※男鹿と葵恋人設定



男鹿が葵の目の前でタバコを吸う。石矢魔高校にいる以上は別段驚くこともない。だが今まで男鹿がタバコを吸う姿を見たことがなかった。思わず葵は声を掛けた。
「男鹿っ。何でタバコなんて吸ってるの、やめなさい、未成年でしょ!」
あ? と悪びれることなく男鹿は睨みつけるように葵を見た。だが行動はとても素直だ。早くも口からタバコを離して消している。さすがにそれには葵も面食らった。
「…タバコって、大人のおしゃぶりって言われてんだとよ」
今度は葵が目を向ける番だった。男鹿は急に何を言い出すのだろう。それが読めないあまりにぽかんとした表情のまま黙っていた。
そういえば、と葵は思い出す。タバコは口寂しい大人が癖になって吸うものなのだと聞いたことが何度かあった。
「ベル坊のが移ったかな」
急にタバコくさい息が近づいて、キスをする。口寂しい、とはそういう意味なのだろうかと聞く間もなく真っ赤になる葵。
「なっ、そんな…タバコくさいの嫌よ」
何とかそれだけ口にした。照れ臭くてかなわない。顔に熱が集まっているのは分かり切っている。
「分かった。やめる」
短く男鹿がそう言った。まっすぐな言葉とはひとの胸を打つものである。葵はどきりとした。まっすぐに彼をみるのは苦しいほどに。だが男鹿は葵から目を離さず、
「もっとさせてくれんなら、な」
まっすぐな男はとても胸が苦しくなる。ああ、愛おしい。

2012/05/30 22:27:45