それが精一杯の背伸び




 神崎が城山の家に遊びにいくのは珍しくない。神崎がやくざであることなど知らないかのように彼の母親は振る舞い、そして城山家には父親はいない。単なる離婚も昨今は当たり前のことだが、どうにも物腰柔らかな城山の母を見てしまうと離婚という言葉はあまりに似合わないと神崎は思う。だが実際に城山は「父はいないです」と特に感情もこもらない調子でいうものだから、まあ、そんなもんなんだろうと思うことにした。他人の家の事情にとやかくいう筋合いなんてないのだし。
 城山は五人兄弟の長男。中学生の弟、小学生の妹と弟、二つぐらいずつ離れていて見るたびに体が大きくなっていく様も分かる。それを城山に言うと、意外そうに「そんなもんですかねぇ」と言う。毎日見てると分からないのだと城山は言うけれど、その割には神崎の些細な様子の違いにもすぐ気づくくせに、とわざと言ってやりたくもなる。無意味と分かっているやりとりをするほど神崎もガキではないつもりだが。
 今日もまた城山の家に来て、弟、妹と遊びながら他愛ない会話をする。なんだかんだと夏目はいつもバイトであまり来ない。何より来ても子供の相手にはぐったりしてしまうらしい。神崎の家でゲームをやったりAV見たりする方が彼としてはいいらしい。神崎はそんなことをぼんやりと思い出す。城山家の一番チビで小学校低学年ぐらいの弟とプロレスごっこをしながら、もちろん体を鍛えてないわけじゃないのだから楽勝ムードで城山に声をかける。
「夏目ってよぉ…、子ども苦手っぽくねぇ?」
 急にかけられた言葉があまりに意味不明過ぎてさすがの城山も言葉に詰まる。何故今そんな話が浮かんで来たのか、皆目分からないところがあるからきっと話題の人である夏目は神崎の下に付いたのだろうが、そこは魅力と言うよりは単純なナゾだろうと思う城山はただ「…はあ」と気のない返事を返しただけだった。
「なんだよ、それだけかよ」
 不服そうに神崎が低い声を出すものだから、城山は思ったことを、否、前々から思っていたから次のような言葉が出てしまった。城山自身の純粋な気持ちだ。
「神崎さんは、子どもとか好きですよね」
 やたらと面倒見のいい神崎の姿を見ると、ヤクザがなんだケンカがなんだと城山は、本当は思ってしまうのだ。その微笑ましさのあまり、神崎が戦いなど無縁の世界の住人のように感じてしまうことがよくある。そしてそれはまるで神崎自身の望みではないかと思ってしまうことがある。だが、それを誰かに口にしたことはない。なぜなら、その望みはもしかしたら単に城山の望みだからかもしれないからだ。崇める神崎の姿に自分の思いを投影する……そんなことは心理学的にはよくありそうな話だ。
 そんな思いを知ってか知らずか神崎は城山の言葉に少し考えてから答える。おかしなところでマジメだったりする。
「ん、…まあ、嫌ぇじゃねえけどよ」
「イイ旦那さんになるんじゃないですか」
 城山がそう言うとまた、はたと考えては慌てたようにムキになって「ならねぇよ!」と言った。きっとその間に神崎は気にかかる女のことを思い、結婚を考え、子どもをあやす自分たちの未来を瞬時に夢見たのだろう。
 だがきっと邪魔をするのだ。自分は神崎家の跡取り息子でそんなことを悠長にやっている立場ではないということを。否、むしろそうはできないということを。もちろん気にかかる女と結婚などもできないだろうということを。
「俺が女だったら、迷わず神崎さんと結婚しますけどね」
「……やめろよ、マジキメェ。てめえホモか、ブッ飛ばすぞ」
 言われるのを分かっていてわざと告げた。もちろん城山の言葉には偽りの気持ちはない。だが城山は女ではないし、神崎と結婚するわけもないのだ。それでも神崎には未来を悲観しないで欲しいと願う。ヤクザだろうが子煩悩だろうがなんだろうが関係ない。ただ、幸せであれ、と。


12.3.22

短編にもならないくらい短編のものを書こうと思って浮かんだ言葉を文章にしていったら思ったより長くなりました、ネギでありんす。


城山との会話と夏目との温度差がいいかんじだと思うのですがいかがでしょーか?
もちろんこれはカップリング要素などありませんよ!だって、城山は女だったら結婚するとは言うけど、それがイコールホモにはならないでしょうが!
これで神崎×城山とかもしくは逆扱いされたら悲しい……
ただそういう話をしたってだけのことで、意味はないわけだから。


ただ深読みしてもらわないとなぁー、な部分もあるんですよね。神崎はなんでそんなに強く否定したんだろう?ってことですね。要はヤクザにコンプレックスを持ってしまってる。武器にしながら嫌がってるっていう、すごくめんどくさい感じ。
深層心理とまではいかないぐらい単純なところだけど、自覚がないあたり表現が難しいのかな、と思いますね。
何かしら感じ取っていただければ。

これからもこういう恋愛要素の薄い文章バリバリ書きたいとか、きっと閲覧してくださる方の意見無視系な思いを抱いてます。


時が終わるまで

2012/03/22 00:14:42