彼女を思う程に


 それはバカみたいな晴天の日で、バカみたいなクラスメイトである神崎が土星に飛ばすだのと吠えながら土星近くにまで飛ばされたあの時のような晴れ方だった。それを思うともしかしたら自分は晴れよりも曇りとか雨の方が性に合っているのではないだろうかと思ってしまう。だがそれを誰かに指摘されたわけでもないのに、勝手に思っただけのことだというのに、どうしてだろうか胸に残ったしこりのようにその日じゅう姫川の中に残ったままだった。ただ晴れていたというだけの日だというのに。
 その日、帰りに職員室の近くの廊下で早乙女(先生)と邦枝が話をしている姿を見つけた。たまたまだろうと思っていたがもしかしたら顔色の冴えない邦枝のことをなんとなく気にしていたせいかもしれないなどと気付く。邦枝がなんだというんだ、と姫川は脳内で自分に言い聞かせる。ただの、髪が長いだけの女じゃねえか。
「その、長く休ませてもらっても、いいですか」
「……悪魔…だな? 男鹿のこともあんだろうし」
 悪魔。男鹿。どちらのワードも何かしら意味深に、姫川の耳に届いた。立ち聞きなどするつもりはなかったけれどそこに留まった。だが留まった意味はなく、早乙女が早々に分かった、とだけ告げれば会話は終了。邦枝も足音立ててその場を去ってしまう。結局何であったのか分かりはしない上、早乙女に声を掛けられる始末。
「助平。盗み聞きかぁ?」
「違うね。たまたま聞こえたんだよ」
 きっと邦枝は男鹿のために悪魔野学園のヤツらと闘るつもりなのだろう。単語だけで会話の内容を理解するには充分だった。だからすぐに姫川は頭を切り替えて答えることができた。悪魔野学園の連中は確かに悪魔な強さを持っている。それはあの東条がボロボロにされたことでも明白で、メンチ切ったのはいいが自分たちなどでは到底敵うような相手ではないことを知っていた。だが、女の邦枝がそれに向かって行くというのなら黙っているのは男が廃るというものだ。カッコワルイというものだ。
「アイツら、倒す手があんのかよ…?」
 カッコワルイ自分を晒すのは嫌だと思った。男らしく、ポリシーをもっていたいと思った。そこには邦枝のクソ真面目な顔が浮かんでいた。何かを強く願う時、邦枝は確かに姫川の脳裏に現れた。意味などないけれど。目の前にいる早乙女がにやりと笑う。考えを見透かされたみたいで不快だったが何も言わないことにした。
「おもしれぇじゃねぇかクソッタレども。俺が教えてやんぜ」
 悪魔野学園の魔手から邦枝を救ったのは男鹿だったという。話だけは何ともこちら側が情けないの一途を辿る。そんな思いをするのは嫌だと思う。他人を守りたいなどと青くさいことを考えているわけじゃないが、後から事実だけを聞くような村八分のような思いはしたくないのだ。銀のリーゼントが揺れる。このリーゼントが汗で流れて落ちてしまっても、悪魔野学園の調子コイたヤツらを倒すためなら構いはしない。その思いの向こうで邦枝がきっと手を伸ばしているだろう、と何となく思った。


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12.03.04

お疲れ様です。

久しい更新に短文。姫川と葵ちゃん。
ちなみに、葵受け企画サイトさんのものを書きながらアルイミ、リハビリ的な文章です。
コミック15巻読んでまったくついていけなかった展開に勝手に色を付けてみました。まぁ既に本誌であの時はこうだった、的な話をやっているとは思うんですけど(笑)気にしないことにした。コミック派の弱さであり強さやねぇ〜。
無意味にイケ川になっていた理由とともにお届けした、つもりです、ハイ。

2012/03/04 00:10:39