銃口は2人に向けられた

ぜろに



 飲み会の流れのまま、元から酒も強くないので近いほうの家に寄る。そんな彼、神崎の家がヤクザの家系だからなんだとか、考えるほど年も取っていない。寧々はポカポカするような酔いを感じながら、神崎の部屋で階下に消えた彼の帰りを待った。冷たいものでも飲んで少し酔いを醒ましてから帰ればいい、という神崎らしい配慮だ。明日の朝は寧々としても早いから泊まるよりは近い自宅に帰った方がいいとも思っていた。

 神崎が階段から上がった時に、どきりとするような声を聞いた。まるで何かに耐えるみたいに、だがその声の響きはあまりに甘くて、けれどもその声はどこか聞いたことのあるような声色で、どこか性的な色を帯びている。まさか、と思って神崎は慌てて部屋の戸を開く。
「あ、」
 寧々と目が合った。彼女の目の前にはテレビの画面。パンティ丸見えの女の姿が画面を支配していて、女がすすり泣くような喘ぎを洩らしている。
 神崎は叫び出したかったけれど、それより先に部屋に転がり込みながら慌てて戸を閉めた。こんな声が洩れたら面倒だ。と同時に、神崎の顔には一気に熱が集まってくる。怒ってもいないのにカッカしている。酔いも一気に醒めてしまった。
「テレビ付けてみたんだけど、DVD入ってるみたいだったからさー」
 何も考えずにただ押したのだと寧々はいう。そして何食わぬ顔で、自分とそう年端も変わらない女が喘ぐ様を映す画面を見て笑う。神崎がたまたま借りて見ていたアダルトビデオが再生されていた。これほど恥ずかしいことなんてそうそうないんじゃないか。顔からは火が噴き出そうなくらいに熱ばかりが集まっていて、その熱で脳みそだってまともに動くとは思えない。だがおかしくなる前に、と神崎は持ってきた飲み物だけをテーブルに置いて、寧々と距離を取って腰を下ろした。なんだか彼女のすぐ隣に座るにはひどく居心地が悪い。自分の部屋であるはずなのに。自分の部屋で間違いなどないはずなのに。
「こういうの好きなの。神崎って」
 それは開始数分で、オナニーを始める女子の姿が映し出されていた。電気マッサージ機で肩こりをほぐす若い女が、やがて胸にそれを当ててよがり、すぐ震えるその機械は股間に向かって抑えたひいひいという喘ぎと、純白のパンティとマッサージ機が触れ合う映像が流れている。一人でよがる女の姿は、男の身になってみれば楽園のようで理解し難い空間だ。
「…そういうわけじゃねーよ。ただ、女ってこんなエロいのかなって気になっけど」
 ただ否定するだけというのもわざとらしいものだ。だから本当は気になって仕方ない女子のエッチな気持ちとかそんな類のものになど興味ないふりをして寧々にいう。画面は濡れているのか、それとも濡れていないのか分からないパンティと、そこに押し付けられるマッサージ機が映っている。電動的な音がいやらしい水音などかき消していた。寧々は吹き出すように笑う。何だか分からないが、全否定された気分である。こんなものを見ていても仕方ない。神崎は地面を見てリモコンを探す。
「これはないなー。」
 寧々がまた笑う。テレビからは女の小さな喘ぎとマッサージ機がうごめく音。見つからない。と思ったら寧々の手の傍らにあった。声を掛けながら手を伸ばす。早くこの拷問のような空間から抜け出したい。
「まぁでも女もさぁ、男みたいにヤりて〜とか言わないけど、…なんていうのかな、エッチな気分になったりするよ。特に生理前とか、多いみたい」
「えっ」
 神崎が驚いたような声を上げて固まっている。寧々が横目に顔を見ると、目が合ってバカに真面目な顔をしているのが目に入った。予想以上に興味津々といったところか。
「アタシも、前はこう…、エッチな気分になったときはちょっと、あるよ。あ、でも最近はないなぁ」
 寧々は持ってきてもらったカップに口を付けて、茶を啜る。寧々の唇は厚めでいかにもやわらかそうで触りたいと思わせる。フゥ、と彼女が息を吐き出すとキスをねだってるみたいに唇が窄められてどきりとした。神崎の頭の中では画面の中の女が寧々の顔になりつつある。もちろん、これはないな〜なんだけど、それでも寧々も自分のアソコを触ったりしたことがあるんだ、そう感じた。画面に映った女はその時から寧々に変わった。寧々が、マッサージ機相手にオナッてる。
