10


 停学が終わってしまえば、周りの態度などを気にしなければ何も今までの生活と変わり映えのしないツマラナイ学生生活が続いていくだけだった。それを払拭するかのように谷村やパー子と時折、待ち合わせしてはゲーセンで対戦したり共闘戦をしたりした。他にも、バイト帰りの夏目や城山が神崎の所に顔を出してはダベって行ったりして、そう悪くはない日々を過ごしている。それでもツマラナイと思うのは何故なのだろう? それについて答えをくれる人など神崎の目の前にいるわけもない。そもそも神崎が分からない答えを誰かが知っていることの方が面白くないのだ。だから別に知らなくても…構わない。少し強がりも入っているのだけれど。だからといって夏目の質問はいつも的を射ていて胸かどこかが痛む。掌の上で遊ばれているみたいでムカつくというのもある。今日の夏目の質問はこうだった。
「最近、寧々ちゃんには会ってんの?」

「…ふうん、会ってないんだ。だからつまんなそうなカオしてんだね神崎君」

「そんなふうに睨まないでよ。…じゃ、電話しちゃえば?神崎君から電話してないんでしょ」

「電話、してみたら意外に喜ぶかもよ?」



 この改行の間、特に神崎は言葉を発していない。つまり勝手に話しているだけなのだ。夏目が勝手に一方的に話しているだけ。神崎を目の前にして微笑すら浮かべながら。ああそれでもどうして、会話にすらなっていないのに手に取るように神崎の思いが筒抜けみたいにして一方的な話が、まるで会話しているかのように通じていた。読むなよ人の考えを。
 殴りたい気分万歳だったが、夏目に敵わないことを知っている神崎はやめておいた。


