*某サイトにて「銀の勇者」を「銀の魔王」と勝手に読み間違えました

*むしろその前に「銀の勇者」を「蝿の魔王」と読み間違えました


振りかざした正義が尽きるとき



 男鹿が放ったパンチではまだ倒れない。これでも魔界の者には通じたはずなのに。握り締めた拳が白くなる程に、悔しさを握り締めて。それでもこの拳は勢いを増すことはないのだろうか。噛んだ唇には血の味が滲んでいた。
「…っ、ち、畜生ッ…!……」


***



 始めは、もちろん人間を放ることなどできるはずもなくて、しかし知ってゆく現実と、魔界の者と闘ううちに人間を守るという目的は知らずのうちに薄れていった。それはきっと自然の法則の流れに沿っていたから、誰も不都合を感じなかったし、気にすることもなかったのだろう。
 魔族のベル坊の兄らを倒したのは、人間達を守る術がそれ以外にないと思ってのことだった。そして時間は過ぎ、ベル坊の父をも倒すことになってしまったのは、やはり自然の流れというものだろう。そしてそれは、男鹿たちを含む人間たちには何不自由を与えることではなく。むしろ好ましいことだった。だが、流れが急激に逆流を辿り出す。
 運命などという言葉ほど他人任せな言葉はないと、男鹿はかつて嗤っていた。しかし、こうして逆境と言われる立場に立ってみれば、それは運命だ、と答えるのがどれ程楽なことかと思い知る。身を以て。もう運命を嗤うことなどできなかった。すべては運命のせいだと嘆きながら、自分の立場を思うしかない。それしかない。

 男鹿が魔族から救ったこの世界を脅かそうとする、天界からの使いが現れたのは、男鹿が高校2年に上がった頃であった。
 天界の者が何をどうしてくるのか。それを知る術もなくてヒルダが告げた言葉は、魔王を倒した際に洩れた言葉。
「貴様………、ベルゼ様の父君を。…何ということを。どうなっても、私は、手を貸せぬぞ……」
 声はひどく震えていた。魔界の長が倒れた魔界は、もろい世界となって砕け散っていったのだという。だが、男鹿はベル坊を育てながらもそれを見たわけではない。言われただけのことだ。そして男鹿自身がいるこの世は至って普通だったのだから、特に問題はないだろうと判断した。魔界がどうこうなったからといってベル坊がどうこうなるということもなかったのは、男鹿にとっては意外としか言いようがなかった。そして、ヒルダもまたそうであった。
 結局、ヒルダとベル坊は祖国?である魔界が崩壊したことでどこにも行くことができなくなってしまった。ここから動くことも出来ない。どうすることもできずにヒルダはまた「ふつつか者ですが…」という何とも言い難い挨拶を男鹿一家の者にひととおりしてから、男鹿の家に居座ったまま。ベル坊は挨拶をせずとも同じく、である。



***



「こんにちは。あなたが男鹿、サンですか?」
 明らかに怪しい男であった。マッチョ風で少しだけカタコトの日本語を使う男。そんな男には見覚えも何もない。だから男鹿は思わず「違います」っパンチをしてしまった。これは違います、と言いながら相手の顔面にストレートをお見舞いさせるという荒技である(ちなみに、即興の思いつきであることは明白)。
 ヨップル星人のときと同じ過ちを、今度は地球で、そして、侵略者に向けて男鹿はしてしまったのであった。

 つまり、それ以来天界の使いと名乗る者は男鹿の前に現れ、ベル坊を滅ぼさんとしているのであった。それはときにヒルダを狙い、何故か古市を狙った。ベル坊だけではなく、男鹿の家族すらも狙われた。それには男鹿も人の子である。怒りをおさめることができず、
「天界の使いだか何だか知らねぇーが、てめえら全部、ぶっ飛ばす。」
などと軽口叩いた。否、怒りに任せ言わずにはいられなかったのだ。



