馬鹿らしい。けれども、相手らしい。そう思って理由を聞いてしまえば笑わずにはおれなかった。
 笑ってしまえば、アルイミこちらの負けといっていい。ただの思い出話のようなもので笑っているだけのこと。笑われていることについては、気に食わないという思いもあったが目の前のパーマ髪がギスギスした気持ちを取り去ってしまうものだから、そのままでいいと思った。
「あ。でも、合コン、て言った…?」
 たった一言で風向きが変わる。それを今の状況のことを言うのだろう。
 目の前の女の目がギラリと肉食獣みたいに光ったように感じた。むしろ、そう思いたかったのかもしれない。などと勝手に解釈した。「おうよ」と返事をする。カレカノがいたってこのご時世、合コンなんて当たり前にやっているヤツらは腐る程いるらしい。けれど、どちらかと言えば目の前の相手は古臭い考えを持った若者。どちらかと言えば『任侠』とかいう言葉の方がピンとくるようなタイプだ。合コンなどといったものについても気に食わないのかもしれない。
「まあよ。女ぐらい作っておかねえと、……だろ?」
 相手がこちらを睨んでいるような気がしたから、聞くのは少し躊躇われたけれど、それでもやはりこの言葉は相手からの同意があってこそ、決まるものだと思った。だから聞いてみたのだ。相手がどんな反応をするのか、それについては脳内ホワイトアウトで。


「…そう、だよね。でも、殴ったんだ?」
「当たりめえだろ。」
 脳内ホワイトアウト。最初からムリだったのだろうか。何か石でも投げ込まれたみたいに、ズンとした気分で返事をした。少し強い口調になったかもしれない。相手は思っていたより食い下がって来ることはなかった。つまり、神崎自身としては、もっと「何で?」という質問があるだろうという考えが頭の中にあったのだ。だから肩透かし食らっているのだ。



********



 理由云々まるで分からない状態で仲間から停学の話を聞いた。その気分と言ったらまるで当人の母親かのような気持ちだったのだろうと思う。きっと顔色がみるみるうちに変わったものだから、由加が慌てたように「神崎先輩、ヒマしてるみたいッスから、行った方がいいッスよ」などと気の利いた言葉を口にしたのだろう。それが偶然の産物だとはいえ、由加がそう言ってくれなければきっと今でも神崎の状況も全く分からず、今か今かと鳴らないケイタイを握り締めて“相手から連絡がある”まで待っているような悲惨な状況だったかもしれない。というか、むしろ、その可能性はかなり高いように思う。愚痴の一つでもメール一つよこさないのが神崎という男だから。そこまで瞬時に脳みそがカタカタ計算したわけではない。ただ、反射的に頷いた。相手を信じるということの一心で。そして、己の心配だってもちろん解消したいと思うのは普通の人間の想いとしては当然の思いのはずだ。千秋が僅かに微笑したような気がしたけれど、確信が持てなかったので放置しておくことにする。
「へえ。2年ぶりに会って、家に……ふうん」
 由加の歯切れ悪い問いの答えについてはブン殴りたい気分も満載だったが、殴ると後々面倒な気もしたのでそのまま放っておく。一緒に行こうと言うと、自分用事ありますからと態とらしく逃げの一手。きっと由加だってゲーム仲間である神崎に会いたくないことはないはずなのに、ムダに気を使う様子こそが何となく、どことなくイライラ感を誘うものだ。そう思うことはもちろん口にも態度にも出していないつもりだけれど。
 そんな思いを無視するかのように由加は、今日もヒマでしょうから行ってみてくださいなどと丸投げの様子。そんな時ばかりは千秋も空気を読んでどこかに行方をくらませたり、もしくは、明確に自分は行けないという理由をズバリ話すのだ。きっと今この状況で一緒に行こう旨の内容を問うことは無謀な挑戦だろう。と思えば、問うのは即刻止めた。


 そんな思いを抱えながらここにいる。
 けれども、どう思おうとも何だか馬鹿らしいような気がしていた。合コンの後処理。それに失敗したヤツが停学喰らってる。バカヤロウ、バチ当たった。それくらいの気分である。だから、気にする必要も全くない。そう思っている。
 …はずなのに、どうしてこの胸は子供みたいにガッカリしているんだろう? それについて軽く答えをくれそうな人には聞きたくないと思った。だから聞きはしない。むしろ、勝手に答えられるのが怖いから誰にも今の自分の想いを口にすることなんてできない。そのくらいまっすぐに、情けない想いを抱いている。



