あいにく余裕なんてものは持ち合わせておりません02


続くにょた崎



 神崎自身からの口添えもあり、夏目の停学は免れた。
 それはそうだろう。そもそもそ『男子生徒』として神崎一を入学させたはずの学校が、どうしてだろうか神崎は女の姿をしていていつもの迫力など無いにも関わらず、やはり教師を殴り殺しかねない瞳をギラギラさせているのだから。それでも教師として聞かない訳にはいかない。男子生徒が女子生徒になっていたという事実について。



「しらね―よ。朝起きてたら、こんなだ」



 その情けなく歪んでしまった表情を見ると嘘とも思えない。そんな姿をどう思ったのかは分からないが、臨時教師とかいう早乙女がしゃしゃり出てくる。真剣な眼差しで分かってる、と小さく神崎に告げる。何を分かっているのかなど神崎にはまったく分かりはしない。担任教師が喚く中でシカトしたまま早乙女は神崎をむんずと掴んで別室へ向かった。向かった先は職員室からそう遠くはない、教師以外は入ることもない小ぢんまりした小部屋。特に名前らしい名前は付いていないらしい。神崎が見上げた扉の上に掲げられたプレートには空っぽの空間があるだけだったから。

「事情はさっき聞いた。マゾ先生が聞いてたからな」
 佐渡原という名前をまったく覚える気のない早乙女という教師?は同じ質問をするつもりはないようだった。というか、せめてサドかマゾかぐらい覚えてやれよ。と神崎ですら内心ツッコんだ。そういう問題でもないのだが。
「じゃ、俺からの質問だ。昨日、男鹿と一緒にいた、とかってことはねえか?」
「………いたぜ。」
「――で、ソコにゃあ黒いピラピラ服着たデカパイ姉ちゃんがいなかったか?」
「オガヨメか?いたぜ。」
 ビンゴ! おおよそ早乙女の睨んだとおりのシナリオ。悪魔が何かしでかした、というのが正しいだろう。胸ポケットからタバコを取り出しおもむろに吸い始める。悪魔が神崎に何をしたかったのかは分からないが、ただのからかいだと考えるのがきっと妥当なのだろう。悪魔にしてみれば人間がオスであろうとメスであろうと関係などない。だからイジって遊んでみた、ということも考えられる。理由云々よりもまずは神崎の症状がどの程度のものなのかということを知る必要があった。
「神崎よう、ちっと黙ってな」
 それだけ低く言うと早乙女は急に神崎に身体ごとにじり寄る。神崎の足のすぐ傍に片手を付いてずいと顔を突き出す。神崎と早乙女の顔はひどく近い。それが神崎にとってとても居心地の悪いものであったから、思わず反射的に顔を背けた。途端、胸に痛みとも似た感触が広がる。粗暴な手つきがありありと伝わってくる。と同時に胸のふくらみがあるのだということを思い起こされひどく恥ずかしいような気分すらせり上がってくる。どうして、と思いながら早乙女の方へと目を向け直す。そもそもこんな感触は初めてだからどんな反応をしてよいのか分からないのだ。
 神崎が目を向けた先で、早乙女は服の上からではあるものの、神崎の胸を揉むようにしていた。思わず「やめ、ろ、ォォオ、オオオオオオオオォォォ!!」といつもより数倍甲高い、神崎自身にしてみれば気持ち悪いとしか思われない大声張り上げていて、ビンタの一発もくれていたらしい。頬を押さえた格好で少し離れた場所にいる早乙女の姿を見て神崎はハッとした。こいつは変態教師なのか?ならば、どうするべきなんだ??むしろ、この状況は何???
 これ以上ワァワァ騒がれると面倒だと思った早乙女が神崎の口を乱暴に塞ぐ。抱きつくようにして塞ぐ。近い体温と体臭、むっとする程「男臭い」と思わずにはおれなかった。それを感じるということはやはり女になってしまったのだと認めざるを得ない。18年間、男として育ってきたはずなのに、と神崎は悔しく思い唇を噛んだ。理解してしまえば大声を出す必要もない。ただ非力な神崎一がここにいるだけなのだ。しばらく肩で息をしている神崎が落ち着いた頃かと思った早乙女はようやく、神崎の身体を開放してやる。面倒はなるたけ避けたかった。校長という名のじいさんでも、立て続けに事件があれば早乙女を庇い続けることはできないだろうから。そんなことを思いながら大人しくなった神崎の方を見遣る。ああ、申し訳ないことをしてしまった、と思わせる程に神崎は泣きそうな程にくしゃりと顔を歪めたまんま早乙女を見つめていた。何がどうしてどうなってしまったのか分かりません、というような表情で。だから答えてやるべきだと思った。
「触り心地は、フツーの女と変わりなかったけどよ。時間が経てばたぶん戻ると思うから安心しろって。悪魔のいたずら、みてーなモンだと思うから」
 その答えについて。あくまのいたずら、はテメェだろ!と思いながら気を抜いていたらしい目の前の男は神崎の拳をクリーンヒットし、後ろにブッ倒れた。もちろん卒倒するような拳の重さなどではなかったけれど、数分間クラクラとした気分を味わうには充分な重さはあった。そのスキに神崎は帰宅したらしく、気付いた時には目の前に短髪で困った顔のジャージ姿である女の姿はなかった。やはりケンカの数をこなしただけはある。それがもし女になったからといっても、経験値は変わりはしないのだろう。いかがわしい程にキッチリと鼻血を流しながら早乙女が苦笑いを洩らした。
 最後まで、先生の話は聞け、ってんだ。


11.08.15

ほとんど14日に書いていたものです。
女体神崎がどうして続いてしまうかな……でも早乙女テーチャーをジェクト(FFX)と思いながら書くと楽しくて仕方ない。ヘタすれば早乙女×神崎になりかねない展開でしたけど(笑)。早乙女はとりあえずおっぱいがあれば触るオッサンなので(原作参照)。まぁべるぜで今のところホモカプはありません。今のところ、ですけれど。

神崎が女になった理由のおおまかなところが出ればそれでいいかな、ぐらいの内容ですけど。
ありえないことは全部悪魔に投げ付けて解決します(笑)鬼です。

ちなみに、寧々編と姫川編というのがあります(笑)
ソコまで書ききれるかどうか分からんけど。とりあえず盆休み中に書くのはムリでしょうね。そんな感じ。


テーマオブ:エグザイル「願いの塔」から
彼女の為に泣いた

2011/08/15 01:33:21