心惹かれたのはその容姿ではない。むしろどこにいても目立つそれは気に食わないという理由にすらなり得たから。だから注目するかしないかは別として、互いの存在を知っていた。その強さは目にしたことは無いまでも耳に届く情報が伝えてくれていた。その力をみてみたいと思うようになるのはドンパチに明け暮れている世界の者なら当たり前。
 番長決戦などと言われながら校庭で二人の男が対峙する噂は瞬く間に広がった。石矢魔高校・番長 冨山眞樹雄と一年坊主である噂の男・早乙女 禅十郎の二人の石矢魔頂上決戦である。同じく入ったばかりでレディース・ワルキューレのヘッドとして既に名を馳せていた斑鳩 薺はお手並み拝見とばかりに対決の模様を見に行った。
 決着はそんなに時間がかからなかったはずだが、なかなか主役の一人である禅十郎の姿が校舎から出てこなくて待たされた。つまり、この対決を楽しみにしていた者たち全員と、さらには対戦相手である番長冨山も然り、である。二十分も待てば十分だろう、と冨山は戦線離脱だろうと声高らかに笑った。そして拳を振り上げた所にその男はきた。何食わぬ顔で下駄箱から出て校庭をそのまま通過しようと。
「なっ……!」
 驚いたのは冨山彼本人である。もう勝利をほしいままに頂戴したものだと思っていた所にその相手がひょっこり現れたのだから。そして冨山の取り巻きどももかなり動揺した様子で、だが勝利を確信しつつ禅十郎に声をかける。
「て、てめえ……、何してやがった」
「はぁ? 追試だけど」
 急に聞かれた答えには禅十郎はそれだけ返した。当然である。禅十郎にしてみれば周りにいるいっぱいの人らはヒマかもしれないが、自分はせっかく入った高校の落第の危機なのである。そもそも集まっているのは勝手だが理由など追試を受ける自分になど無関係なのだ。よって声をかけられた意味についても不明といえる。
 だが、きゅうにツイシという単語を聞かされピンとこないお供のザコは凄んで決闘の時間に遅れたことを避難しだした。聞かされてぼんやり顔で番長をみやり「しらねーし」とだけ。そうなればバカの代名詞の番長は禅十郎に殴りかかるのがセオリーだ。そしてこれを読んでいる方なら当然結果は分かるだろう、一撃の元に番長は降板するという結末が待っているのである。
 しかも数人で飛びかかって行くものだから禅十郎も身の危機を感じて悪魔の力を弱めにだが出してしまい、人間にはあり得ない一撃の元に何人もの先輩らを沈めてしまうという偉業を簡単にやってのけてしまった。
 その日から早乙女 禅十郎は【悪魔番長】と呼ばれ、石矢魔の悪魔伝説が流れることとなる。


 その時に薺は禅十郎のことをまともに目にした。あの強さとは何なのか。まるでマジックのような鮮やかさ、そしてうさんくささ。何食わぬ顔で帰って行った禅十郎の後ろ姿を見ては理解できない人智を越えた何かに拳を握るしかなかった。自分ではあの力は持てないだろうと一瞬にして悟ったから。だが周りから問われるのはあまりに的を射ない反応で拍子抜けしてしまう。
「番長が一目置いていた女である斑鳩なら悪魔番長を倒せるんじゃないか」
「対決はいつになるのか」
 まったく勝手な話である。禅十郎とまともに闘って勝てる人間がいないことは明白だというのに。つまりはそれだけ周りの人間が弱いから、彼の強さを理解できないのだと知った。
 彼には近づくべきではないと本能はチカチカと赤信号を出していたけれど、強さの秘密を知りたいと思う探究心は抑えられるものではなくて目につけばチラチラと盗み見るようにしてしまうのが情けないと薺も感じていた。だがどこに強さは現れるのか、隠されているのか分からない以上へたに目を逸らすことはできなかった。


 そうして見ていること数ヶ月、合わせたわけでもないのになんとなく同じ帰り時間になってしまった薺は今日こそ強さの秘密が分かるだろうかと足音を立てぬよう、相手に警戒されぬよう歩いていた。
 横断歩道は当たり前の道で、人の形をした青信号が点灯しているから道ゆく少女は白と灰色の間を足踏みいれる。だが車は速度を緩めないで少女へと近付き、信号は青のまま。クラクションすら鳴らさない車はさらに速度緩めることなく近づいて
 文章にすれば長い時のような印象すら受ける(かもしれない)けれども、時にすれば息を吸うくらいで終わってしまうほんの短い時間。少女を守ろうとするように、悪魔番長は飛びかかりながらあの悪魔的なチカラで車を吹き飛ばした。
 あの破壊音は確かなものだから見間違いではない。溶けるように破壊されたトラックは運転手だけを残してそこに姿はない。トラックの溶けゆく姿を一部始終目にしていたのは斑鳩薺彼女自身。もちろん少女は抱きすくめられるようにされながらあたりを見回して、ありがとうお兄ちゃんと言いながらもトラックがないことに疑問を抱きつつ手を振り目指す場所へ向かい直したらしい。
 呆然とした表情が目についたらしい。禅十郎が薺に声をかけてきた。
「おう、……見ちまったか?」
 嘘をつけるほど脳みそ回転してなくて、声を発するほど落ち着いてもいなくて、ただ首をバカ正直に縦に振った。そう聞くのはきっと禅十郎にとって、そう好ましいことではないというのに。
「しゃあねぇな」
 禅十郎はさして気にする様子もなく笑う。そして薺の側に近寄ってきた。


支配出来ない虫けら




12.03.06〜07
バルシェ nameless story聞きながら。
合わないけどごめんなさい(笑)

気持ちいいほど捏造な禅と薺です。
べるぜ的には男鹿と葵の関係に近いことを言いたかったんでしょうけど、ワタスはどちらかといえば湘南の鬼塚と志乃美の関係を思いながら書いてます。分からない方はGTOの過去っていことで(笑)まあそんな印象です。もう少し続きますが次で終わります。
禅となずなの過去が出る前に書いてしまいたいと思って、ヤンキーもの特有ネタも散りばめましたから(笑)。まあ書き逃げします。男鹿と葵よりは大人な感じで捏造してますが、ジャンプとしては幼い感じで止めざるを得ないでしょうね(笑)

僕は狂気の模造品より
2012/03/07 18:43:00