暗い部屋の中で語り合う。神崎には限りなく大きい眠気が襲っていた。
「今日は、すげぇ助かった。城山よう」
「俺は、神崎さんのためにいますから」
「そか。…なんだろ、安心する…」
「明日には治ってるといいですね」
「……ん〜」
 それでも語りたいと思ったのは、城山という男が神崎の信頼に値する男だからだ。


*****


 ふと神崎が目を覚ます。闇に慣れたままの目はすぐに隣に眠る城山のデカイ身体をとらえる。怖いことも嫌なこともたくさんあったけど、今日という日は過ぎてしまっていた。最後には嫌な思いすら残さずただ気だるさに任せて眠りこけていた。それでも起きてしまえば脳内に残った恐怖が神崎を襲ってきた。胸元を触ってもまだふくよかな感触は残ったままだった。今が何時だか分からないが、ほんとうに明日になれば男に、いつものとおりに戻っているのか不安で不安でたまらない。どうすればいいのか分からず、広げられたままの城山の掌に縋るように己の胸に押し当てながら抱き締めた。ぎゅう、強く握りすぎたのかもしれない。やがて城山の呻くような声がして、
「――……神崎、さん…?」
「城山。起こしちまった、か…悪ィ。腕、貸しとけ。」
 ただ単に腕を貸すぐらいなら城山も構いはしない。けれど当たっているのは明らかに不自然な程に弾力性のある部位。で、闇に慣れた目で見ればどうやら神崎は城山の腕に己の胸をはさむみたいにしているらしかった。どうしてそんな恰好しているんですか。城山としては聞いてみたかったけれど、真剣味を帯びていた神崎の声に対してそう聞くことができなかった。薄い布ごしに感じる時折、固い感触は何だろう。闇が逆に感覚を研ぎ澄ませているらしく、とてもすぐに眠れるようなものじゃない。城山がごくり、となるべく音を立てないようにして息を飲む。だがその音は闇の中ではひときわ大きい音だった。
「…城山? 起こしちまったか」
「……すいません、起き、ました」
「明日、学校ドコじゃねえんじゃね俺ら」
「大丈夫です!オフクロが起こしてくれますから」
「俺、邪魔か?」
「イエ、そんなことないですっ…!」
「ならもっと寄っ、寄る」
 はい、と返事を小さく返した途端、腕にしがみつくように神崎がくっついてきた。全身でおまえが必要だ、と言っているみたいに感じられる。気のせいだと分かっているけれど、とても平常ではいられない。神崎から身体を遠ざけよう、と少し身体を曲げた。腕は動かさないようにしながら。おのずと城山の顔は神崎と逆の方向へと流れてゆく。
 しがみつくようにしていた神崎が数分ぐらい経った頃だろうか。なんだよ、と不満そうな声を掛けた。城山が起きていなければそれはどうでもいい声になったのだろう。けれど城山は眠ることがなかなかできずにいたから思わず返事をしてしまった。バカがつく程に正直なのは性分というもの。こればかりは簡単に曲げることなどできない。
「寝返り、してんじゃねーよ。こっち向け」
 だからこんな言葉にも従わねば後悔してしまうのだ。顔だけ神崎の方に向ける。その不自然な体制はどうやら暗闇の中であっても分かってしまうものらしい。暗闇に目が慣れているのは自分だけではない。相手も例外ではないのだと感じる瞬間。城山は何だか申し訳ないような思いを抱えながら小さくハイ、と返事をしつつ謝罪の言葉を述べた。その意味が神崎に伝うまでしばらく掛かった。言葉どおり腕にしがみついているだけなら構いはしないけれど、神崎が身を寄せれば寄せる程に。
「城山、てめぇ起きてんだろ」
「ちょっと、……うとうとしてました…」
 眠そうな声は本当っぽいが、神崎の太腿辺りに当たる固い感触が深い眠りではないことを物語っていた。もはや心臓の音さえ近づきそうなくらいに城山と神崎の距離は近い。荒い吐息ならば届いてしまう程に。分かってしまう、暴かれてしまう。
「キツい、だろ…?城山、」
 がちがちとしたものに触れていて分かってしまった神崎が、遠慮がちに聞いた。だが相手はそれについて答えようとしない。吐息すら乱すような素振りも見せない。もしかしたら神崎が言う言葉の意味すら分かっていない程の堅物なのかと思ってもう一度問い掛ける。
「返事しろ城山、ナニおっ勃ててやがる。俺が、男だとか女だとか、どっちでも関係ねえんじゃなかったのかよ!」
 言葉にしてしまえば、もうお構いなしだった。やはり城山の言葉どおり性別なんて関係ない。けれど関係はある。複雑なようでいて実は単純。
「…すみません。その、神崎さんの胸、が当たるんです……」
 言われるまでまったく気付かなかった。まぬけに「あ、」と言ったけれどどうやら神崎が悪かったらしい。何の気もなくとも身体が反応することぐらい分かっていたはずだが、やはり女というのは慣れないものだ。ほんとうに言葉どおり何の気もありませんでした、としか言いようがない。神崎がこの状況をどうしようかと考えあぐねいていると、
「気にしなくていいです、治まりますから。キツければ、まあ、ヌいてきます」
 マジで安全な男だと思った。やはり忠犬。どう見ても忠犬。姫川に爪のアカ煎じて飲ませてやりたい。
「…いい。俺のせいだろ、ま、ワビの代わりだ。ヌいてやるから出せ」
「はっ?!!」
「いい〜から早くポコチン出せ、ってんだよ馬鹿」
「えええええええ遠慮します〜〜〜」

