ラブソングじみた沈黙


帰り道に手をつなぐことが当たり前だった。ふ、とそれを思い出したのは時間が過ぎ去ってしまったから。つないだ手の温かさを覚えているから。いや、思い出しているから。まるで、昨日のことのように。



その日はしんしんと、静かに冷たく雪が降る日だった。
特別な言葉など必要ない。その日、ただ寒かったのだ。神崎は隣にいても違和感のない彼女の手を握った。それはまるでいつもしているみたいに、ごく自然な行為であったはずなのだったのだが、彼女が握られた手を見て、その握っている先に神崎がいることをまじまじと見て。その目つきを見た神崎はきっとこの行動は失敗だったのだろうと感じた。けれど彼女の目は驚きながらも嬉しそうに笑みの形に細められていたから問いただすようなことはしなかった。きっとそれが最善の道だったのだろう。過ぎ去った後でも神崎はそう感じている。それを封切りに神崎は、特に口裏合わせをしていたわけではないけれど彼女と同じ時間に帰宅する際は手を握った。もしかしたら彼女から握ってきたこともあったかもしれない。二人が手をつなぐことはやがて当たり前になってしまったから、そんな細かいことはすぐに気にならなくなってしまって忘れてしまった。過ぎ去った今となっては大事な思い出のはずなのに。



時は流れた。
彼女はまだ高校生だけれど、神崎はもう社会人だ。組を背負う立場にある。だから手を握って帰宅している暇などないのだ。わかっている、そんなことなどとうにわかっている。だが、去年の今頃の季節がひどく懐かしい。その頃に戻りたいと思うくらいにとても。組を継ぐということに悲観しているわけでも、投げ出したい気持ちがあるわけでもない。けれども冷たいこの季節に彼女を思い出してしまう。ひどく感傷的でバカみたいだ、と神崎自身も思う。いつも彼女の手は神崎のそれよりも温かい。だから握りたいと、握っていたのだと言い聞かせる。それ以上の気持ちなどなかったのだと何度も神崎は頭の中で反芻する。そうしないと、あまりに今の自分がみじめな気がしたから。決してしあわせでないということではないのに、どこか満たされない心があるような気がして冷たいあの時のようなしんとした空を見つめた。寂しさを埋めたい、と唐突に思ったので他人の手と思いながら自分の手を指絡ませて握ってみた。自分でやったものだから単に、神に祈るみたいに手を組んだだけ。なんだか笑えてきた。通り過ぎるひとがぎょっとしても構いはしない。今は気持ちのまま笑うのがお似合いだ、そう思った。空は黒々と闇のみを示していた。ただ吐く息だけが白い。


12/28

神崎と彼女。
クリスマス文のつもりで書いた
どうして神崎だけ報われない(笑)?
彼女は誰であるか書いてないし、彼女というのは恋人、という意味ではないのです。あくまでherのこと。
テーマ曲はコブクロのあなたへと続く道です。歌詞そのまんまっぽいとこもあるくらい。
なぜかあっしの書く、ヤクザの道を進む神崎は後ろ向きなんですよ(笑)彼が似合わないせいだろうか?謎ですがしあわせにヤクザを進む神崎も書いてみたいものですなぁ。ではよろしくでございます。

クロエ
2011/12/28 19:04:08