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その後のかんざきぐみ



 あの夜が明けて、夏目と城山と神崎の三人が揃ったのは数日後のことだった。
「おめでとう神崎君、やっと男になれたんだね」
 バカにしている。というかハタチ過ぎて女経験ないっていうのもヤンキー率100%の石矢魔では特に宇宙人にも等しいだろうが、それだけにガキのような男たちしかいなかっただろうが、と思う。しかも神崎と寧々のあのラブホの夜を気持ち良く勘違いしている。
「…だめだったんですか」
「え。どういうこと」
 城山の神崎に対するとてつもなく鋭い観察眼が曇りか何かを見つけたのだろう。あっさりと見破られた。もとより夏目が勝手に勘違いしていただけのことだ。別に嘘をつくつもりもなかったのだが、それでも口にされてしまうととてつもない失敗をしてしまったかのような残念な思いばかりが胸の奥にじんわりと広がる。
「ちゃんとおっきする?」
「やめろバカ」
 何をどう勘違いしたのか夏目が赤ちゃん言葉と共に神崎の股間を撫ぜた。その赤ちゃん言葉がマジでウゼー。とりあえず殴っとくか、と構えた所をうまく夏目が立ち上がってかわした。
「いいんだっつーの、時間かかったって。俺が選んだオンナだろ」
 あの夜の寧々は女豹のような狡猾な女だった。ひどくいやらしくて、いつもは見せない表情を見せてくれた。あんな夜も一つの秘められた想い出だ。ファーストネームを呼ばれて興奮するなど知らなかった。彼女の熱っぽい声を思い出すと、神崎もまた熱が蘇ってくるようだった。まだ下の名前は呼べないけれど、いつか当たり前に名前を呼び合うようになるのだろうか。ただそれだけのことなのにまったく想像できない。
「大丈夫そうですね」
「そうだね、なんか想像した?」
 何を言ってるんだろうと神崎が思ったら、さっきの回想のせいでムクムクと膨張しつつある股間を見て二人は安堵したようだった。このタイミングで立つなよ!と怒鳴りたくもなったが、相手が自分のムスコでは意味がない。沈まれと願いながらそれが目立たないように体育座りした。その姿を見て夏目が大爆笑する。
「おめえは今彼女何人いんだよ」
 夏目は見た目を裏切らず女にモテる。会ったばかりの高校時代から既に恋人がいない期間はほとんどなかったのではないか。別にそれを自慢することもないし、それをステータスとも思っていないようだったからあまり女の匂いはしない。やはりちょっと不思議な男である。
「今は二人、かな」
 いざともなれば神崎たちを助けにくるし、そこまで女にだらしないような印象もない。けれど彼女が二人いますなんて言われたらお前はなんなんだとも思ってしまう。流れる川のような性質のこの男はある意味掴みどころがない。そんなことを考える神崎と目が合った夏目はにっこり微笑む。
「一人はそろそろ別れる頃だけど。別にいやしい気持ちじゃないよ。俺だって選ぶ権利はあるんだから」
 そういうもんなのか。そもそも選ぶ権利とかどうこう言う以前の問題だと思う。モテない組は至って不公平としか感じませんけど何か? 別れ話すらノロケに聞こえたので切りあげた。この場所でノロケていいのは神崎だけだと勝手に決めている。
「お前は?」
 城山の顔を見た。この男こそ女っ気という女っ気がまるっきりない。浮いた話をまったく聞いたことがないひたすらに神崎の犬として、どんなワガママにも理不尽な暴力にも屈することのない最大級の無骨者。しかもなぜか三つ編みしてるし。
「えぇと………実はこの間、彼女に結婚の話を、されまして」
 いやまて。
 なんだこの展開。彼女とか恋人とか結婚とか、城山からはまったく聞いたことのない言葉を聞きながらこの世界がなんであるのかを神でも仏でもなんでもいいから、誰かに問いたいと神崎は思った。
「妹と弟が成人するまでは俺だけ結婚なんてできないと言いました」
 しかも正体不明だけど彼女さん? のプロポーズ的な話を糞まじめに断ってました。だからまて。どうして神崎の知らぬところで話が勝手に進んでいるのだ? まったく先は見えやしない。
 他にももう一つ、家族になるのなら越えねばならない壁があるのだと城山は言葉にせず思っている。神崎の家業ののことだ。神崎が組を継げば城山はその後ろでいい、そのに馳せ参じて彼と共に組を支えていきたいと、堅気の道を踏み外して共にいきたいと思っているのだ。まだその話は誰にもしていなかった。まだ先の話だったし、その前に訪れる妹、弟たちの成人の方が近い未来の話だ。さらには神崎自身の大学卒業のこともある。
「城ちゃんの彼女さん、カワイイんだよね〜」
 彼女に貼られたらしいプリクラを貼られた年寄り向けかんたん操作ケータイをするりと夏目は奪って神崎に向けて放った。見たくないはずがない! 城山の彼女なんて初耳だったが夏目は前から知っていたらしい。さすがに結婚の話は驚いて聞いていたが。はっしとケータイを受け取って、あまり大事に使われていないらしいキズもののケータイをの裏面を見てあっと声を出す。城山と確かに並ぶ可憐な印象の彼女は、ヤンキーからもかけ離れた普通な感じだけど、顔の造形はイマドキの芸能人よりも整っていて可愛らしい。
「いつから付き合ってんだ…?」
 世界は回る。ぐるぐるぐるぐる、長いだけ長くて、そんなものなんの意味もない。回ることにだって多分、意味なんてない。それを伝えるように神崎の頭の中もぐるぐると輪を描いて、やがて回転し過ぎて、
「二年くらいですね」
「お、お、お前もヤッてんのか」
 逆回転しても気づかないくらいおかしくなってしまいそう。
 城山にしてみればそういう話題にならなかったから話していないというだけのことだったのだが、この恋愛脳みそ中学生並みな神崎にしてみればまあ大それたことだったということ。
「…二年も付き合ってますからね」
 城山は僅かに眉をひそめた。ヤッてるとかヤったとかヤられたとか、そういう表現は何か違うと思ったせいだ。それはもう恋人同士ともなればそういう流れになるという話で、体も心もやっぱり自分だし、男だったり女だったりするのだから、愛情表現であり、かつ、ただの、性の流れなのかもしれなかった。