*****


「……デケエなオイ。俺のより大分、や、まあ、ガタイもいいけど…」
 この状況をどうしようと考えるのは今度は城山の番だった。無言で考えごとをしている。
 というか状況がすごい。高校三年生青春真っ盛りの御年頃の2人が同じ布団でモゾモゾしている。女の方が勃起したナニをシゴいているのだ。男の方は天井を見たり窓を見たりしてやけに大人しい。考えていることは星を見ながら(どうして神崎さんは急に女になってしまったんだろう?)だ。どちらにもまったく色気はない。けれど手と性器を通して伝う確かな感触に時折、身を固めたりもした。
(…………ん?)
 ふと気付いたのは神崎の両足が城山の足に絡み付いてきていることだった。
「ちょ、神崎さん…!何、してんすか…?!」
「ち、違ぇ!なんか、ムラムラしたっつーか、」
 そして2人で隣の部屋には城山の弟や妹が、階下には親もいるし静かにしなければならないとシー、と指を立てた。顔は暗がりでも解るくらいに真っ赤だった。もう何してるんだろう俺ら。どちらともなくそういう意味を含んだ溜息が洩れた。
「…ここだけの話。女は、ヤバイな。なんつ〜か……エロい。スケベだ」
「ほんとに何、言ってんすか……」
「てめぇ、手ぇ出したらコロス」
 こうなったら神崎のやりたいようにさせておいて黙っているしかない城山だった。気持ちは冷めていたが身体だけがムダに熱い。ゴシゴシと擦られる股間への感触はやはり手慣れたものだったが他人をそうすることはないわけで、動きがどこかぎこちない。それよりも自分の快楽を貪っているような感じもする。明らかに好き勝手されているだけである。神崎の両足がびくびくと力が弛緩しながら絡んでくる。自分の股間を押しつけて。
「は、あ、ん、ん、ん、…っし、しろ、やま…っ、ど、うだ…?」
 押し殺した声が女のものそのもので、城山の頭がくらくらした。だからといってその場で神崎を押し倒す程理性のない生き物などではない。否、今の城山は理性的な男そのものだった。しがみついてくる女の誘惑を物ともせずに明日のことを考え続けていた。あとは断続的に響く神崎の抑えた喘ぎ声が誰か他の人の耳に届かないよう、最新の注意を払うだけ。ミシリ、と部屋の近くで音がしたので咄嗟に神崎の口を塞いだ。
「んはぁっ……、に、してんだ…城山てめぇ…」
「すみません…。家族に聞かれたら、マズイ、です流石に」
「アァ?!」
「声。神崎さんの…」
 頭がまっしろになっていて自分の喘ぎになんて気が回っていなかった。ただ馬鹿みたいにオナニーに没頭していたような気がする。うわああ今更すごく恥ずかしい。だが城山はそんな神崎の様子を蔑むでもなく、あたたかく見てくれていたように感じた。結局身体の中に溜まった熱をどうにもすることができなくて、気が済むまでモゾモゾやっていた。時折、城山が神崎の声を吸い取って塞いだ。2人で仰向けになったのもまだ夜中という時間帯だったろう。
「お前も相当溜め込んでたけど、俺もだなあ〜」
「……俺たちの歳なら別に普通じゃないですか」


