解雇






今は孫権がこの孫呉の皇帝として君臨しているが、事実、顔で決する事が多いのだ。顔が悪いからクビになった者もいるし、また、顔の事を言われ続け、悩んでいる者、辞めていった者などもいる。孫権が皇帝になってからというもの、顔の冴えない者は、どんなに才が有ったところで、孫呉という国の臣としては働けない、という事態になっているのである。周瑜としては、この間違った考えを正したいと思っているのだが、いつの間にやら孫権が暴走し、勝手に事を進め他人を酷い目に合わせているのだから、始末に終えない。しかも孫権にすれば、悪気は無いのだ。

少し前の戦の際に、よく役立ってくれた人がいた。彼は周瑜の友人であった。彼のがんばりのお陰もあり、戦に勝つ事が出来たが、確かに彼の顔は、普通の人が見てもかわいそうと思う程の顔のつくりであった。とは言ったものの、彼が望んでそうなった結果ではないし、何も顔の事で邪険にされる覚えはない。
天は二物を与えず。
彼は天才的な頭脳を持っていたが、容姿にだけは恵まれなかった。しかしその頭脳たるや、他に勝る者なしと言われている。
勝てるとは思われなかった戦に勝利する事が出来た、そんな戦だったが、我々は勝つ事が出来た。それは彼のお陰である事を忘れてはならない。そんな、そんな彼に向かって孫権は戦ののち、悪気が有ったか無かったか、失礼極まりない、そんな言葉では言い表せない言葉を投げかけたのである。
「私は、顔の悪い者を見ると吐き気がするのだよ」
よく孫権が酒の席でも言う事だ。しかし直後、クビを言い渡したと言う。
これは周瑜が知らないうちに起こっていた出来事だったのだが、それを聞いた時、彼は友人にどう詫びれば良いやら、一言も出て来なかったという。それから彼とは連絡が取れない。別の国に渡り、そちらで活躍していると聞くが、彼を手放してしまったのは、孫呉にしてみれば痛手だったのだ。しかし孫権はそれを理解していない。
では一体、あの活躍は何だったのか。あまりの暗君ぶりに、頭を悩ませる事も多い。我々が見誤っていたというのだろうか。近頃は、大きな後宮を建て、その中に手当たり次第に女やら男やら、自分の好みの者を連れ込み、国の金をばらまいているという噂も流れている。
確かに巨大な後宮を建てたのは事実だが、国の金を握っているのは周瑜達である。ばらまいている事は有り得ないが、問題はそこではないのだ!そう、そう思われている事が問題なのだ。つまり、国民の信頼が、今までの暴君ぶりによって失われつつあるという事だ。これは大いに問題だ。これがどれほどの問題か、やはり孫権は理解していない。だから軽率な行動が取れるのだ。
それを考えると、彼は頭が痛くなる。胃も痛くなる。
最近は孫権の酒乱は日増しに酷くなっている。この間も酔った勢いでふらふらと外に出て行き、ひと暴れして来たらしい。物は壊すわ、ひどい言葉を言ったりもするわで、手に負えなかったらしい。
勿論、孫権は覚えていないので、怒ったところで効き目が無いのは明白だろう。
運良く機嫌のいい時は、どこの馬の骨とも分からない者達を連れて来て、これは私の側近にするだの、妾にするだのと言って、後宮だけに飽き足らず部屋に連れ込んで大騒ぎしていた時もあった。その時のハーレムの様子を見て、兄の孫策でさえ言葉を失っていた。もうどうすれば良いのか皆目見当もつかない、といった様子だった。

他に、こんな話もある。
実際、彼は事故か何かに巻き込まれてそういう顔になったのかは分からないが、CGで造ったような顔をした者を見た時に意識を失っている。ビックリする話だが、事実だ。思い出すだけで吐気がする、と彼はその後しばらくの間、何度もフラフラと手洗いに行く姿を見かけた。本当に食欲が無くなり、何日も寝込んでいた。しかし理由が理由なだけに、あまりの失礼さに驚くばかりだ。
本人にしてみれば死活問題なのだろう。実際に倒れているわけだから。
しかしそれで顔を見て人を煙たがっていいという理由にはならない。誰もがそれを認めはしないだろう。認めた者がいるとすれば、それは心無い者だ。いくら気分が悪くなるからと言っても、人としてのモラルに反する事は何事もやってはいけない。
これを教訓に、今を生きる若者たちは、人を見た目で判断してはいけない、と言う事を心から理解しなければならない。







なんなんでしょうか…。この話わ。
オタク小説を書こうとして、失敗したもののなれの果てです。が、この部分がすごく気に入って、眠らせておくのはあまりにもったいなかったので、こうして生かすことに致したわけであります。って、孫権ファンが書くことじゃねぇよな…?(またやっちまったよ、おっかさん…)
ホウ統VS孫権って感じです。イメージ的にそんな感じです。それを悲しがりながら呆れながら、周瑜がどうすれば良いか分からない、といった感じで頭を抱えている訳です。想像に難くない事と思います。
人は顔で判断してはいけない、と言う事は、頭では分かっていても、実際には出来ていないものです。悲しい事ですが。しかし、この孫権を見ても分かるとおり、顔でばかり判断する者は、いずれ信頼を失い衰退していくでしょう。本当に必要な事は顔ではないのです。中身で選ぶべきなのです。しかしそれは、あくまで理論上でのこと。実際には活かして行けないというのが世の常というものなのでしょうね。机上の理論だけでは何も出来ない。悲しいかなそれが事実。
今までも、そしてこれからも…この問題は解決する事無く、一生のテーマとして流れて行く問題の一つであると言えるでしょう。そう、この世の果ては何処にあるか、そんな壮大な問題と同じレベルの話ではないでしょうか。それを突き詰めて行っちゃうと、哲学的な話になっちゃうんだけれど。




※備考(090411)レッドクリフUが始まる時期にぴったし合ってしまったのは、たまたまですから。つか、Tも見てないし。まぁ仲間が八卦の陣最高!言ってたからTVでやるし見てもいいかな、くらいのもん。それ以上でも、それ以下でもなし。


2006/01/23 08:08:05