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「ったりめえだろ。」
 蔑むような笑いではなかった。けれども寧々は何となくむっとする。
 理由など解りはしない。ただ、神崎の言葉が軽いことに対して、怒りにも似た何かを感じるばかりなのだ。それが何であるか、などということは問題ではない。
「アイツは俺しかいねえから。
 で、たまたま俺にも、アイツが一番に、在ったし」
 続きがありそうな言葉だったから、寧々はその言葉の続きを待っていたけれど、それについて口にする様子はなかったので心の中で締め切った。そうしながらも、城山の顔を思い浮かべる。確かに神崎しかないであろう男。不器用で、神崎を深く、深く慕う男。
「…信じ、てんだね」
 当たり前すぎて言うべきか迷った言葉。けれど他に言うべき言葉も見つからなくて、それだけ告げた。それについて答えを求めているわけではないことは、どうやら神崎にも伝わったらしく、ムリにでも話を繋げてこようとするような感じではない。というか、元々ムリヤリ会話を続けようなどということをするタイプでもないのだが。ただ、物言わぬ真剣な眼差しが『仲間を信じねえで、どうする』と語っているようで、寧々も口を噤むしかなかった。
「彼女、できなくて残念だったね」
 とりあえず思い浮かんだ言葉がソレ。言いたい言葉というわけではなかったが、寧々の方が沈黙に耐えかねて口を開いてしまった。余計な言葉であったことは、自分の耳に届いた瞬間からよく分かっている。だが、「別に」と気にした風もない回答があれば逆に不思議のあまり目を向いてしまう。相手は女が作っておかなきゃだろ、とさっき言ったはずだ。けれども気にしている風もないというのはいかがなものか。というか、むしろそれでは神崎が合コン相手に暴力を振るったことに対して理由が立たないような気もする。どうして合コンに行ったのだろう。確かに神崎の状況を見れば女の一人や二人ぐらいいても良さそうなものであったが、どうやらヨーグルッチとケンカ以外にはさして興味もないらしく女性の影など全く見られない高校時代を送っていたように見受けられる。とはいっても寧々は神崎よりも一学年年下であるから、前年度のことは全く分からないのだが。
 それよりも。と寧々は思う。別に彼女ができなかったことについては全く気にしていないこの暴力停学男について、どう言葉を掛けてやろうかまだ決めかねている。それはもちろん、いつも通りの言葉を掛けてやればよいのだろうけれど。こんな時に限っていつも通りの言葉というものを思い出すことができずにいるのだ。
 神崎は冷蔵庫からヨーグルッチを出す。寧々に飲むか?とジェスチャーで聞いて手を横に振られたから自分の分だけを取り出して定位置に戻る。己のベッドの上というのが定位置。もちろんこれはよこしまな話じゃない。普通の学生なら当たり前にあること。ベッドの上でダベることなどというものは。部屋が狭いとか、そういった理由で。近いせいか神崎がヨーグルッチの吸い口にぷすりと穴を開けるサマすら耳に聞こえるようだった。一口吸いながら寧々をどこともなく見つつ、どこか間延びした時を隔てて彼は答える。聞いたことすら忘れていたというのに、嫌なタイミングで神崎は記憶を呼び覚ます動きをする。
「なんとなく、作りてえかな、って思っただけだから。別にどうでもいい」
 ふたを開けてみればそんな煮え切らないような答え。これでは答えとも呼べないシロモノである。何となくムカッ腹が立った。
「何となく、ねえ…。じゃあ良かったじゃないのよ、何となくで付き合わされた彼女サン、可哀想だもんね」
 厭味たっぷりに言ってやったはずだった。けれども神崎は気のない返事で「そうだろなぁ」などとヤクザの息子とは到底思えない返事を口にして、アルイミ放心している。寧々の思い出にいる神崎はもっと血気盛んだったはずだ。否、先程まで城山がどうのと話していた時まではあの時の血の気のタップリな男だったはずである。まるで急激な腑抜けになってしまったかのような態度。違和感があったが、もしかしたらと思って口を挟む。
「アンタ、何で急に女作ろう、なんてガラに合わないことしようとしたのよ?」
 イエス&ノーで答えられない問いに対して、やっと反応した。むしろそれは自分自身がそれについて答えを知りたかった。そう言わんばかりの目の向け方だった。けれど強い意志があるわけでもない眼差し。どうしてそんなことを聞くんだ、と言わんばかりの動揺の色がその目には浮かんでいた。不快の色が浮かんでいるわけではなく。相手がうろたえている姿があまりに滑稽だから、聞いてみたくもなってしまうのだ。相手がどう思っているとかそんなことは全く無関係で。もちろん、何故と聞かれて口ごもらないはずもないことは承知していた。分かっていて聞いたので、相手が答えに窮する態度が愉快でむしろ笑みすら零れてくる。意地悪な気持ちなんて微塵もないつもりだけれど。



「知らん」
 考えた末にそれだけ言われた日には、答えた相手を殴りたくもなるというものだろう。
 当人が考えに考えた末に出した答えがそれだということはもちろん明白なのだけれど。唐突に告げられた言葉には、寧々も面喰ってしまった。相手の想いなど全く理解できないのだから当然だ。どういった気持ちで寧々に罪、ではないが理由を向けたのか。それはきっと当人にしか解り得ない。
「俺は。別に男とか女とかどうでもいい。興味ねーし。でも、最近、ムショーにそれじゃだめかもって思った、そんだけ。理由とかそんなモン知らん」


11.08.07


神崎と寧々・大学編
思ったよりも大分だいぶ、長引いてます。ちなみにハンソン聞きながら書いた文
やっぱりボーカルが子供ボイスは、そのままというわけにはいかないけど、それで熟れてしまった以上は大人ボイスで聞くのはイタイ。ああ、学園天国のフィンガー5と変わらんよ。
とか思いながら聞いて明るい曲らを選んでました。というか、ハンソンは明るい曲のがいいよね。そんなメジャーな感じもしないけど。



で。内容としては全くがっつりつながってるのがイタイ。
あと、このサイトではつながってるけど、公式では全くつながりないってのがイタイ。

とか書いてしまう自分がイタイ。あほすぎ。あほあほ。
のほほんとした内容が今の自分にはツボなのかもしれない。だからこんなズルズルベッタな内容をコマギレにしてるのかもしれない。とか思うのだ。
内容としては中途すぎて語れないけど、それでも語るとしたら、それこそ中途だけど
女より仲間
それを通したけど、それについて恩恵なんてない。だって、それが素晴らしいとかそんなことは全く今までなかったはずだ。むしろ、恩恵があるなどと思っていること自体に違和感が強く濃く、そういった状態なのに恩恵なんて全くあるはずもない。
って感じでいいと思う。

2011/08/08 00:20:07