*****


 次の日に一緒に登校したくせに、休み時間急に神崎が城山の股間を蹴り上げたため、途中で城山は保健室で休むハメになったことを付け加えておく。



彼女の為に泣いた

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11.09.02
思ったより長くなりすぎたので途中ではしょりました。
だからエッチっぽい雰囲気のシーンが短くなってます。そこに行きつくまでが長かったよ(笑)

本来思い付いたのはもう少し城山も触らせてもらえたり、もうちょっとオイシイ思いをしたってとこなんですが、もうトコトン城山は貧乏クジ引いてもらいました。彼らしく。
最後までとばっちり終了。



【本来の設定の話】
一応書きたかったものなので。
城山も自分ばかり何もできないのは不満があると言う。
まぁそうだな、と神崎に許しを貰った上で、パンティに手を入れようとする。
いやまてアレの日です、と慌てるけど後で手を洗うと言われてしまえばそれまで。
指は入れないっていう約束で。や、神崎はもうそういうのが怖いんだけど、クリちゃんイジくられるともうたまらんってなる。
そういう女性ならではの感触も味わいながら〜…のフィニッシュ。
寝る前に城山は確かに手を洗いにいくんですがね。衛生的にキツイんで。
で。密かに次の日から神崎は間違いなく城山のオカズになります。ちゃんちゃん♪

こう書くとまったく味気ないですが(笑)元よりそんなもんだろう。
どっちにしても最初から結合予定はありませんでした。高校生ですから。関係ないけど。
だいたい高校って妊娠して辞めるヤツとかいるもんな。

でもまぁ上記みたいにしなくて城山のカッコよさというか男として守るべき約束みたいなのを果たした感はあるので、よかったのかなあと。
約得のようであり、損してるようであり…常識人で情に厚い彼ならでは、ですな。



以下>>>
特に関係ない語り。



無関係な話。
もうね、あっしも生理の話とかってあんまりできない。
この神崎を書いててまったく自分だったんですけど、まず怖いっていうか恥ずかしいというか。
ぶっちゃけ、姉の生理のシミ付きパンティとシーツ見てからもう怖いですね。ダメです。
ほんとうに世の女性には申し訳ないんだけど。すいませんです、苦手です。

シミがついてるならいいんですが、仕方ないっていうか。それをオカンに洗わせるのが当たり前みたいな、もうそういうのも怖くって。この間オカンが干しながらどうしようって言うんですよ。いやまて干すなよって。こんなの干して見られた方が恥ずかしいでしょうって、言いましたね。もうシーツとかも捨ててもらいました。や、捨てたと思います。
恐ろしいと思いましたね。そんなの親に洗わせないで自分でなんとかしろよってなります。ちょっと自分の口からは言えないですけどね…。

そんなこんなもありまして、女性にも苦手意識ありますね。男性にもありますけど。
帰ってきたら知らんオッサンが素っ裸でウロウロしてるような家だったんで。ぽかんとしますよね、なんでオッサン風呂入ってんだよって。毛だらけですしね。まったく見たくもないもの見せられていやん、エッチみたいなこと言われるし。もうショックですよこっちも。エッチ扱いされたらたまらんです。
なんかそう考えると結構バイオレンスな家なんですねうちって。


無関係だけど今回書いた話とは深く関係がある。もう深層心理みたいな世界ですね。



さらに追記。0902刊行されましたべるぜバブ13巻にて!
神崎がピアスを引っ張られると3倍の強さになると城山が解説していたけどまったく活かされていなかったぁ!!!ぎゃ〜〜〜〜

や。でも大学生神崎とフリーター寧々の話ではバリピアスも引きちぎられてたし、ウワーてなりました。
なんかあのピアスには意味があるだろうとは思ってたんですよ(後付けです勿論)
でも強くなるとか。まあ相手がヤク中だからいい……のか…?(不安上等)