「惇兄、あとは頼んだぜーーーーー!!!」
我国の為、古くから従い活躍した偉大なる人が亡くなりました。
それは壮絶な死に様だったと言います。
その悲しみに打ちひしがれる二人。
「…ッ…!ヤツ程の者が……ッ!!」
「悲しんでいる暇等無いぞ孟徳。
 淵の仇を討ってやらねばならぬだろう。」
悲しみのまま泣く従兄弟と、上を向いて泣くのを我慢する従兄弟。
「儂は……どうすれば良いのか判らぬ。
 愛する、関羽も死んでしまった……。
 あぁ…もう駄目じゃ、…頭が痛い。」

頭が痛い頭が痛い、と暫く苦しみながら、覇王も逝ってしまいました。
遺された隻眼の従兄弟独り。
「この……俺にも何も無い。
 淵も、孟徳も、何も無い。
 もう、なにひとつ……。」
護る者の無くなった者は、ただ衰退して行き―――
彼も又従兄弟達の元へ旅立って逝きました。



総てを見て来た体格の良い男が、この城を後にする。

もう魅力等感じない。
心誓ったあの人いないなら。
此処に居る意味疾うに無く。
あの人の為にあったこの生命、
これから何に使う当ても無く。
何処で何をして生きるのか。
生きる意味は果たして有るのか。
この答えは果たして見つかるのか。

生きながら死人になった彼は、何処に行くのだろう。


実は、彼は元々自分の家のあった場所に戻っていました。
其処は、貧しい集落。
親は居なかったけれど、懐かしい顔触れは少し残って居て、
彼は、少し救われた様な気がしました。

何年振りかの彼の姿を見て、
「若しや、お前は――」
それは昔、近所に住んで居た小父ちゃんの姿でした。
少し歳を取ったけれど。
彼は独特のゆったりした口調で皆に言いました。
「ただいまぁ〜」
皆は彼の変わり無い様子に胸を撫で下ろし、
「お前の活躍は聞いていたよ。」
「頑張ってるんだってなぁ。」
「お前は、私達の誇りだよ。」
と口々に言ってくれました。

けれども、

その言葉は何処か遠くて。
自分の居場所は
此処では無い何処かの様な気がして、
逆に寂しくなった。
皆と一緒に昔みたいに、
畑仕事をやったけれども、
昔とは、何かが違っていて。

何をしていても、自分は
別の遠くに居るみたいで。
此処に在るのは『器』で。
本当の自分は見つからなくて。
見つけられなくて。
何処に在るか、なんて分からなくて。


彼は毎日を村人達と、楽しく過ごしました。
彼は毎日よく働き、よく食べ、よく眠りました。
村も、彼が戻って来てからは暮らしが随分と楽になりました。
彼がよく働いてくれるからです。
ずっと、此処に居てくれるからです。
もう、今となっては、居てくれないと困るのです。
村人達は、彼に良く接し、不自由を与えない様に気を使いました。
しかし、余計な欲等無い彼にとっては、どうでも良かったのです。
欲しい物等、何も無かったのです。
やりたい事等、何も無かったのです。

昔はあったのかも知れません。
けれどももう、忘れてしまいました。
思い出せないのです。
何も。何も。何も。


全部預けてしまったから。
遠い処へ逝ってしまったあの人に。
あの人が全部、
持って逝ってしまったから、
忘れてしまった。
どんなに身体が大きくても
其処には届かないから
取り戻せなくて。


彼にはどうすればいいのか分かりません。
これからの事。自分の事。周りの事。総ての事。
彼の事が分かるのは、あの人しかいないでしょう。
だから、
彼はずっと村人達と暮らすのでしょう。
又昔の様に、この地を守り続けるのでしょう。

彼には、それしか、ないのです。
それしか、ないのです。
それしか。




* * * * *



魏でしたッ。書きたかったのだ!呉ばっかりでムカついていたのだ!(笑)
やんわり文章で、如何に暗くするか。これがキーでして。実際こんなに暗くなるとは思わなんだ。
しかも、何か長くない?(コギャル口調)バッタバッタ死んで(鬼)。なんとなく気持ち悪くて。
エピソード「4」にかけて「死」ネタな感じがするけれども、それはたまたま。
彼は覇王が死んでから何処に行ったのかなぁと思ったものですから。無双の彼は脳味噌も無いし。


2006/01/20 08:32:58