割のいい裏のバイトを見つけてしばらくすると、黒髪の美女を紹介される。
それはトラヴィスのプロレス技の師匠でもあるサンダー龍の紹介だった。いってしまえばこういう話だ。
「うまりアレだ。お前の刀はまだまだ弱ぇってな。鍛冶屋みてぇなアレの噂聞いたからよ。ホラ、礼に脱いどけ」
それにトラヴィスは慣れた様子でいわれたとおりに脱ぐこともなく頭を下げて礼を素っ気なく告げた。場所は近いようだ。というのも愛車の存在があるから当然なのだが。
トラヴィスはいわれた場所に向かう。驚きだった。自分の家から近い空き地と廃工場跡があるそこになにがあるというのだろうか。新しく鍛冶屋?が建ったなどと聞いたこともなかった。もはや半信半疑である。家から近いからわざわざ出向いてもそう無駄にはなるまいと腹を括っていくしかない。
トラヴィスは見知った空き地に向かう。何度も見たことがあったが、そういえばこうやって足を踏み入れたことはなかったのだと初めて気づく。やはり記憶に違わぬそこは空き地で、だが一つだけ違っていたのは廃工場のシャッターが上がっていた。しかも中途半端に。ここに入って問題がないかどうかは、足を踏み込んでみないと分からない。トラヴィスは図々しいと感じながらもシャッターと強引に上げながら、怪しいそこに足を踏み入れた。明るく照らす電気の灯りが誰かがいることを示していた。もしものために腰の得物には手をやっている。何よりトラヴィスは打撃にもプロレス技にも精通しているのだ。よほどの殺し屋でもなければ問題はないだろう。
「オイ、ここに鍛冶屋があるって聞いてきたんだが?」
わざと大声を張り上げるも、シンと静まり返った空間に息が詰まりそうだ。トラヴィスはもう一度ぐるりと辺りを見回した。鍛冶屋と呼ばれるようなものは見えなくて、もっと近代的な機械がそこらにあった。しばらくの間、トラヴィスは工場内を見るばかりだった。だが、人がいるような素振りもない。ゴクリ、息を呑んで漂う薄気味悪さに備える。もう一度トラヴィスが声を張り上げようとしたとき、後ろに人の気配があった。飛び退くようにして振り向くと目の前には驚くほどの美女の姿。それが黒髪の美女だった。
しばらく彼女を見つめるだけで時が止まってしまったようだ。メガネと白衣は他人を寄せ付けないためのガードのように立ちはだかっていたけれど、トラヴィスには関係なかった。自信もなにもかもどうでもいいのだ。黒髪の美女にいった。
「アンタが鍛冶してくれるってぇのか? 何なら俺のコイツも鍛えてくんねぇ」
もちろんそれは、トラヴィスの肉棒のことを指す。軽く腰を彼女に押し付けながらいった。途端に、冷たく冷め切った声が降り注ぐことなど考えてもみなかった。それを耳にして感情のままの表情を向けてしまったのは失態としかいいようがない。どんなに強くとも、男はやはり女には叶わないのだと思い知る瞬間がそこにはあった。
「バカなガキだな。さっさと帰んな」

