ここは船上。
彼らはこの辺りじゃ結構な大きな群れを成して、名も知れている、
湖賊。
「賊」と言うだけあって、あまり評判はよろしくないが、
他のヨワくてイキがってるバカどもよりキタナイコトはしていない。
と、頭領である彼は自負している。
その隣に、彼より体格の良い男が一人。
「おぉ、いたのか。幼平。」
「………呼んでいる。」
幼平と呼ばれたその男は、目でその方向を示す。
あァ、と軽く返事を返し彼はそちらに向かう。

行けばソコには柄の悪い男が数人。
「この前のしっぺ返しが来たッスよ。」
ぁんだと?と、彼は眉をしかめる。
奪った財宝を持ち出す前に持ち出された、というのだ。
男たちはいきり立つ。
「このままじゃ済まさねェッスよ」「やっちまいましょうや」
しかし、彼は思う。
元々、こっちが先に奪っちまったコトがキッカケだ。
それにアッチのヤロウどもは建国の為に躍起になっている。
今なんて強大な力をつけている最中だってぇ話じゃねェか。
あちこちに目ェつけて領土奪って拡げてるとか…。

彼は先程の場所に戻る。
幼平が先程と変わらない様子で、どこともなく眺めていた。
彼は幼平の隣にだらしなく腰を下ろす。
「オレらの獲物が、横取りされたってな。」
幼平は無言。
いつも、こうだ。
彼が返答を促すと、やっと重い口を開く。
「………やるのか。」
賊だけあって、皆気の荒い連中ばかりだ。
「頭」は「彼」だと決めてしまえば、それ以外に従う理由は無い。
つまり、ヘンなトコロで頭のカタいヤツらで。
良く言えば、忠義に厚い、といったトコロか。
しかし考えが一直線で単純過ぎる。浅はか過ぎる。
扱い易い様で、扱い辛いとも思うトコロ。
つまりは、「頭」がしっかりしなくちゃならないのだ。

「違ぇよ。」
彼は幼平に答えた。
幼平は、何も答えなかった。
こいつは、いつもこうだ。
彼は仲間たちを集める為動き出した。
彼が「頭」としてやるべきコトは。
押さえつけるコトでも、意見を聞いて煽るコトでもなくて。
意思を、持たせるコト。

仲間たちを集めて気合一発、
「アイツらの動きを、調べて来てくんねェか?」
皆、口々に「やるんスね」「いつやるんスか」「早くしよーぜ」
興奮して船上の熱が上がる。
「―――バカヤロウ!」
仲間たちの視線が彼に集まる。
「んなコトしたら、オメェら犬死じゃねェか。んなコトさせらンねェぜ。
 オレぁ『頭』張ってんのによォ。」
じゃァ…、と皆の視線を全身に浴びながら彼は答える。
「アッチ降るぜ。ヤツらに加勢してな!
 気にくわねぇヤツぁ、今のうちに船から降りろ。
 オレぁアッチだって充分に楽しそうだって思うぜ?」
彼の親友・幼平は、……構わん、と静かに言った。

そして、この湖賊たちは、孫策軍の挙兵を期に降るのだ。
それによって、彼らの運命は今までと全く違うものになったこと。
今までの意味無い人生に深い意味を持てたこと。
世界観が180度変わったこと。
チャンスをモノにしたこと。




* * * * *



蒋欽賊の話。4で出て欲しかった悲しさから書いたのか何なのか…。
周泰にもっと華を持たせる筈だったが、馬鹿過ぎるし口を開かな過ぎた為、叶わず。
あまり書かれなさそうドコロを書いてみた(…ってイツモ)。まだキズのない頃の周泰なんて、同人じゃ見たコトないからね。 トコロデ、欽ちゃんていつ頃何で亡くなったの?



2006/01/20 08:31:29