単に。開いた牢から足を半歩出て手錠されたまま両手を握り込んだ格好でハンマーパンチを脳天にぶちかます。もちろん殺す気で、だ。どうせブタ箱入りなら人ぐらい何人か殺しておいた方がいい。こんなヤツが蔓延る町なんかで冤罪だなんだと騒ぐだけ無駄だというものだ。もうこの時点で俺は既に諦めていたんだ。愛した女一人、救い出せたとしてもあんなツラさせちまった男だ。どうせもうひと花咲かせるなんて、このメトロシティにいる限りはきっと無理なんだろう。警官マニアの頭を足蹴にして、ストンピングを手始めに五発くらい。ガツガツと地面とアゴが仲良くゴッツンコしてる小気味よい音がする。実にいい気味だと思った。ゴバ、とおかしな声のような音のようなものが耳に付いたが気にしないようにした。鼻を強く打ったのだろう、下の方に赤黒い染みが見えたような気もするが、暗いこの場所ではあまり意味がない。後ろから襟首を掴んで勢いよく何度か冷たい床に叩きつけた。ふと上げた顔に、周りの警官たちがビビってチビりそうなツラをしている。エディの野郎が白目を向いて鼻血だらけのブサイクヅラを晒してる。既に気を失っていたらしい。随分と早いノックアウトだったようだ。コイツを相手にしておくのはもうバカバカしいのでそのまま牢から出ることにした。そしたら頼んでもいないのに、警官たちが道を開けてくれる。ヒィ、と言って逃げるヤツらなんて警察でもなんでもないだろう。少なくとも、この元英雄のコーディ様にはまったく無意味だってことだ。脳みそなんてすっかり狂っちまってる。とりあえず一番近くにいた足の遅い野郎をひっ捕まえて広場に出た記念とばかりにハイキック、倒れた胴体にすかさず蹴り上げを食らわす。コイツに恨みはないが、この町の警察に恨みがあるのだから仕方ない。倒れたまま動かない警官の一匹は放置して、さっそく牢から外へ出る。市長には沢山聞かなきゃならないことがある。この町は俺たちが救ったはずだったのに、どういうことなのかと問い質す必要がある。俺たちがやったことはなんの意味もなかったなんて言わせない。それともハガー市長がゴッコ遊びに染まっていたなんてくだらねぇオチは、それだけはやめてくれよ。そんなことを考えながら、穢れた町に出向いて行く。拳と足元がやや赤黒く警官の血で汚れていたが、この汚れこそが今から出る町には相応しいような気がして殆ど気にならない。冤罪だか犯罪だか、その差も定かではなくなってきている。出てみた空はまだ明るいが、やや暗くなりつつある冷えた陽気だ。数日ぶりのシャバというヤツだがあまり気分は良くない。
「……どう、して」
 女の高い声がして振り向くと、そこにいたのはポイズン。ショッキングピンクの派手な髪を振り乱して俺に近づいて来るのはこんなカマ野郎なのかよ、と吐き捨てたくもなる。なんでここで感動の再会とばかりにジェシカは来ないんだろうな。まだ俺のことを忘れるには期間が短過ぎるってモンだろ? 冤罪で逮捕されたのなんて見れば分かるはずだって俺はまだ信じてる。そうそう、こんなオカマ野郎を相手にしてるヒマなんてない。市長に腐った町の様子を話に行かなきゃならない。捕まったけど逃れた俺の、汚れ役のせめてもの役目ってヤツだ。カサカサに乾きかけてた俺の心がようやくかつてのみずみずしい色を取り戻しつつあった。俺はポイズンから目を逸らした。こんなヤツに捕まるわけにはいかない。
「コーディ! 待って」
 まったく紛らわしい声を出す野郎だ。どう聞いたって野郎の声になんて聞こえない。そして振り向いてやるほど優しくもない。マッドギアの連中には嫌という程、暴力を振るわれてきたんだ。当然のことに決まってる。そんな俺の考えなんかお構いなしでポイズンは声を張り上げる。だから無駄だって。
「この町にはあんたの居場所なんてないよ!」
