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 くすくすと寧々が笑っている。笑うのは構わないが、股間を握り込みながら笑っているのはどうかと思うが。見上げた寧々の目にはいたずらっ娘のような色が浮かんでいる。しっかりと邪気もたたえて。それがひどく妖艶な光に映ったのは、やはりこういう状況だったせいかもしれない。
「そっちこそ、大丈夫じゃなさそーじゃない」
「バカ、からかうな。マジやめろって」
「…安心しな。生殺しにしようってワケじゃないんだから」
 そう言うなり勝気な眼をしたままの寧々は強い力でごしごしと神崎のトランクスの上から股間を擦った。今この状態でキモチヨくされて平然としてられる男なんて、単純に遊び人だけなのではないかと思う。相手はまだ男と寝るのは恐怖があるのだと言っていたのに、それで今のこの状況は何なのだろうかと思う。誘われているのではないと頭は理解しているけれど、誘ったわけじゃないと否定してもいる。じゃあなんなのか。まったく説明がつかない事態に身を捩った。少なくとも目の前の彼女を欲望だけでメチャクチャに傷付けることがないぐらいには気遣ってやろうと思って。
「大丈夫。アタシがヌいてやるから」
 逸らした目をもう一度寧々に向けた。このクソアマ何をほざく。そう思って睨み付けるようにして見たけれど、余裕のある表情をした彼女はトランクスから神崎のそそり立ったペニスを取り出して直に触れた。「ぅあ」と、思わず神崎から声が洩れる。自分以外の他人に触れられる機会のなかったソコはひどく敏感な器官だった。その反応は寧々にはひどく面白く感じられて歪んだ笑みを浮かべた表情が印象的だった。ぞくりと背中に走るモノがあったことは神崎は誰にも言っていない。
 あとはカンペキに寧々のペースだった。今までの神崎のカッコつけたのはなんだったのだろう。そう思う程に神崎は寧々にいいようにされていた。つまり、男は結局女に勝てないのだ、と思い至るに充分な時間は一時間も必要ないのだ。

 直に触れたペニスを握って強めに扱く寧々はしっかりと、そうされている神崎の顔を見ては笑っていた。神崎はそんな様子を見極めることができないくらいに翻弄されていて、ただ快感に溺れないようにベッドのシーツを握って唇を噛んでいただけだ。だがそれは濡れた指で先端の窪みをぐりぐりと押し潰すみたいにして弄くり回されれば忘れてしまうくらいの弱い決意だった。その状態でペニスにキスする光景を見せられたらもう、残った理性なんてバカみたいにぶっ飛んでいた。寧々に向けてがむしゃらに突き進んで半ば噛みつくような乱暴なキスをしていた。舌をねっとりと絡ませる余裕すらないくらい、ちゅうちゅうと唇を吸うだけが芸みたいな色気を覚えて、それでも足掻いてるばっかりみたいな飾り気のないキスを。
「神ざ、…はじめ……」
 寧々が初めて神崎の名前を呼ぶ。今この状況で呼ぶのか。と野獣のような心がいい意味で冷めてゆくのを感じる。そしてもっと呼んでほしいと思う。寧々は神崎の胸板に手を当てて微笑む。まるで神崎の心音を聞いているみたいに静かに。
 だが唐突にずぐりと下腹部を襲う感触に全身を震わせた神崎の姿があった。一旦は離した相手の手はすぐにペニスへと戻ったらしい。目の前の女の表情は今や特筆することなどないくらいに落ち着いたものだった。くちくち、と神崎のペニスを扱く音が辺りに響いている。それを聞きたくないと思ったから声を掛けようと思った。
「名前呼ばれたくらいで感じてんじゃないよ。はじめ」
 相手に言われるのは心外だと思ったけれど、もう一度呼ばれた途端に、あまりの快感が背筋に走ったように思ったせいで寧々にしがみついてしまったものだから何だと言い返せなくなってしまった。寧々にしがみつきながら見当違いだと分かっていることを口にする。それはもちろん理解している以上わざとだ。
「ばか。てめぇ如きで感じてたまっかよクソアマ」
 次の瞬間、ぐりりと爪で先端を弄くられたせいで高い喘ぎが洩れてしまったせいで情けない思いをすることになってしまったが、それは寧々を選んだ時点できっと決まっていたのだろう。と思うしか己が救われる道はないだろうと思ったのだった。
「だめ。」
「…っ、なにが」
「ちゃんと呼びな。アタシを」
「っは、何…大森」
「は じ め。つってんでしょ」
 寧々の吐息が神崎の耳に掛かって伝うくすぐったさにも似た快感。息を止めたのは反射。だが次の瞬間に耳に温かな感触がゆっくり、ぬるりと触れてそれが寧々の舌だということに気付くまでしばらく時間が要る。
「なぁにアンタ、ピアスだらけのクセに耳弱いの」
 蔑むような呆れたような冷たい響きが、寧々の声にはしたためられていた。神崎が再び寧々を見る。目が合った。歪んだ笑みを浮かべている寧々を見て、ひどくそそられる、などと感じてしまったことは誰にも内緒だ。その出かかった言葉を飲み込んで喉仏が上下するのを感じる。寧々はそれを見てはさらにサディスティックな冷たい笑みを深める。もしかしたら神崎の思いなど見透かしているのかもしれないと思う程に余裕の表情で。その表情と同時にペニスへの強い圧迫を感じる。寧々がソコをぎゅうと握ったのだ。
「ホラ、呼ぶんだよ」
 責められている。
 そう感じれば脊髄を通って脳を通う感覚が強くなったみたいに感じる。もちろんそれはきっと神崎の気の持ちようというヤツで気のせいなのだろうけど。だが間違いないのは与えられる圧迫感が苦しいということ。逃れたいと思うのは男としては当然なわけで、彼女が言う言葉に従わずにはおれない。
「大森っ……、ね、ね…っ」
 苗字で呼んだらさらに握る強さが増したので苦しさは増した。だから名前を呼ぶ。下の名前で呼ぶことなんてこれまでなかったからひどく気恥ずかしい。だが頭の中では今までも寧々、と呼んだことがなかったわけではない。確かに思い出す時は大森、ではなくて寧々、と思い出していた。まるでそれを見られてでもいたみたいに思えてきて、ガキのような恥じらいはどこからか分からない程こころの奥深くにあったらしい。それが神崎の身体の全体を火照らせるなんておかしなものである。同時に身体が震える。一気に解放されたように身体から一気に力が抜けた。それは寧々が強く握っていた手を急に緩めたせいだ。
 身体から力が抜けたのは当たり前である。濁り気味の我慢汁が先端から少量だが、勢いよく飛び出していたせいだと感じる。だから身体が震えたのだ。
「はじめ。アンタ、ヤラシイ男だね」
 その様子を見ていたのは何も神崎自身だけではない。目の前の寧々もまたそれを見ていて、ああ恥辱だ、と神崎は感じる。顔も身体も火照って火照ってあつい。
「もっかい呼びなよ」
「ぁ、は……、ね、ね…寧々」
 もはや寧々の命に従わないことなど選べるはずもなく、彼女の名を呼ぶ度に濁った汁を吐き出すばかり。だがそれは雀の涙程度の量と感覚で。それでも堪らず神崎の身体はびくびくと何度も跳ねた。これは感覚による反射のため、当人にはまったく自覚はないだろうけど。しかもその間じゅう寧々は力を強めたわけでも何でもない。ただ寧々という名前を呼ばせただけだというのに、何が神崎を高めたのかは定かではない。だがそれでも決めつけたように寧々は冷たく言い放った。
「なぁに? 名前呼んだだけで感じてんじゃないよ」
 ごしごしごし。強くペニスを擦ったらすぐに、あられもない情けない声を上げて神崎は射精した。その間は短かったけれど何度も寧々の名を掠れたような声で呼び続ける。そんな神崎を見下ろして、もう一度言葉を発する。
「ふぅん、…変態。」
 さらにゴプ、と神崎のペニスの先端から濃い液が垂れた。



