別れた彼女に会わせてくれ

そんなことをしおらしく言うとは思いもよらなくて、思わず聞き返そうとしてしまったが何とかそれを飲み込んで微笑んで見せた。協会の力があれば、生きてさえいれば彼女を見つけることは容易い。それは分かっていた。
「名前はなんというの?」
トラヴィスは躊躇い、何度か息を呑んでいた。それでも構いはしない。気長に待ってやろう。どうせ彼の過去など協会にしてみればなんということはない。ただ一人のランカーの出来事であるというだけのこと。
「……ジーン、だ」
「オーケイ、分かったわ。一位になったら彼女に会わせてあげる。必ずね」
そんなくだらない願いでよいのかと聞いたが、トラヴィスの考えは決して揺るぎはしなかった。そしてその日からトラヴィスは塞ぎ込んだように彼女を、シルヴィアの体に執拗に触れようとすることはなくなった。むろん、冗談っぽく太腿に触れようとしたことは何度かあったので、その度にキッチリとキックを入れてやったのだが。



ある日、シルヴィアは唐突にいった。
「彼女のこと、調べはついたわよ」
その時のトラヴィスはまた夥しいほどの返り血を浴びて佇んでいた。ランキングNo.は早くも3位というところまできていた。彼が欲しがる褒美が手に入る順位はもはや目と鼻の先であった。血の匂いを胸いっぱいに吸い込みながらシルヴィアは蒸せることもなく目を細めて笑った。トラヴィスは何もいわない。
「案外かわいいところがあるのね。ネコにおんなじ名前を付けるなんて」
急激に凍り付いた空気と、息を吐き出す前に、もしくは息を吸い込み終える前に、まるで風のようにトラヴィスは音もなくシルヴィアの真ん前に怒りの表情で立っていた。今までのランキング戦で確かに実力は上がっているのだろう。冷たい空気と共にあるトラヴィスはいつもの彼らしくはなかったが、きっとこれも彼の本来の素顔なのだろう。小さくシルヴィアは息を呑んだ。
「…余計なこたぁいい、ちゃっちゃと仕事しやがれ。じゃねぇと……犯すぞ」
シルヴィアはふふ、と笑った。元彼女の姿を見た時にも同じように笑った。それは、ジーンとシルヴィアがあまりに似ていたからだ。流れる金髪も、冷たいと思えるほど整った顔も、あまりに酷似していたからトラヴィスの想いを察して笑えてしまうのだ。ランキングがなんだ、女はこんな男など簡単に手玉に取ることができるというのに。
「まだ、愛してるのね」
トラヴィスが触れられない位置まで歩いてきていった。ざけんな、と叫ぶトラヴィスの声は無視してメルセデスに乗り込んだ。この美しい車はトラヴィスには相応しくない。
「バーイ。頑張ってね」
彼の想いが叶う舞台はもう間近。その時に知る事実を見て、彼はどう感じるのだろうか。シルヴィアは楽しみでならなかった。無理かもしれないけれど、早く上り詰めればいいのに、と思わずにはいられなかった。


2012.06.16

トラヴィス×シルヴィアにもならない文
まだゲーム自体はやる暇なくてランク8位になったばかりです。でも内容はさらっと、読んじゃいましたので(笑)

明るいスケベの心の奥底がかっこいいなぁと思ったものです。結構紳士だしね。
あと自分もジーン(ネコ)に癒されてます。まぁシルヴィアのおままるこにもだけどね(笑)
2012/06/16 22:32:17