 大森、と小さく神崎が呼ぶ。伸ばした手を絨毯の上に付いて、彼女のすぐ傍まで四つん這いになって近寄る。すぐに腰を下ろす。片手を彼女の手に重ねる。奪うようにリモコンを取って、テレビの電源を落とす。耳に煩い電子的な音と女の声が消えて、静けさだけが辺りを支配する。目の前には互いの顔だけがあって、寧々から見えるのは神崎の真面目な表情。神崎から見えるのは虚をつかれたみたいな驚いた表情の寧々。キスに近いその距離でもう一度、大森、と神崎が低い声で呼ぶ。
 唇に触れようと神崎が首を伸ばしたが、どうにも届かない。あれ、と思ってさらに腕を突っ張りながら首を伸ばす。いや、それでも寧々には届かない。神崎には彼女の唇に触れることはできない。いつもなら容易かもしれない彼女は、今日だけはなぜか遠い。…なんていうとかっこいいが、単に寧々が逃げているだけだ。壁に近いそこで神崎は、はあ、と大きく息を吐いた。
「…いい、だろ?」
「嫌です。」
 間髪いれずすっぱり寧々は答えた。風の流れがおかしいだろうと思わずにはおれない。目の前の寧々は冷たい視線を投げかけてくるけれど、そんな寧々が脳内で下着の上から己の体をナゾりながらぴくぴくと震えている。性的な快感に耐えてひくついている。
「や、…だってよぉ」
「嫌、ったら嫌」
 断固拒否。とはいわれても、もはや神崎の理性の方が擦り切れてしまいそうだ。彼女が喘ぐ姿を想像してしまったから、一気に抑えなど利くはずもない。元よりキスすることも抱き合うことも、それ以上だっていつでも臨めるのなら望んでいるのだ。
 再び神崎が小さく、大森、と呼んだ。それに答えるように寧々の手が神崎の肩に添えられて顔が近づいてくる。拒否の姿勢はいつしか崩れて、神崎に体を委ねようとしている。その悦びに首筋辺りから背筋を通って下へ、ゾクリとするような何かが伝う。
 と、股間を急に捻りあげられるような感触。その予想外の痛みに声すら失う。ただ目の前の寧々は神崎を冷たく睨み付けて、その上で低めのドスの効いた声を出した。
「…明日早いっつってんでしょ。サカッてんじゃないわよ、どバカが」
「い、いででででででででで。やめっ、使いもんになんなくなっちまわぁ」
「あ?さっきアンタは酔い醒まして帰れ、つったんだぞ?覚えてねーのか」
「痛い痛い痛い痛い痛い。覚えてますすんません、大森様、寧々様」
 容赦なくギリギリと急所の金玉を抓るみたいにされてはすぐに降参するしかなかった。もはやその痛みに神崎は早くも涙目である。ズボンの上からでもバッチリ効く。これではキスとか恋人とのひとときとかラブロマンスなんて言葉から、気持ち良いほどスカッと遠い。まったく気の乗らない時に寧々を誘うだなんてどうかしていた、と後悔するしかない。
 やがて、厳しく苦しい痛みから解放された。苦行を乗り越えた神崎が自分のムスコを労わってやっているところ、頭上から寧々の声がする。
「じゃ、アタシ帰るわ」
「近くまで送る」
「イイって。一人エッチでもしてな」
「今日は、まじ、悪ィ!」
「バーカ」
 神崎を振り切ってすぐに寧々は帰っていった。すべて見透かされてるようでやるせない。確かに、今のこれでは送ってもらわない方がいいというものだ。
 部屋にはまだ寧々の残り香もあって、その温もりすら残っている。どうしてだろう、彼女がいなくなった部屋は寂しくて広い。そんな部屋で神崎は一人、無事を確かめるために股間を撫でていた。明日もう一度謝罪の電話を入れよう、そう胸に焼き付けながら。


12.05.03

鍋パーティ編とほぼ同時進行で書いてました。おバカな神崎と寧々の話、アダルトビデオ編

意外にこういう話って見ないですね。冷めた現実っぽい。
まぁ、ふとしたことで理性トんだり、少しエッチな話をしたりとか。普通ならよくあると思うけど、同人では書かれてないなーってトコで、もうヤるばっかりなんで。まあヤることヤッちまったらどーのと話す必要もないかなぁなんて…

こういう部分も踏まえてそれでも付き合ってるし、簡単に別れたりしないって部分もあります。
エロビで浮気とかそんなやつネタでしょっては思うけども
ヘタレって言うか、もはや神崎はおバカです。中学生男子です。


こういうネタを思いついたのも、たまたまAV見てたんですけどね(笑)頭悪いなーっていろんなエロ動画見て。あ、ネタになんじゃん、て。エロ動画の女は犬っぽいとか。や、声がさぁ…

2012/05/03 20:53:48