 キスをする。それはねっとりとした激しいキスでもない。ただの触れるようなやさしくて儚いキスをした。目を閉じたお互いが、どちらの方が目を開けるのが早いかなんてその時によって違う。単純に感じたのは唇をとおして先の相手の思いは慈しみだということだけ。ただひどく恥ずかしそうに目を伏せた神崎の姿がそこにはあって、寧々には好ましく思えた。
 だから寧々は笑う。その笑みを見て神崎も笑う。まるで当たり前のように、やわらかに。
「気にすんなよ。エッチなんてしなくても、今みたいに思いが繋がるようなチュウもあるんだって、俺、忘れたくねえし」
 キスは思いを伝う。そんなことはガキしか感じられないのかもしれない。けれど、今この時に神崎も寧々も感じることができたのなら。言葉にせずとも、好きだ。大事にしたい。好きで堪らない。キスできてうれしい。という意図が伝わることができたのなら。
 寧々が嬉しそうに目を細めて笑うから、堪らず神崎は彼女の身体を抱き締めた。セックスだけが男と女の間にあるしあわせなんかじゃないと感じながら。横目に見た寧々のうれし涙が実に印象的だった。そう思ってくれない男ばかりがきっと寧々の前にいたのだろうけれど、言葉には絶対にしてやらないけれど、それでも出来る限りは目の前の女を、大森寧々のことを、しあわせにしてやるんだと誓いながら少しキツく寧々の身体を抱き締めた。
「あんたねぇ………、随分カッコイイ台詞言うけどさ、結局イッてんだから説得力ないんだっての」
 あまりに的を射た寧々の言葉は実に神崎の耳には痛かったけど、それでも憎さより可愛さとかの方が強いので許すことにした。少しだけ身体を離してもう一度、やさしくキスをした。


11.09.24

よこしまでエッチで神崎が受けているヤツ(笑)
実は神崎と寧々の話を思い付いたのはこの辺りからです。ウチの神崎は寧々にはまったく敵いません。エチィ意味でも激ヨワという。
基本寧々さんはM嬢ですよ?(笑)でも神崎相手にはSです。それはもうはげしく。
で、神崎は城山相手ぐらいにしか俺様キング発動できないっていう。メチャクチャドMじゃないっすか。
こんだけエッチっぽいシーンでギャグ要素を入れ込めたことが嬉しいです。それにより彼ららしさみたいなものがあったかなぁって。
まぁ個人的な予想ですが、ちゃんとしたセックスができたのは3、4回目じゃないかなぁとか。寧々も不感症ってわけじゃないんで。その男に対する恐怖とかそういうのとか、元カレのことを思い出しちゃうからもうダメってなっちゃうわけですから。昔はイタしてたわけですから。
まァこの辺は精神的な話になっちゃうんですけどね。癒してやるのがMを振りまく神崎くんなわけですよね。ピアスだらけのヤンキーのクセにM振りまいて癒し系ですから。意味がまったくわかりません。
とりあえず分かったのは神崎は変態です。っていうのと言葉責めに屈します。ということだけでした。お疲れ様でした(笑)

ちなみに神崎に言わせたかった台詞をまだ言わせられていません。すごく心残りなんですが、高校編の神崎と寧々のやつで言わせるか、それだけこれの番外その3でやるかもしれません。
あとはイメージイラストをちょっと描いておきたいなぁという思いはあります。

ということで、番外編その3でお会いしましょう!