悪魔野学園との一戦から様々なことがありすっかり忘れてしまっていたが、ふと神崎が見た先に見覚えがある、というかむしろまだ勝負のついていない相手がいた。胸糞悪くなって思わずその場にベッと唾を吐く。目が合ってしまったのでその様子を相手も見ているだろう。名前は知らない。だが顔に傷のある元六騎聖ホクロチビ。それだけで誰のことだかなんて分かるだろう。幸い体力も気力も充分だった。放課後でも構いはしないだろう。手首をコキっと回しながら軽く挑発してから教室へと向かった。
 いつもと様子が違う神崎に嫌な予感がする石矢魔のクラスメイト達だった。だから思わず姫川が聞く。
「うざってえなぁ…、何かすんのか?」
「決着つけてやる。あのホクロチビとよ」
(…オメーの惨敗で決着ついてんじゃねぇかよ…)
 姫川ならずともクラス中の皆が思っていた。そのため神崎に向けられる視線は冷たい。誰がどう見ても負けていた。あの男鹿に殴られたことについては知っているメンバーは少ないのだろうが。どうせ神崎が負けることは分かり切っていた。面倒なことになりそうだったので特に誰も何も口にしないようにしたが、内心溜息を吐いている者は多かった。
 そんな殺伐とした空気の中、授業終了のチャイムが学校から帰宅して良いことを告げる。
 静かに不機嫌を醸し出した神崎が鞄片手に教室を後にした。その後に城山が続くが、横開きのドアを蹴り押して倒して行ったのでそれを直す作業に取り掛かってから慌てて着いていくような格好だった。
「お前は?」と姫川が夏目に問う。
「どうしようかなぁ。城ちゃんが介抱してくれるだろうしな〜」
「……よくわかんねぇな、お前らの関係というか」
 笑いながら掻き上げる夏目の流れる髪のようにさらさらと頬に当たる空気は心地よい。神崎はゲタ箱で三木に声を掛けた。丁度よく登校の時にも下校の時にも会ってしまうというのは、やはり今日は決着をつける日だということなのだろう。不敵な笑みを態と浮かべて見せ、もう一度挑発。しかし今度はセリフ付きだ。
「ホクロチビ、てめえ面貸せや。土星なんて言わねえ、冥王星まで飛ばしてやんぜ」
 三木は特に何も言わない。むしろ神崎を見て何も思っていない。しかし校舎からどたどたと走って来た男鹿と古市の姿を見るや、ぱっと目を輝かせて「男鹿!」と声を掛けた。まったく見当違いの名前を呼ばれた神崎はもちろん面白いわけがない。古市はそれに気づいていたし、今日の神崎の態度も言っていたことも全て知っているから明らかに嫌そうな表情をしている。だがそんなことは男鹿にも、神崎にも、三木にもどうでもいいことだ。
 三木がもう一度男鹿に声を掛けたが、男鹿は全く聞いていなかった。というか三木など今は頭にない。今はそれどころではないのだ。古市は面倒な場所から逃げ去りたい気持ち山の如しで流れるまま男鹿に着いていった。こういう時の男鹿の周りなんて関係ないんですよ〜な所は良い所だと勝手に都合よく思う。
「あっ……」
 完璧に無視され続けた三木が肩を落とす。更に無視され続けている神崎は苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨てる。きっと今、三木が一番言われたくないであろう言葉を。
「オトモダチ帰っちまったなぁ〜。テメェだけ友達ゴッコしてんじゃねえのかドチビ」
「……分かりました。相手をしてあげますよ」
「年上は敬えって習わなかったのか、アタマも育ちも悪ィみてぇだな」
 どうせ一撃で終わるのだ。その場で三木は一撃を神崎のみぞおちに見舞う。神崎さん、という城山の声が校舎に響く。神崎の持っていた鞄が虚しく宙に舞って、冷たい廊下に落ちる。しかし三木の手には手ごたえがなかった。外したらしい。しかし辺りに散らばっている服の残骸、どうやら掠った模様。上半身肌蹴させた神崎の姿がそこにはあった。何とかかんとか避けたという所だろう。だが次はない、三木は独特の構えをとる。いやにイラついている三木がそこにはあった。
「てめぇの動きなんざ、こちとら先刻承知なんだよ」
 神崎という男は口が過ぎる。そして何よりさっきのあのタイミングの悪さ。今日こそ男鹿達と帰れると思っていたのだ。中学の時のように。しかしこの男のせいで男鹿にも古市にも無視される始末。全くロクなことがない。などと気をよそにやっていたら、神崎がすぐ傍にまで来ていた。すっかり神崎の間合いだった。顔面への攻撃は掠った程度だったが、続けてくる裏拳を後頭部に食らい、更に続いたミドルが脇腹にヒットしたため軽い三木の身体は音立ててゲタ箱にぶつかった。
 しかし次の攻撃の前に教師どもがドタドタと走って来たので神崎は面倒なことになる前にその場から戦線離脱した。冥王星行きはお預けだ、と城山と一緒に逃げ去った。ゲタ箱から起きながら気にしないで下さい、とにこやかに教師達に返す三木。だがイラつきは収まってはいない。また神崎が来た時は、容赦なく叩き伏せるだけだと心の中に留めておくことにした。そんなことを考える三木の顔には薄い笑みが浮かんでいた。

いい加減に決着つけましょうか
爪が割れました

11.09.16
寝起きに思い付いたので。思ったより長くなっちゃった。ホントは一撃でアッサリ冥王星に飛ばされる神崎のはずだったんだけど、あんまり雑魚カワイソウなので生かしておいてあげました(殺すな)。
大した話でもないのに長めになってしまった。内容ないよ〜(シャレじゃねえ!)
あ。でも続きません。どうせなら夏目と闘ってほしいね三木は。夏目だったらいい勝負できるんじゃないだろうか?さすがに負けるかなぁ。でも負けたらメチャクチャ神崎キレるじゃん。でも一撃で負けるザコさ→ループしちゃうから夏目とは闘わないってことで。
長めだけど小ネタ扱いにしときます。三木も神崎も小物なので(酷)
曲は閣下のガールズロックと蝋人形(笑)
2011/09/16 00:35:29