「この子は、可愛いであろう。」

そこには、十にも満たぬ少年の姿。
あまり、育った環境はよろしくないのであろう。
みすぼらしい服を纏っている。
「代償にと預かった子でな。」
男は左唇を上げて笑う。
一緒に居た若い男が問う。
「どうなされるおつもりで?」
「しっかり働いてもらうさ。
 使わぬ手はなかろう?」
子供は、男の様子を見、肩を震わせる。
何をされるのかと、恐怖を覚えながら。
「戦に出されるのですか?」
「…まさか!
 こんな年端も行かぬ子供、
 戦に使うか。」
では一体…と、若い男は不思議そうな顔をした。
「まぁ見ていれば判るさ。
 間違いなく、この子供は使える。」
悪どい笑みが子供の胸に刺さる様に痛い。
子供は、啼いた。
恐くて。怖くて。

急に泣き出したので、男は驚いて子供に、
「もう大丈夫だ。
 儂の処に来れば、何も恐がる事は無い。」
と、抱き上げた。
子供は恐ろしかったが、それを口にする事も恐れ多く、出来ず。





それから数日の時が経ち、
「異国の少年とは、どんな子供で?」
次々にあの悪どそうな顔の男が問われる。
男はまぁ待て、とやんわり躱す。

集まる人の波。
沸き起こる、歓声。
皆、『少年』の登場を心待ちにしている。
扉の裏で、少年は緊張と恐怖に震える。

またしても、男は薄ら笑いを浮かべながら、皆の前に立つ。
「この様な事は初めて故、異国の子は馴れておらぬ。
 何分、大陸の外から流されて来た身、
 どうか今回は見るだけにとどめて戴きたい。」

辺りがシンと静まり、一斉に扉の方に目が向けられる。
かちゃり、と小さな音と共に、扉がゆっくり開く。
唾を飲む観客。
ゆっくり、ゆっくり、震える足で、子供は姿を現した。

大きな、碧い瞳の、少年。
その姿は、先日の様な、みすぼらしい姿ではなくて。
豪華な絹を纏い、驚く程紅い髪も、綺麗に結わえられ。
頭、耳、首、指、腰、全てに豪華な装飾品を揺らしながら。
オー、と歓声が上がった。


これは……!?


ある種の快感か。
少年が感じたものは。
見られる事で、何かを満たした。
今まで一度も感じた事無い何か。





こういった催し物は、長くは続かなかった。
時は乱世。
娯楽に耽っている、時間など、皆無。

男の生活は、日に日に苦しくなっていく。
しかし少年を大事に扱う男。
けれども貧相になっていく食事。
あの生活は何だったのか。
こんな幼い少年すら感じる、貧しさ。
減っていく、あの、新しい快楽。

そして、男は大敗を期した。
失う物の、大きいこと。
残る物の、小さいこと。

少年は、家族の元へ、帰る。
あの快楽は、消え去った………





* * * * *



これは、新しい観点で「孫権ちゃん&袁術」を書いてみました。
どうだったでしょう?
苛められる話は結構ありそうだけれど、大事にされる話はないだろう、と(笑)
この話には後日談がありまして。
『可愛がられ続けて来た権は、自分の容姿の醜さに気付き、自虐と暴挙に走る様になるのです。』
あぁそれでコンプレックスが…みたいな(笑)
因みに、悪どい顔の男→袁術
若い男→田豊(袁紹トコから何かあって来てた?とか?) のイメージ。

新しいイメージで、袁術は『イエローキャブ野田社長(もう辞任したけれども)』というのがありまして、『エロオヤジと見せかけて、ビジネスオヤジだ』とか(笑)だから孫権ちゃんを商売に使おうとしたんですよ。見世物に。かなり最近の発想です。アイドルの走りです。異国の少年と偽って見せて、金を取っていたんです。それでこれからもどんどんやってもらう為に、金もつぎ込んでいたんです。『商品』として大事にしていたのです。とても。自分が破綻するまで。兄にやられるまで。
そういう明るいのか暗いのか、ハッキリしない御話です。ハイ。やはりこういう、どこか救われない話が好きみたいです。
乱世に生まれて来るべきでは無かった人物ですね。
商売上手?(笑)


2006/01/20 08:26:04