 なにを言ってるんだこのバカは。マッドギアをまた懲らしめればそれで終わるだろうがと思いながら、顔も見ないのもどうかと思ったので仕方ないから顔だけ振り向くと、急にポイズンがタックルしてきた。身体全体でどん、とぶつかってくる。予測してなかったことだったからそのまま支え切れずに俺もろともその場にぶっ倒れる。二人で揉み合うみたいになって、気付けばポイズンにマウントポジションを取られてる。上手いこといいながらちゃあんと仕事してんだな、さすが格闘オカマだぜ。そう思いながら整った、まったくその辺のオンナよりもキレイなそのツラを見上げる。だが、見慣れたもんさ。ざけんじゃねぇよ、そう思う。その思いは本気だ。吐き捨てるようにスラスラ言葉が出た。
「テメェらが奪ったんだろ」
 俺の居場所を。テメェらのゴッコ遊びで、よ。弱いコイツを殴るつもりはハナっからなかったが、ビビって逃げ出せばいいと思ってワザと凄んでいう。マッドギアというクソ団体には本当に嫌気を超えた思いが頭の中をぐるぐる巡ってるんだ。それを分からせてやる必要はある。上体だけを起こすと、ポイズンの身体もぐぅっと浮き上がる。眉を寄せてその動きに身構えている。マウントポジションだといってもこんな細いオカマなんかに負けるわけがないということを思い知らせてやる意味でこんなことをしてやるってわけだ。
「群れてイキがってるだけのオメェらじゃ、俺には勝てねぇって分かってんだろ……殺られたって、テメェら文句いえねぇぜ」
 ゆっくりと、全身に力を入れて身体を起こして行く。マウントポジションはどうしたって体格差を埋める、上の者が有利なポジションだ。だが、俺とポイズンとではそんな差は埋まらない。全身を筋肉にするみたいに力を入れれば、ポイズンが乗ったまま俺はすっかり身体を起こすことができる。もうマウントポジションではなかった。ポイズンが膝の上で座って向かい合っているような格好。ヤツの喉がゴクリと鳴った。この時ほどコイツの男を感じる時はない。ガッツリ出てるわけではないが、男であるが故にある喉仏のその存在感。だが、声は女のものにしか聞こえない。しかもその言葉は、
「アタシなら、救えるよ」
 なにをいってやがるんだ。意味わかんねえ。
 とにかくコイツのいうことは気にしないことにする。どことなくポイズンの顔が近い。息が顔にかかるくらい近い。嫌かな、と思ったけどポイズンの息はフルーティーな香りがした。どうやらお口のエチケットはバッチリみたいだ。目が合う。付けまつ毛だろうか、かなり長めの睫毛がゆらゆらと揺れている。髪もそれに合わせるように揺れている。ポイズンの瞬きがスローモーションみたいにゆっくりと流れてゆく。なにか言いたげに口が開かれるがそれは言葉を紡がれることなく、薄く開かれたままでポイズンの手のひらが俺の肩に軽く触れた。あとは近づいてきた!と思ったら間近になってて、顔全体なんて見れなくなってた。口と口が触れてるらしい。つまりはキスだ。なんで俺、こんなオカマ野郎とキスしてんだ? そこまでヤキが回ったか、俺?
「くたばれ」
 俺は、パッと立ち上がりポイズンを一撃の拳のもとに沈めてからこれから夜の町になるであろうメトロシティに繰り出した。この穢れ切った町の真実を市長に伝えて、どうしたいかを確認した上で、俺はジェシカと上手くやっていく。そう決めた。もう空は紫に染まって来ていた。なんとなく寂しい色だな、と感傷的にもそう思った。早くお前に会いたい。そしてこの前の逮捕は誤解だったんだよと分かってもらいたい。一度は諦めかけた希望を、胸に抱いて俺は負けずに立ち上がる。


13.1.1

元旦にこのネタどうかねぇ?w

ファイナルファイトの話、もう少し続いてしまいます…。誰が読むのよ??
ゲーム的にもむちゃ古いし、でも知らんヤツはガキか、ゲームやらんモグリかなぁとか。まぁそんなん置いておいて…。


結構前から書きたかったポイズンとコーディとメトロシティとかの話です。や、ゼロシリーズでコーディが出てからうわー思ってたんですよね。で、まぁこれからガイとかマキとかハガーが出るにしても、主役はちゃあんとコーディですからご安心くださいませ。弟さんとか出るかもねー?

あんまり幸せな話ではないので、次で終わってくれないかな??
カプコン好きの方に読んで欲しいものです。

タイトル…Aコース

2013/01/01 21:40:57