 男鹿としては関係なかった。自分がどうこうだけではなくて、自分の家族がそれに巻き込まれること。古市については全く問題なかったが、学校がそれによって崩壊したり、授業が妨げられること(単位の問題)。すべてにおいて迷惑であった。
 もはや身体全身と言える程に張り巡らされた蝿紋様(ゼブルスペル)がベル坊と男鹿を伝う信頼の証だと言われた当時は、それに反発もしたものだったがやはり時はひとを変える。信頼関係があるならそれを築こうじゃないか。そう思うのは人情というものだ。その相手が仮に、悪魔であったとしても。
 男鹿にしてみれば、信頼関係を築いておとなしくしているベル坊を襲う輩こそが、それは真の悪魔かのように映った。
 天界からの使者であるならば、きっとそれは『天使』と呼ばれるイキモノなんだろう。けれど、やっていることは悪魔と、それに憑かれた?人間である男鹿を殺戮しようという、破壊行動に他ならない。それが悪魔が地球を滅ぼすってのと何が違うのだろうか。男鹿もそれを理解することはできない。理由を説明できる脳みそのある天使とやらは降りてきているのか?それすら危うい所である。


「誰かを殺すってのは、地球じゃ悪いこと、だぜっ!」
 男鹿が握った拳には紋様が浮かび上がっていた。それを穿つと天使?はのけ反る。相手らの力もどんどん上がってきていることを、男鹿は身を持って知っていた。だからと言って、ベル坊を泣かせる輩を許すことはできない。そう。今でも変わっていないのだ。ベル坊が泣けばたちどころに男鹿へと落雷のようなサンダーが降り注ぐことというのは。それは事実としてずっとそこにあって、それがある以上は、ベル坊を捨て去ることもできないのだ。
 しかし反面、ヒルダは魔界の崩壊と共に“魔力”というものを失いつつあるようで、今や非力な女の一人と化している。やはりベル坊は魔王になる素質があるだけあって何かが違うのだろうか?と思ったのだが、それについてヒルダも答えを持ち合わせてはいないようであった。
 答えが分からない以上、それに向かって立ち向かう。それこそが男鹿の歴史に他ならない。だからこそ、生傷絶やさずにここにいるのだろう。その道筋については特に、男鹿自身も後悔はしていない。



 ただ、今放ったパンチは天使?にも効き目があったようで、相手は逃げていった。逃げ足が速いのは天使も悪魔も変わりはしない。男鹿は黙ったまま拳を見つめる。見慣れたゼブルスペル。禍々しいものだとは思わない。禍々しい雰囲気をもっているのは天使?らの方で間違いない。人間である男鹿の家族すらも狙うようなロクデナシどもである。
 それを悪魔と呼ばずに、何と呼ぼう?
 ベル坊と男鹿を繋ぐ紋様が絆の証。それを見ることはもはや不快ではなく、安心に変わっていた。信じ合えることに安堵を持つことが悪魔になるということならば、人間は悪魔のカタマリなのだろう。天使が消し去るのは人間とか悪魔とかいう単位などではないはず。それを個にしていることが怪しいものとしか思えなかった。だから、男鹿はこれからも天使?だろうが悪魔だろうが、人間だろうが、身の危険を呼ぶ者に対しては、戦う。そう、決めた。



 見つめたベル坊が「だ、」と声を発した。もちろん「了解」の意味に決まっている。



11.07.26

DoAs誓いがテーマソング系です。
(大学神崎と寧々にも合わせてるけど)

上書きのとおり、とある同人サイトさん見て、かつ上記の曲聞いて思いついたものです。

蝿の魔王と、その親の絆の話で、パラレルです。この通り原作進んだら、泣ける…
まぁそれはないと思うけど(笑)
天使について、疑問を持ってるわけですね。あっしが。天使だからっていいとか悪いとか、そういうことではないはずなのに、天使はいいって人間は決めてるわけでしょ。天使とかかみさま、とか。それがおもんないような気がしてるのもありました。それに人間と魔王の絆って言うのもあっていいと思ったから。そんな蝿王です。
曲がやさしいせいか、内容もへら〜〜〜んとしていますね。

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2011/07/28 17:27:57