それが、ナオミ博士とトラヴィスとの出会いだった。



それからというもの、トラヴィスは近所なのもありちょくちょくナオミ博士の元へ通った。理由は簡単。こんな美女とならヤりてえと思うのが男ってヤツだろ?
当然オトナの女であるナオミ博士はその事を分かっていたらしい。ある日それを指摘するように質問してきたのである。
「飽きもせずに……貧乏人は嫌いだって言ってんだろ。何で来るんだい」
「博士の顔が見たくって、つい」
その頃のトラヴィスはといえば、まだ殺し屋も駆け出しの頃で愛した彼女とも別れたばかりだった。とはいっても数ヶ月は経っていたので心の傷というべきか分からないが、あまり気に病むこともない状態ではあった。だが、暗い夜などは彼女のことを思ってしまうときも、人知れずあったことも確か。それを女を抱くことで解消できるような気もしていた。
そんなことは気の迷いだと分かってもいた。本当に気が紛れるなんて思ったのなら小金を貯めて風俗にいくほうが早い。それを求めてない以上、抱く相手が誰でもいいだなんて思っていないことは分かっていた。だが、この美女は格別だ。そうトラヴィスは感じたのだ。一目惚れしたわけではないが、それに近いビビビ的な何か。そう感じながら彼女の冷めた瞳を見つめる。
「あたしゃガキに興味はねーんだ。あたし自身セックスする気もないね」
「そんなこというなよ。…ナオミ博士、アンタはきれいだ」
「当たり前だろ。稼いだ金、そのために使ってんだ」
彼女は何をいってもつれない女。そこがまた魅力的だと感じた。そのまま構わずに彼女の細腰ごと体を強く抱きしめた。彼女と別れて以来、そんなことは初めてのことだった。この血の匂いに近い何かを漂わせる女に惚れているのだろうか。ぴたりとくっつけた体のせいでトラヴィスの心臓の音が早くなっているのをきっと彼女も感じているだろう。ナオミ博士のアゴを掴んで自分の方へ向かせる。冷たい目が視界に入る。強引にキスしようとする。だがトラヴィスは紳士だった。すんでの所で動きを止めて間近な所で彼女に問うた。
「…嫌か」
「ふん、怖気付いたかガキが。…それで正解さ。あたしはこう見えて、六十過ぎのババアなんだからね」
ナオミ博士の言葉の意味がまるで分からなかった。ろくじゅう、すぎ…?と確かめるように反芻し、それをアッサリと肯定されてしまえば思考は停止してしまった。ただ、触れた手先はそれを否定していた。この肌の感触は二十代、まあ金をかけているらしいからせいぜい多めに見積もっても三十代半ばというところだろう、と。だが彼女の口はそれを倍近くも上回る数字をいったのだ。思考が追いつくわけもない。



それから詳細を聞いた。
ナオミ博士は永久なる美を求めているのだという。
博士と呼ばれるだけあって彼女の腕前は確かであった。通販で買ってみたビーム・カタナはすこぶる調子は良かったが、三十以上の殺しをすると、途端に電力が低くなるのだった。それを言ったところ彼女はニヤリと笑って直してくれた。これからも金を払えば直すとだけ告げて。
彼女は確かに六十歳を超えた年齢らしい。そんなことを感じさせぬ免許証の写真には古い西暦が書かれていて、まるで狐に包まれてしまったような気持ちでトラヴィスは二度見した。そこで彼女に奪い取られてしまったのだが、見間違えようもない。もっと若いのですと見間違えたいくらいなのに。
「アンタはジャパニーズアニメオタク。あたしは美容オタク。それでいいんじゃない?」
まぁな、とトラヴィスが短く返事をすると、急にナオミ博士の唇が口に触ってきた。一度くらい罰ゲームみたいな、ご褒美みたいな何かがあってもいいんじゃないかと思って。とナオミ博士が笑った。彼女らしい、とトラヴィスは思った。だからいった。
「じゃあ、このまんなの流れでヤらして。」
その日、トラヴィスはビーム・カタナの強化をしてもらえなかった。ときの流れというものは、男女関係なく厳しいものなのである。


12.06.22
まさか書くことなどないだろうと思われたノーモア★短文第二弾!(ぇ

久しくプレイしたらヘンかっこよいゲームで、自分のツボであると感じました(笑)。2はまだ買ってませんが、買うなら限定版のDVD付きのやつかなぁ…などとアホ丸出しで考えてます。


まぁ上記は完璧な捏造なのですが、ヤりたいハメたいが行動力になっているトラヴィスと過程してのアレです。他にもサンダー龍さんとトラヴィスのモーホー未満な話も書きたいっす(笑)

2012/06/22 22:54:12