三度目の恋の材料
(上)



* 細かい設定不明ワカリマッセン
** イメージはベヘモットらとやり合った直後



 冷たいものが頬に当たる。痛みに顔をしかめながら東条は目を開ける。周りには血の匂いが充満していて、ケンカの跡地であることを物語っている。その場所を眺める前に見下ろす相手と目が合う。
「……………静…」
 声にしたつもりだったが、ひどく掠れた響きにしかならない。ひゅうひゅうとノドから声が出ないで喘いでいるみたいな情けない音がこぼれた。聞き耳を立てなければ分からない程かすかに。
 それでも心配そうに見つめていた静の目は驚きのように見開かれて、東条が目を覚ましたことを認識したのだと理解できた。「虎?」と小さく呼んだ。東条は返事をしようと思ったが声が出ない。パクパク、と金魚みたいに口を開閉しているだけの負け犬の姿がきっと静の目には映っているだろう。俺は生きている、無事だ、と言う代わりに起き上がろうとしたがギシギシと身体がひどく傷んで動くこともできない。それぐらいに気持ちいい程負けたのだということを思い知らされる。



*****


 目を開けた東条の目を見てほっとした。けれど悪夢のために開けた目かもしれないと静は感じてしまう。ほんの数分前まで目がチカチカする程に激しく繰り広げられていた、東条が言う所の『ケンカ』は東条が動かなくなる前に相手がいなくなることで収束した。もはや一方的なサンドバック試合、とでもいうべき内容。目すらついていけないでただ単純にやられ続けていただけのように、静には映った。
 そして、そんな内容のケンカなど今まで一度も見たことはない。何より東条の敗戦など有り得ないはずなのに。そう信じているのに。
 その思いから、起きたか寝たままか分からない東条の頭をふわりと掴む。血に汚れバリバリした感触の悪い箇所がある。それこそが東条英虎らしさである。そう思いながら何も言わぬ頭を抱き寄せる。痛みがない程度の強さでぎゅう、と己の胸に押しつけた。そうすることで静の胸が少しだけズキリと痛んだ。きっと気のせいだろう。けれど信じたい。静の思いの中には(相手の痛みを代わってやりたい)という思いがあったのだから。
 血が付くのは構いはしない。ただ、相手のことを何とかしたい。それだけを思い、そして願う。
「虎……」
 幼馴染の名を小さく呼ぶ。相手の口からはいつものようなする気のない腑抜けた感じの声がまったく聞こえてこない。生きているのに、呼吸をしているのに、虎はここにいるのに!



 ゾクリ、とした。
 命のともしびが消えてしまうのはひどく、いとも簡単なものなんだ、と感じずにはいられなかったから。
 ヒュウヒュウ、と小さく鳴る呼吸をしようとする音が、しかしできていないのだということを物語っているから静は東条の口元を見た。パクパク。まるで死にかけの金魚みたいに声にならない声を出しているようだ。まだ虎は生きたいのだ、負けたくないのだ。そう瞬時に理解した静は抱きかかえた頭を少しだけ上に向ける。そうしながらも自分は深くふかく、息を吸い込んだ。

 吸い込んだ息を相手の口の中へと吐き出す。
 そうしている最中、相手の目は大きく見開かれたような気がしたが、もしかしたら相手は充分な酸素を得られずに気を失っていた可能性もある。そうであればいいな、と思ったがための勝手な勘違いという可能性もある。だから静が感じたことは事実とは言えないけれど、間違いないのは静の口の中へと『もう大丈夫だ』と言わんばかりに東条の呼吸が感じられたということ。
 東条は間違いなく生きている。それが分かったのだからあとは手当てをしてやるだけでよい。幼馴染として理解しているのは東条が病院などに入院するわけがないという単純な事実ばかりだ。
 いつどんなことが起ろうとも多少は手当てもできるという薬箱は常に持ち歩いている。だからといってそれは応急処置にしか使えない代物。それだけでもいい、むしろそれだけの方が大袈裟じゃないと言うであろう東条の笑顔を思い浮かべつつ、静は名前のとおりしずかに手当てしていく。



*****


「…静。悪ぃ」
「いいの」
 薬箱は殆どカラになってしまった。血に塗れた包帯が辺りに散らばって地獄絵図。静の服は東条の血で真っ赤に染まってこちらも地獄。今までここまで一方的にやられていた東条の姿を静は見たことがなかった。血でガビガビになった髪を撫でてやると、その感触は伝わっていると言わんばかりに目を細めている。呆れる程に感情で、ケンカのことばかり考えている東条という男を叱りつけたい気持ちはあったけれど、それはもう少し怪我が回復してからにしてやろう。静はもう一度ぎゅう、とその豊満な胸に相手の腫れて原型のない顔を押しつけるようにして東条を抱きしめた。
「生きてるだけで……いいの」
 特に東条から言葉は返ってこなかった。抱きしめた瞬間に東条が息を飲むような音は聞こえたけれど、それ以降特に音を発することはない。ただこの時に身を任せているように。
 静の言葉は偽りではない。血だらけになった幼馴染の姿を見て、まさかと思わない者などきっといないだろう。普通のケンカならばどうということはないのだろうが、相手は間違いなく人間ではなかった。黒い炎をまとっていとも簡単に東条を粉砕したのだから。そして相手は「悪魔」という言葉を発したのだ。彼らは悪魔。その力を見れば理解できる。悪魔であるということを目の当たりにしてしまえば信じるしかない。悪魔を相手にして死なずに済んだのは元より強いからであることに他ならないだろう。
「ねぇ………虎」
 言葉を発そうとしない相手が気になり、静はゆっくりと東条の頭を支えながらその顔を見ようとした。静の前に映った幼馴染の姿には納得するしかなかった。東条の意識はもはやここにはなく、夢の中へと旅立っていた。それがいつからだったのかは判別もつかないが、きっとトクトクと小さくも高鳴っていたことにはきっと気付いてないだろうな、と思いながら眠る相手の顔をまじまじ見遣る。腫れた顔はいつもの整った二枚目顔とは比べようもない。それだけ悪魔の攻撃は厳しかったということだ。
「生きてて………よかった」
 静はその腫れた額に触れるようなくちづけを落とした。



11.08.30

今日は休みのはずだったのに、出勤しないとなんなくなっちゃったよ〜!
とか思いながら書いた所もあります(笑)ムードとかナッシングじゃん。まああっしはある程度ウンコだからしゃ〜ない。


昨日、帰りのバスで滾って(?)書き出した静と虎です。
まぁレンアイ要素っぽいのはあるようでないような、みたいなハンパな感じなんですけど。
出雲君よりは虎のほうが相手は絶対いいよね?!とか思うのだが…まぁこれからの展開次第ですけどね(コミックス派)。
でもどうしたって東条は1000%鈍感というかレンアイとかに興味がない男鹿と同じタイプなので報われないっていう。報われるぐらいに押せれば問題なんだろうけど、邦枝よりはイケそうな気がする静御前。

べるぜでは特に肉食系女子というか、♀→♂の構図が多いように感じてます。
実生活もそんな感じが多いのか?!とか思う程にそんなネタしか浮かびません。
やはり肉食系女子・草食系男子という言葉のせいでしょうか?ちなみにあっしは死ぬほど草食系ですけど(笑)誰が見ても裏切らない草食系です。好きな食べ物はキャベツとジャガイモですから(要らない知識上等)。

三度目の恋の材料
クロエ

2011/08/30 00:51:52