※ギャラクシー3Sαのテーマによせて

※分からない人のために。
ちょいデブなハゲオヤジが弾くアコギです。ムードがあるよん


 寂しい、などと思うことなどこれまでは感じたことがなかった。想い人も近いところにいるというのに。まったくおかしな気持ちを味わう年だ、とも。それは一つ年上の彼らがもう卒業してしまったせいかもしれなかった。一年前、確かに彼らと青春と呼んでもいいようなことを体験した。それらは高校時代のすべてでは、決してなかったけれど、確かに楽しいと思ったのだ。今の気持ちとは相反するものであって、だが、敵対する気持ちなどではない。寂しいと思うことはかつての仲間たちと離れたために、離れたくない仲間と共におれなくなったがために、生じてしまう何らかの気持ちなんだろうと思う。だがそれすらよく分からない。なぜならこれまで味わったことのない、吹き抜けていくような寂しさがそこにあったからだ。そんな想いなど察するはずもない。想う彼がそこに立っていた。いつものように鋭い眼光で睨むように見ている。彼なりに言えば睨んでいるつもりなどないのかもしれないが、鋭いその視線はまるで、睨んでいるかのようにしか誰の目にも映らない。
「…さむ」
 それしか言葉にできない。他に何かを口にしてしまうと、それは弱音になってしまいそうだったから。発した言葉に彼は僅かに反応して視線が動く。一年以上仲間として一緒にいて、変わったことといえばこれくらいのものだ。彼がこちらの音に少しだけ反応してくれるようになったというだけの些細なこと。彼と目が会う。ドギマギしてしまうのはこちらの勝手。顔に熱が集まってくるのが分かる。彼から「何で顔赤いの?」などと問われようものならば火を噴いて倒れてしまいそうだが、彼がそんな気の利いたことを聞いてくるなどとても想像できないことだったので助かるが。彼がいつものように、コキコキと乾いた音を立てて首を鳴らす。それと同時に合っていたはずの視線は、ごく自然に外れて彼は海の方を見つめていた。その背中には小さな子供。冬の寒空だというのに、裸のままの子供は魔王だから寒くないのだという。彼の伸び気味の黒い髪が北風にゆっくり靡く。まだ高い位置にある太陽が若干眩しい。彼は海を見て何を思っているんだろう、そんな分かりっこないことを思う。冷たい風に晒されながら彼は再び振り向く。珍しく、彼が笑っていた。
「もう、一年以上前になんのか」
「…? 何が?」
 彼の目はその日の懐かしい記憶を辿るために純粋に輝いていた。彼の短い言葉は、たとえどんなにすばらしい出来事であろうとも、結果だけを切り取ってスッパリ物申してしまうから趣というものには非常に欠けるが、論点としては押さえているのだからまぁ答えが知りたい時にはよいのだろう。彼の話は、彼が認めた【強い男】である東条英虎にこの海に殴り飛ばされたことを思い出したのだという。それで笑っていられるのだから男の友情というか、強さに対する探究心というか、そういうものは本当によく分からないものだと思ってしまう。これが男女の考え方の差なのだろうか。波の高い冷え切った海を見つめる。寄せては返し、また寄せて返す。ただひたすらにそれを繰り返して時を刻む。彼は頭の後ろで手を組みながら、ゆっくりと足を踏み出し始めたので、慌ててついて行くことにする。彼の行動はいつも言葉になる前に実行されているので、おちおち目も離していられない。そういう人なのだと思えば苦になるはずもない。元より目なんか離せないほど危なっかしいくらいに暴力的な男なのだ。彼がは〜、と珍しく大きく息を吐いた。あからさまにこんな態度など今まで感じたことがなかった。だが彼が落ち込んでいるようにはか見えなかったので、どう声を掛けるべきか悩む。声を出す前に、彼がボソリと呟く。
「なぁんか、………つまんねぇなー」
 あ。と思わず声が洩れた。
 同じこと、思ってたんだ。
 自分だけがよく分からない喪失感みたいな、物足りないみたいな感覚に苛まれていたわけじゃなかったんだ。寂しい、だなんて意味深な言葉にしなくても単にそういえばよかったのかと新しい発見をして、勝手に心が温まるような感覚に陥る。でも、来年は自分たちが彼らを残して卒業するのだ。それを思うと、鼻の奥がツンとして痛む。こんなことばかり考えていると、わけも分からず泣いてしまいそうだ。勝手に切なくなって、勝手に泣くなんてはた迷惑な奴でしかないではないか。そう思えばこそ、必死にこぼれ落ちそうな涙を我慢した。むろん我慢できそうなレベルだったから我慢をしたのだが。だが、その態度はさすがににぶい彼でさえも分かったらしく、彼が鋭い眼光で見ている。突き刺さるような視線は痛いほどだ。何かを聞かれても、どう答えたらよいか分からないまま時が刻まれていく。彼の自然に気付かないふりをするだけで必死だ。そんな想いの中で彼が声を掛ける。望んでいたのか、望んでいなかったのかは分からない。声を掛けられたいと思うけれど、どう答えるべきか分からない以上、何だか複雑な想いだった。