********


 いつ振りだったか忘れてしまった。きっとそう遠くない過去。あの時も夏目のせいで寧々の番号をダイヤルしたのだと思い出す。結びつけているのはあの男なのではないかと思う程に、いつもそこにあった。常に女を切らすことがないレンアイ術の持ち主である夏目。そういう意味では見習ってもいいのかもしれないが、どうしてもそういう気持ちになれないのはやはり神崎自身が女で遊べるタイプなどではないからだろう。
 そんな不器用な己に向き合いながら神崎は、押し黙ったまま寧々のことを考える。確かに夏目が言うことに言い返すことはできなかったけれど、それでも寧々と会っていないことがツマラナイ学校生活につながっているかのような言葉は、早計過ぎるムチャぶりな答えというものだ。物事をあまりに単純に考え過ぎているのではないか? などと夏目を陥れる言葉を頭にいくつか思い浮かべてみたものの、やはり神崎が思う言葉程度では足りないらしい。きっと頭の回転の速い夏目ならば口ですらも、すぐさま神崎を負かせてしまうだろう。口でも手でも勝てそうにない相手に挑む程、神崎も愚かではない。
 ゲームのプレイする音がどこか遠く神崎の耳に届く。近いはずなのにどこか遠い。それはまるで置いて来てしまった想い出のようで、神崎はどうしてだろうかとぼんやり考える。見下ろしたケータイの液晶画面には何度かこうやって見つめた画面が表示されている。見つめる度にどうして開いたのだろう、とか話題ねえし!とか思ってパタンと閉じてしまったことがあった。今も、やはり話題などというシャレたものが見つからないことに、愕然とする。
 夏目がプレイしているゲームから悲鳴が聞こえた。はっとして神崎が目を上げる。画面は黒から赤に染められて『YOU DEAD』というおどろおどろしい文字が画面いっぱいに躍り出る。夏目の長髪が邪魔くさそうに揺れる。いつもの髪をかき上げる仕草を後ろから見たからそう見えたのだろう。 「あーーあ」溜息交じりに頭の後ろに腕を組んだ格好のまま夏目はごろんとその場に横になると、その目を神崎に向けていたので嫌でも目が合ってしまう。今の夏目の態度に対して違和感はあったものの、おおっぴらに目を逸らすわけにもいかず神崎はまっすぐ睨み返した。それにはもちろん理由なんてない。だから、無意味に目が合ったままのナゾの空間が数秒間繰り広げられていたわけで。
「神崎君。液晶睨みつけたまま固まってる神崎君とはいづらいって。早く、電話しなよ」
 友人としてはどことなく傷付く言葉である『いづらい』をアッサリと使う辺り、ほんとうはそんなことを思っていないのだろうけれど、神崎がそう思うことを理解したうえで出た言葉であるならば、なんという残酷な男なのだろうかと思う。そして、そういった繊細な心の動きを読む能力にはひどく優れた男であることも数年の付き合いがある以上、分かっていたのだから複雑な思いを抱く。夏目はなにかを神崎に伝えようとしているみたいに思えるからだ。
 再び神崎の視線は手に握られたままの小さなケータイの液晶へ。080から始まる11ケタの番号と「大森 寧々」の名前がそこにはあった。たとえ電話をしたいと思っても、話すことがないならばそれをかなえようとすることは罪のように思ってきたのかもしれない。むろん、電話番号を教えてきた時点で無意味であろうとも電話をすることに関して、罪などないはずであるのに。罪ではないけれど、迷惑でないと誰が言い切ることができるだろう?当人以外の誰が迷惑ではないと。ごちょごちょと考えているのはひどく女々しいかもしれない。そう神崎自身思った矢先、夏目が「っア――…ヤバ、」などとゲーム画面にごちている。そんな、いつもとなんら変わりない日常であるはずなのに。忌々しそうに寄せられた夏目の目を見てしまったら、電話をしなくてはならないような気がしてしまった。ああ、あとから神崎が思い起こしてみてもまったく脈絡ない勝手な思い。
 ピ、と電子音が小さく鳴る。耳に当てるとそれは冷たい音ではなく、きっと寧々が好きなのだろう女性ボーカルのグループのJ-POPが流れ出す。そういえば神崎は寧々の音楽の趣味すら知らない。このまま聞いているのもそう悪くはないかもしれない。などと思った途端、その歌は途切れてしまう。つまり、寧々は電話に出た、ということ。
「……ッ、…おう、大森、俺だ。神崎、」
 もしもし、という決まり文句すらでないままに相手に声を掛ける。寧々が登録しているのは知っているから着信の相手が誰であるかなどと分かっているだろうけど、やはり名乗る以外にできるわけもない。しかし、神崎の耳に届くのは寧々の声ではない、音高らかに聞こえる雑音のようなもの。騒がしい場所にいるのだろうと思った。相手が動いている様子が耳に伝わる。少しずつ雑音が遠ざかっていく。
「あ?誰だてめえ」雑音混じりのグジャグジャした中で聞こえたのは寧々の声ではない。聞いたことのない男の声。これはもしかしたら寧々が黙って番号を変えたのかもしれない、と神崎は咄嗟に考える。神崎があまりに連絡をしないから変えた所で教える必要などないと思われても仕方がないのかもしれない。なにより神崎は谷村やパー子とはつながっているのだから、経由して寧々に連絡をとることは可能なわけだ。つまりは連絡が必要であればレッドテイルのメンバーに聞けよ、ということを示しているのかもしれない。
「大森のケータイじゃ、ないんですか。なら、間違いッス。」
 すみませんでした、失礼します。を告ぐ前に耳に届く男の声。どうしてだろう、相手はにやにやと嗤っているように聞こえる。気のせいだろうと思うけれども。
「寧々……、の男か?オメェ」
 誰だ?…問いの意味が理解できない。神崎の間違いでなければ、大森、とだけ聞いたはずだ。フルネームは聞いていない。けれども相手は寧々と言った。それはどういう意味なのか、理解するまで少し時間が掛かりそうだ。案の定すぐには声を返すことはできなくて、息をふたつ呑んだあとで寧々のケータイに出た男へやっと返す。遅すぎることについては、慣れていないから。ということで了承してもらわないとやっていられない。
「そっちこそ誰だ?名乗ったろうが。神崎、って」
 相手の声色は不穏な空気を漂わせていたような気がしたので凄んだように声を低くして聞いてみる。だが相手が怯む様子はない。むしろ神崎は鼻で笑われたようであった。フン、と小さく嗤ったかのような声のような音のようなものが聞こえた。その後に抑えた男の笑い声。神崎にしてみれば笑う相手の意味がまったく不明。「お笑いが好きな男」ということでも今なら片付けられる、そう思った。
「寧々は俺のだ。やらねえよ」
 声が途切れた瞬間、通話も切れた。かけているのは神崎の方だというのにひどく一方的な通話であることには舌打ちの一つも洩れてしまうというものだ。何よりも相手が言った言葉の意味、急に言われても理解などできるわけもない。分かっているのは寧々はモノなんかじゃないのだから、誰かのモノになることを望んでいるような性分などではない女だということ。ならば今の言葉の意味は理解できるはずなどない。寧々が心変わりというヤツのせいで誰かのモノになりたいとでも思わない限りは違和感ばかりが付きまとう。そして、知らぬ男が寧々のケータイに我が物顔で出たということについても、いくら無関係だからと思っていても面白く思うわけがない。相手が何者かなどと考える前に現実に引き戻される。目の前でぽかんとしたような、それでいて愉しそうに口元を歪めている夏目が神崎を見つめていた。現実もおかしなものだと神崎は内心感じる。どうして夏目が口添えしたときに限ってナゾなことが起こるんだろうか。きっと答えを持っている者なんていないだろうけど、それでも誰かに問いたい。
「神崎君、何かあったの…?」
 夏目と神崎の『楽しいこと』は、いつもどこかはげしく、ズレている。だから今の会話内容について、本来ならば夏目に話すのは避けたい所だったけれど、相手が何者であるか、など一般的?な意見を聞くためには口にする必要があるだろう。神崎にとっては楽しくはないこと、に違いないけれど。


11.08.15

盆が終わっちゃいます、ネギ丸です。
ソングおぶ:MMMBop あんど スピッツ…楓


展開は動かないままだけれど、ヤラシイかな次があることをほのめかしてコマギレ。
本来そういった意図はないのですよ。けれど気持ちをここで切り替えとこう、みたいな感じで一話を区切ってしまうとこういうふうになる。自然であり不自然な流れなのです。

次の話はこのままの流れで楓聞きつつ書ききりたいんですけど。たぶんきっと絶対難しいだろうなあ!


ま、こんな感じで神崎に意外なところでライバル出現。という話
というか、ライバルになるんだろうか??という青さレベルマックスだけども。
すききらいで話が進んでるわけではないのだから、内容としては進む方向はほとんどないわけで。まるわかりな内容をこれから書く必要があるということです。ラストとか途中が分かっても心の中以外では言わないでください(笑)。
てーか大丈夫。そもそもこの駄文読んでるヒマ人いないよきっとランクにも載せてないし。

パロディを書いているうちにひどく恥ずかしくなる ネギでしたっ!!

2011/08/16 00:38:19