I'll Be There For You


*JIS第一水準感じでない白瀧イクノの ノの字を事情により乃へと変換しお届けいたします。申し訳ありません。



 天使のように澄み切った心を持つ少年が、どうして天使のような心でいられたのか。それは、他にない悪魔のような強面だったからである。そして、それを理解する人物らはそう多くはない。けれど、周囲の人間達は時をかけて少しずつ悪魔のような風貌をした彼を理解していった。
 それは悪魔のような風貌を警戒し、倒せと命令された天使のような風貌をした女子であっても、だ。



「よぉ、誠一郎」
「お早う、今日は間にあったんだね、幾乃ちゃん」
「まぁな」
 父親の仕事柄、学校に定時に通うことがあまり必要なかった幾乃は遅刻が多い。むしろ、欠席が多い。だからきっと、内申点とかいう奴はあまり良くないのだろう。一般の教師であれば情もあるため、そうひどいことも書きはしないと聞くが、一時の生徒にしか過ぎない幾乃のことなどそう良く書く教師もいないはずだろう。だからといって善意に満ちた何かをしようなどと愚かなことを考える幾乃ではないのであるが。

「じゃ、僕こっちだから」
「ああ」
 会話らしい会話は殆ど無いと言っていい。語ることなどきっと無いのだから。
 そう思うのだが、幾乃の中には空虚な思いが生まれる。胸に穴をあけられたかのような、ぽっかりとした気分は一体何だ?
 それを誰に聞くべきか、その答えすら持たない幾乃はただ、虚空を見つめるように思うだけである。手を振る誠一郎を見ると胸が痛む。その理由や、それをどうこうする術など持ち合わせていない。それがどういう感情なのか、それすらも全く理解できない。ただ、痛む胸を怪我のせいではないだろうかと見下ろすだけである。



***



 意外にも物知りそうなちっこいのに聞いてみることにした。
 ちっこいの。というのは、小磯良子の友人のちっこい生き物で、特別な能力というものはないが、小磯良子の友人というだけあって、誠一郎には免疫があり恐れを抱いてはいないらしい。特別な能力がないとはいったが、戦闘能力に限った話でありその他の能力は優れている可能性が高い。特に状況を見極める能力には長けているように思われる言動が多い。本人は無意識の内に発している一言らしいが、本質を射抜いている言葉が多い。
 だからこそ、問うてみようと思ったのだ。本質が分かるかもしれないと思って。
「確かお前、7組だったよな…」
「そうだけど?」
「最近、私は良子に怒られてからというもの、定時に来るようにしている。そのせいで登校が誠一郎と一緒になることが多いのだが、私のクラスは誠一郎の隣でな、…私のクラスの前で別れる時に胸が痛む時があるんだが、……どう思う?」
 しばらくちっこいのは黙っていた。答えが分かっているけど、言ってしまうのはまずいかのようなそんな切羽詰まった雰囲気で。
 しかしその時間を延ばすわけにもいかないと判断したらしく、決心を固めた武士のような顔をして幾乃を睨みつけた。目の前の女が敵ではないと信じている目をもして。なんという器用な感情を操るのだろうか、と言葉を吐く前に声が聞こえ出していた。それは幾乃を敵対する言葉などではもちろんない。
「それって……………白瀧さんも、北野くんを好き、なんじゃないの…?もちろん、そう、いう意味で、よ」
 いつだったか受けた、意外な言葉に目を見開いたまま幾乃は止まった。にぶい幾乃も相手の言葉はすぐに理解できたからだ。
 そして、それを理解できたのは自分自身もそういう思いが少なからずあったからではなかったのか、と思ったからである。言ってしまえば、思い当たる節がなかったわけではない、ということになる。もちろん友人として彼のことを好きとは言っていたものの、それ以上の感情を持ってしまっていたのも分かっていたのである。ただ、分かるつもりなどなかったのだが。
 もちろん、分かってしまえばそれを認めざるを得ないから、である。
「でも、私は北野くんと良子がこのままうまくいってほしいって思ってるから。だから、邪魔、しないでほしいって、思ってる…」
 ちっこい生き物はちっこい声でそう告げた。それ以上はちっこい身体で意地を張ることなんでできなかったのだろう。やっと振り絞った言葉、という感じだ。何とも健気なその生き物の頭を思わず撫でた。幾乃が前に暴力事件を起こしたとて、優しい気持ちが全くないわけではない。何より、誠一郎と通じることで自然や周囲を大事に思う気持ちは増すばかりなのだ。
「だから、応援、できない………。ごめんなさいっ!」
 この気持ちは誠一郎が教えてくれたものだ。良子が教えてくれたものだ。そう幾乃は感じている。
 そして、不思議なことに心を外へと開くことを拒む気持ちが薄れていくのだ。徐々に。それは誠一郎が成せる技のようなものなのだろう、と感じる。言葉にしてしまえばひどく軽いものかもしれないが。
 開いた心で接するこのちっこいのにどうこう思うことなどない。ただ、自分なりの真実を語っているだけで、悪気も他意もきっとちっこいのには全くないのだろう。もちろんそれこそ、安っぽい正義感とかそういった邪魔臭いものも持っていない言葉。そう、心からの言葉!それ以外に何だというのだろう。
「何を謝っている…?」
 ごめんなさいという言葉と同時に幾乃に殴られるとでも思ったのか、頭を深々と下げたままのちっこいものを見て、幾乃は問う。友人の恋路を妨げられんとしているのだから、当然怒っていても当たり前だと思うのだが、どうして頭を下げているのだろう?幾乃には全く理解ができないでいる。
「私は誠一郎が好きだ、それでいいだろう。別に良子の恋路を邪魔しようなどとは思っていない。今はな。もし、邪魔しようと思ったならば私を咎めてくれて構わない。そうされて当然だからな」
 それが、幾乃の答え。ぽかんとした表情のちっこいのが言葉を失くして幾乃を見ている。
「前にも言ったろう。良子と誠一郎がくっつけばいいと思っている、とな」



「じ、…………じゃあ、白瀧さんは、…どうするんですか?」
「私は―――――」
 特に答えらしい答えなど無い。幾乃はどうもこうもしない。今までどおり、この碧空町に住まう一町民なのだ。それ以外ではありえない。それは、ここから離れたくはないからだ。


*****

テーマは数年前から(連載当時から)エンジェル伝説の私的テーマソングだったボンジョヴィのアルビーゼアフォーユー
日本語訳:きみの前に俺はいつだっているよ


ちなみに、
しばらくぶりにエンジェル伝説を朝っぱらから読みふけって(それも休みの日の夜まで使って)ハマリまくった結果に書いた、何とも言えない気持ちを綴ってみたのである。

もちろん、
エンジェル伝説自体はスカッと終わっている(ように私は思う)。
だが、私は郁子がいくのをどう呼んでいるのか分からなくて(調べる気もなく)白瀧さん呼びにさせたのだが、違和感はなかっただろうか?
本当はもうちょっと未来の話を綴るつもりだったのだが、クラス替えとかも毎年あるだろうし面倒だから、単純に幾乃の恋、みたいなものを書いてみた次第である。駄文であることは承知のうえ。

ちなみに、クレイモアは全く購入予定なしである。

2011/07/28 23:27:20