「邦枝…? どうかしたか」
 貴方と同じ想いを共有できてすごく嬉しいけれど、ぽっかりと空いた胸の穴は満たされない。今の想いを口に出してさえすればかなり心の穴は埋まるのかもしれないが、それでも全ての穴が埋まるわけではないことを知っている。まだあるツンとした痛みに、辛くもないのに僅かに滲む涙が自分の弱さを語りかけるようで複雑な想いを抱かせる。まだまだ弱い存在なんだと思い知らされる。彼の答えにはどうもしない、としか答えようがなくておかしな空気を生んでしまったかもしれない。だが、ありのままの想いなど口にできるほど自分に自信などまったくなくて、どうすべきか分からない。まだ続いているツンとした痛みに苦痛の表情など浮かべず対応するぐらいしか道はないように思う。それが正しいか間違っているかなんて、どっちでもよいのだ。そんな想いすら彼は、さも当たり前のように汲み取ってしまう。そうしようともしないのに、当たり前のこととして空いた穴を埋める言葉を吐き出すことができる。その証拠に彼は肩に手を軽く置いて、
「何泣きそうになってんだよ」
 別に何ていうこともねぇじゃねぇか。そう言いながら寂しさを別の力に変えるみたいに冷たいままさざめく海に視線を戻す。どうして彼が泣きそうなことを分かってくれているのか、そんなことを考え始めたらキリがない。彼の行動は、彼だけの本能にのみ従って働いているのだから。泣きたいわけじゃないから我慢した。まだ鼻や胸が痛む。いくらか遠のいた痛みだったが、まだなくなりはしない。このまま彼とも別れ別れになった帰り道に、こぼれ落ちてしまうかもしれない。それだけは情けなくて避けたいとも思う。だが、どうしようもない気持ちというものはあるものだ。
「あいにいくか」
 何を言っているのか、一瞬では分からずに彼に目を向けた。何度か瞬きをする度に、彼の姿がその瞬間だけ数回消えては現れる。現れた時の彼はゆっくりと、そしてまっすぐに視線を合わせていた。もう一度、同じ言葉を彼は口にした。二度目ということもあり、彼の顔も口元も目に入っていたから意味は理解できた。
“会いに行くか”
 簡単に言うがどこで何をしているか分からない年上の彼らの様子など知る由もないと否定的な言葉を発すれば、彼はまったく関係ないだろうと言わんばかりに首を鳴らした。
「居場所なんざ知らねーけどよ、東条の野郎はその辺でバイトでもしてんだろ。そっから辿るか、姫川の家にでも押しかけりゃ分かるんじゃねーの?」
 自分で動けば何かが変わる。そんなことも忘れて受験生という立場に甘えたり、恋という名の甘さに酔いしれたり、寂しいだなんて勝手に感じたりし続けて来たのだ。彼が思い悩むことなどないのは、考える前に行動してしまうからなのだと今更ながらに思い当たる。もしかしたら、と邦枝は心の中でほんの僅かに思う。せつなさは彼が消してくれるのかもしれない。彼が与えてくれるせつなさ以外のすべては。彼がそうしたいなどとこれっぽっちも思ってもいなくとも。そしてそれは彼であるからできることなのだということも。彼自身にはきっと、永遠に分からないだろうけれど。
「じゃあ、姫川の家の方が場所も分かってるし手っ取り早いじゃない」
「…だな」
 一つの胸の痛みを消すために、二人は歩を進め出した。途切れかけた縁など、手繰り寄せるだけの行動力があればよいのだ。勇気があればよいのだ。彼がいてくれれば、きっとそれは。


12.12.16

曲を聞きながらiPod touchで打ち込みました。なので推敲は甘く、何が言いたいかサッパリかも
って、いつものことですよね〜w

まだ片想いな葵ちゃんと男鹿の小話ですが、たらたら書いてたら長くなった……
クリスマス直前ネタとかぶりそう…

今からまた書きたいなぁなんて思ってるんですよね。男鹿と葵ちゃんの話

もっともっとショートになるはずだったのでタイトルらしいタイトルは無い(笑)



曲から〜…っていう話なので、今回は寂しい、せつない、がテーマになってます。
って見りゃわかる?

2012/12/16 20:57:53