 人の数だけ恋愛もセックスも無数にあって、それがなんだというのか。好きにも愛してるにも目に見えないだけに無数の違いがあるというのに、それぞれをさまざまに楽しんだり悲しんだり悩んだり迷ったりすればよいのだ。
 世界は回る。ぐるぐるぐるぐると、飽きもせずに誰に頼まれたわけでもないのにずっと。それはなんの意味もなくて、意味を求める必要もない。誰を、何を中心に回るということもない。
 だから焦ることはない。ただ己のいきたい道をゆけばよいのだ。
「まじありえねぇ」
 とりあえず神崎が拳を振ったら、あまりに久しいその攻撃は城山の胸元にクリーンヒットし、キレイに大きな体は弧を描いて窓から落ちていった。神崎の部屋のガラスが割れる音が耳に心地よい。城山のケータイは持ち主を残して神崎と共にあった。


12.04.13

13日の金曜日に何か起こるのでしょうか?
お疲れ様です、さとうです。
大学神崎と寧々の話の番外中の番外。
また色気だけはあるけど食い気の方があるような話になってしまった…!

途中から神崎が別の意味でキレました(笑)あんまり意味わからんけどこういう精神世界と言うか、や、城山が絡むとなぜかそうなる。

寧々が出てなくてすいません、
前々から思いついてたネタにもならないネタだったんです。


話自体はとても単純。むしろ同人的には会話文だけで終わるような話。
ヤンキーとかパンピーとか関係なくこういう話ってするじゃん?特に男同士ではねー。
で、夏目はほとんど隙なく彼女がいて、でも他にももててたりとか。遊んでる感じだけど出来ちゃったとかそういう下半身のだらしなさは露呈しない。城山はぜんぜん女っ気ないのになぜかカワイイ彼女がいたりね(笑)
そんな印象です。特にこのきみのてシリーズ書いてる時にそう思ってたんですよね。
で、神崎はもう下半身含めて中坊だから(笑)。でも実はモテるとか。まあヤンキーもの特有のあれですよ。


ちなみに、
安心してください。
城山はガラスのせいで血だらけだけどケガはほとんどしてない(受身体質?)で次の日ワセリンでも塗って土建屋のバイト行ったはず、です!

2012/04/17 10:19:15