逆さに進む時計


失われた命のともしびを見つめる。
パチパチと爆ぜる音がどこか空虚で、そんな音を無視して彼女が何食わぬ顔でひょっこりとでてきてくれるのではないか、などとあり得ない事象を本気で願う。彼女の笑顔が頭から離れないうちは、本気でこの世界で笑うことなんてできないだろう。ただ、今は昨日まで馬鹿みたいに流した涙も枯れてしまったようになりを潜めていた。悲しみがあまりに深いのは、泣けないことと非常に関係があると聞いていた。それを確かなことと思った。
そこではまだ、あと数十分は爆ぜる音が消えはしない。彼女の体が炎に焼かれ灰となるまで。形がなくなってしまうときが近づいている。
思い出す。守りきれなかったことを。悔やんでも、悔やみきれない出来事だったといってしまえばそれで終わるようなこと。事故といえばそれまでのこと。ただ、そこに居れなかった自分がどれだけ無意味な存在であったのか。誰に恨まれる訳でもない、けれども自分で自分を激しく恨む。
火葬場というこの場所では誰かに怒りをぶつけることもできないから、ただひたすらに唇を噛んで黙ったまま拳を握り続けていた。それは指が白くなるほどに。



お通夜が昨日だったのだから、一昨日のことだったのだろう。もはや時間など何の意味もない。けれど時間は過ぎているのだと思い出が知らせてくれる。腕につけたデジタルな日付も知らせてくれる。けれどもだからなんだ、と思うばかりだ。日付など無意味だ。
彼女は最期を迎える直前に、一緒にいたのだ。最期の最期はきっと一緒ではないそのときだったのだろうけれど、それでも間違いなく最後に一緒にいたのは神崎だった。
そう思うと思わず、神崎の背にゾクリとしたものが音もなく走るのだ。分かっている。事故だ。彼女は神崎を恨んではいないし、彼女の親なども事故であるからむしろ一緒にいてくれて、救急車呼んでくれてありがとうね、などと言うのだ。
それでも神崎は思う。有難がられることなどひとつもできなかった。それより、一緒にいたのだから彼女を守ることもできただろうが、と思ってやまない。悔やまれることばかりだ。彼女から離れなければ…とか、彼女を誘ったのが悪かったのか、とか。そんなことを考えること自体が無駄だなんて分かっている。なくなったときはどう足掻いても戻すことができないものだし、それでも願ってしまうのは愚かな人間というやつなんだろうと思うばかりだ。



その日、いつもみたいにゲーセンに行った。受験生とかそんなことはどうでもいい。とりあえず最近、2人でハマっているゲームがあったので協力プレイをして盛り上がっていたのだ。そのせいでゲーセンには日参していた。だからそんな場所に行くのは珍しくもなく、単に『いつものあそこに行こうぜ』的な雰囲気でむかい、いつものようにゲームをプレイしていた。本当に、いつもの放課後だったのだ。

帰り道。こう神崎が言ったのは初めてだったかもしれない。だが別におかしい言葉なんかじゃない。当たり前のことだ。
「ちょ、便所〜」
そこで離れたのが分かれ道だった。
彼女は、死んだ。


彼女は、死んでしまった。



神崎が気付けば、黒い礼服を着た人らがそこらにいた。ああ、今は葬儀の最中だったな、とやっと正気に戻る。もしかしたら誰も信じてくれないのかもしれない。けれど、神崎は、神崎だけは知っている。
(彼女の死は、故意、…だ)
と。そして、それを誰も聞きたがらないだろう。だから神崎は誰にも口にしないことを決めた。自分が持つ、彼女の死への不信感を口にしないことを。何も口にせず、彼女の両親へ深々と頭を下げた。どんなに頭を下げたところで彼女の生は戻ってはこない。それでも頭を下げずにいられない。申し訳なかったと思わずにいられない。『作られた事故』を見過ごせない。だから「すみませんでした…」としおらしく頭を下げることしかできないのだ。自分が殺してしまったかのように。

2011.11.13
title of : refrigerator


「神崎の彼女」というつもりはなかったのですが、“相手”を指す言葉として彼女と当ててしまったし、それっぽくなってしまいました。神崎の彼女ではないということを次の話で書いていきたいなぁと思っています。
なぜか次回は葵ちゃんも出てしまいます!元より葵ちゃん大好きでべるぜハマッた口なのでね!(笑)
原作読んでからなぜか神崎ブーム、神崎ラバー。理由はわからんけど、かわいらしいのが好きみたい。

でも今回は死にネタということで話は暗いです。
たぶん、最後まで暗い。最後の話をどうもっていくかまだ悩み中です。でも大体決まってますけど、尻切れになったらゴメンネ。

この文章のテーマソングは バンプ:ゼロ
むしろ歌に合わせて作ったみたいな文章だったりします。ええ〜…おいた

もうしばらく続きますのでよろしくお願いします。

2011/11/13 23:54:09