恋の後味(神崎の恋のハナシと姫川


「か〜んざきくん」
 と呼ぶのは夏目以外にいないはずなのに、どうしてヌメキモリーゼントがそう神崎を呼ぶのか。すぐに理由は解った。慣れ慣れしく肩を抱きながら見たくもない姫川のケータイの液晶を見せられた途端に、昨日の出来事を思い出す。顔が火照る。
「っ、何だってんだテメ、俺のストーカーか!」
「や。年上カノジョなのかなって思って」
「センセは違ぇよ…!」
「センセ?カテキョ?」
 液晶に映った神崎の隣にいるのは髪が長く茶髪、というかオレンジに近い色合いの女性だった。歳は20代だということは分かる。神崎の隣で屈んで胸の谷間が見える。液晶の中の神崎はそれを見ている様子ではなさそうだったが、キスしそうなくらいに顔は近く親密さが伺える。彼女の顔を見て当の神崎が邪気のない笑みを浮かべているのだからこれはホの字なんでしょうと言われてもしかたがない。
「俺が中坊ン時に来た、教育実習の先生、だよ」
 教育実習の先生、つまり当時は大学生だったわけだ。教育大学のおねいさま。エロス!ビンゴ☆
「で?」
「あ?そんだけ、に決まってんだろ」
「んなワケあるか。これだけ親密そうな雰囲気を醸し出しておいて、ただの教育実習の先公でした、なんてつまんねぇオチがあるかバ神崎」
「まじだマジ!」
 昨日アーケードを歩いていたらたまたまばったり出くわして、女の声が珍しく神崎の名前を呼ぶものだから振り向いて少しだけベンチで話したのだ。先生は今、塾の講師をしているのだと言った。中学生の数は減っているし学校の数も減っている。だから教員にはなれなかったのだと肩を落としていた。でも頭いいんだからそのうちなれんじゃね?などと返しておいた。学校の先公なんて職業には微塵も興味を持てなかったから、肩を落とす彼女の気持ちはまったく気持ちいい程に理解できなかったが。
「で。何で神崎君はさっきから顔が赤いんですか〜〜〜」
 余計な所で夏目がツッコミを入れてきた。むしろこの状況でツッコめるのは姫川や夏目以外にいはしないだろうが。
 彼女のことを思うと昔が懐かしい。とは言っても4,5年前。たったそのぐらい前の話なのに、どうしてこんなにもガキの成長は早いのか。中学時代がなつかしい。夏目も姫川も城山もいない。
 そんなに神崎が変わったとは思えない。確かに中学のときからトンガっていたし、暴力事件やモメ事は絶えなかったはず。だがヤクザ家系であることもあってウヤムヤになっていた。それもまた神崎自身としてはスネかじりと言われているみたいで面白くなかった。そう思っていたから余計に事件を起こしていたのだと今になれば思う。そんなトンガった神崎のクラスに来た教育実習の先生だった。
 特別話したことなんてない。それでも相手は神崎を覚えていたのだというのは、授業中に暴れたせいだったのかもしれない。それでも彼女の授業がある時、神崎は教室にいることが多かった。
 それは、彼女に淡い思いを抱いていたからに他ならない。
「……るせー。その、前、ちょっと、いいな、って思ったんだよ…」
 もうそれは言葉どおりに淡く懐かしく胸が痛むような思いだったし、だからといって神崎は何か行動を起こしたわけじゃない。彼女に向けてどうこうしようと思ったわけでもない。ただの教育実習に来た先生と不良生徒だったのだ。
「で。石矢魔はみんなで神崎君の恋を応援します」
 バン!とパネル化した例の2人の画像写真を引き伸ばしたものを黒板に貼り付けた。クラス中に丸見え。おおお、とクラスが沸いた。恥ずかしくてギャー!やめろォと叫んだのは神崎だけだった。しかも運悪く教師が入って来た。
「うるせーぞ授業始まってんだから大人しくしろクソッタレ共。…ん?」
 当たり前だ。黒板を見て数秒。早乙女は黒板を見てから神崎をガン見した。
「いいおっぱいだな、もう吸ったのか?」
「エロ教師テメぇまじ殺ス!」
「ヤッた感想はどうだったんだこの精子製造機」
 早乙女に殴りかかっても即効負けるのを分かって城山が後ろから神崎を羽交い絞めにして止めていた。
「まだヤッてないってさ」と姫川。
「そーか。致したら感想聞かせろよ坊主」
「てめ…ッ、」


11.09.13
捏造ですが許される範囲かなあとか(俺様都合上等
この話はパー子と神崎の長編を書く時につかおうかなぁとか思っていたものなんですが
とりあえず小ネタとして投下
城山相手以外ではバリM臭ただよう神崎一なのです

2011/09/13 10:22:15