銃口は2人に向けられた

ぜろよん


※ 男臭い
※ イカくさい
※ 生理的なネタ


 快楽が頭の中を真っ白にしていく。彼女のことを思う。それがまた快感を深める。それを繰り返す。快感を高める行為は頭にも行動にも変動を与える。目の前の画面にいる女と、本の中にいる女が彼女と化す。本当は違う知らぬ女であるが、そんなことは問題ではない。画面の中の女が四つん這いになって誘う。男であれば誘われて喜ばないはずもなく、彼女は男の肉棒を嬉々として受け入れ喘ぐ。それが現実のものでなくとも構いはしない。脳内変換能力は、童貞時期長期を経てさらに強くなっている。だって日本では憲法で認められている思想の自由だ、と思うわけもないが、考えることは自由であろう。つまりは溜まった欲求不満を発散したいんです、ということだ。
 完璧に充実しきった男根を握って強めに扱く。本当は挿入したいのだけれど、はめ込むアナがない。女の身体もない。そして誰でもいいわけじゃない。アイツじゃなきゃ嫌だ。ごしごしと扱いてもそこは痛みを伝わない。不思議なものだ。勃起している時の性器はひどく鈍感で、快感にだけはばかに鋭い。人の身体が都合良くできているなぁと思うのはそんな時ばかりだ。
 先端から頭をさらに白くするような快感が溜まっていくような気持ちよさの塊が脳内を支配する。イく、と呟く。手の動きはさらに早まった。射精を促すこの行為は必要だが虚しい。だがやっぱり必要なのだ。虚しいけど気持ちイイし、う、と低く呻く。



「神崎くーん、早く着いちゃった。あ、」



 確かに約束してましたよ。久々に時間取れそうだし遊ばない?的な軽い約束というものを。約束した時間は昼過ぎだったと思うんだが、で今まだ午前中だろうが。自分の時間に何しようと勝手だろ。あ、って止まってなんで目の前で見下ろすんだバカ。っていうか戸を閉めろ早く!
「ゴメンゴメン、出直すね」
「オイッ、待てマテまて!頼むから俺の話も聞け!あと戸ォ閉めろ早く!!」
「ねえ城ちゃーん、神崎君の一人エッチの邪魔だって」
「頼む!マジ頼む!マジ黙れ糞夏目」
 予想外の出来事にガチガチに反り返っていたモノが萎れて、急激に訪れたあまりの羞恥に縮み上がらんばかりだ。さっきまでの興奮はただの冷や汗に変わっていた。最悪の気分である。っていうか、気付けよ俺!とも思うし。我慢汁でベタつくそこを軽くティッシュで拭って膝ぐらいまで下ろしていたズボンとトランクスを上げる。その間じゅう夏目も城山も何ということはない。まあ男同士なのだから身体のしくみというか、生理的な問題は理解しているのだろうが。要はタイミングの問題と、神崎がそれだけのめり込んでオナニーしていたという事実だけが重くある。お陰で顔ばかりが火照って熱い。
「まあ、その…なんだ、なんか分かんねぇが、ムラムラしたっつぅか」
「その辺は、…まあ分かるけどさ、何に興奮したの?」
 聞かれて答えようとするも、神崎はしばし躊躇した。答えるにもなんといって良いのか分からず、それでもようやく答えた。神崎がいったのはヤング誌の水着のデカパイ姉ちゃんのグラビア。これは分かる、胸の谷間の深さと赤いパーマ髪が恋人の寧々に似ているような気もする。だがもう一つの理由がとてもオカシイ。神崎は壁を指している。夏目は指の方向を見て、「は?」といった。だが神崎はそれからウンともスンともいおうとしない。だから夏目はもう一度、神崎が指した壁をもう一度見た。その壁はクリーム色で、古いせいか染みができているのは分かった。だが、他に何もない。だからもう一度、は?という表情で夏目は神崎を見た。だが神崎は手を下ろしてしまっていた。それでようやく理解した。あの染みとグラビアに興奮したのだという事実に。
「それは、結構やばいんじゃないのー」
 という、切羽詰まった響きをまったく感じさせない夏目の声色がこんな時だけは実にありがたい。興奮を覚えたクリーム色の染みを見ながら神崎は、否定の言葉を返したのだった。でも、その言葉は弱いものだった。なぜなら自分でも分かっている。結構やばいんじゃないの。そんなことは、夏目にいわれる直前に気づいてしまった。壁の染みに欲情するくらいに欲求不満だということか、と。
 それを念頭に起きつつ、神崎は座り直して夏目をチラと見てから目を逸らした。こんな情けない男の姿がどんな風に、このモテ男の目に映っているのだろうか。間違いなく情けない姿だろうがそれを思ったまま口にしない夏目という男は、もしかしたら思っている以上にデキた人物なのかもしれないと思いつつあった。だが、視線を合わせるのはやっぱりはずかしい。今の今だし。
「寧々ちゃんだって嫌だって言ってるワケじゃないんだから、お願いしてみたら?」
 もっとも適切なアドバイスといえよう言葉が降ってくる。心はそう遠くなくつながっている寧々と神崎だ。真摯に伝えれば真摯な答えが返ってくるはずである。言葉にはしなくとも、夏目はそんな関係が少し羨ましくもあった。軽い付き合いにはない、心がホカホカとする想いがそこにあるのが分かるから。
「お、…おう」
 ごくりと真剣に息を呑みつつ、神崎は頷いたのだった。恥ずかしいことなど今は捨てて、本当の想いを伝える必要がある。それを測るには確かに、自分や相手のことを冷静に分析する力が必要なのだ。これから神崎が必要なのは、自分の気持ちを素直に、だが寧々の嫌がらない色にして伝えることである。
 ああ、つまりはどうやってホテルに誘いましょうか!ということなのだけれども。それの布石にデートに誘う必要があって、そのデートは泊まりで。という必要がある。つまり難関はたくさんあって、それを難関と思うかどうかが焦点になる可能性もある。難関なのか軟関なのかは分からない。関門は通ってみなければ分からない未知への入り口なのだから。
 城山がなにもいわずに窓を開けた。その様子を不思議そうな様子です夏目と神崎が見ていた。気付いて夏目は笑う。
「あんまり男くさい空気っていうのもねえ」
「今日のこと、ここだけの話だかんな。絶対いうなよ」
 めんどうくさそうに緩やかな動きで神崎は、部屋のテレビとゲーム機のスイッチをオンにした。空気入れ替え係、ジュース運び係、その他諸々の面倒なことは勝手に城山がやるだろう。ゲームでもしながらじゃないと、彼女の顔は頭にこびりついて離れそうにもない。どうせ神崎たちが集まるとやるのはゲームなのだ。高校の時から時間が経ったというだけで、関係性には変化などないのだ。今日は、こんな情けない思いをした腹いせに、ゲームで夏目をコテンパンにしてやろう、と神崎は心に誓いながらコントローラを握りしめたのだった。



2012.08.10

三ヶ月くらい前に書き始めてちんたらちんたら書いたり、やめたりしていたものです。この神崎と寧々のシリーズは、前に比べて展開どうのというより、日々と、神崎と寧々の周りとのつながりなどを書いていく感じです。エピソード自体も短いし、読んでいてはあまりおもしろくはないかもしれない。
けど、プロローグにつながるエンディングがあるわけで、そこまでは書きますので気長にやります。



で、このオナヌー神崎。
結局彼は童貞なままなわけですよ。
ご卒業おめでとうございます。当然そこは書かなきゃならんよ、このシリーズ内で。よこしまですな。
まあまたいちゃらぶさせますから、しばしお待ちを。
2012/08/10 15:33:08