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 耳を疑うような情報が急に入った。かつてのレディース仲間から。
 思わず自分自身が女だとか、むしろ相手とは敵対していたようなことも、仲間であったようなこともあったけれど、怒涛のような2年を忘れはしない。けれどそれが絆とか仲間とかそういった言葉を紡ぐような関係ではなかった。それを思うこともなく、ただ、ただ単に簡単に相手を貶めるような言葉を吐いてしまったのは、元よりレディースという荒っぽい環境にいたせいだけではないだろう。
 そう言わしめるだけの材料があったからに、決まっている。ヤツの仲間たちだってそう言ったに決まっている。



「停学で自宅謹慎? バァーカじゃねえの?!」



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「チョリース」
 いつものように現れた花澤由加ことパー子(命名:高校3年の時の神崎)が現れた。例の悪魔野高校とかいうふざけた名前の高校のヤツらをゲームでギャフンと言わせるために急遽、古市によって集められた面々が姫川の家で夜通しゲームに明け暮れた日々はあまりいい思い出とは言えないけれど、それ以来神崎組の面々とゲームっ子なパー子と谷村(千秋ことパー子が呼ぶにアキチー)は、ゲー友としてちょくちょく神崎の家に集まっている。ここで姫川の所に行かないでいるのは、やはり神崎が庶民派であるタマモノなのだろう。いくら姫川財閥の倅だと言っても、ゲーム部屋と呼ばれるマンションの一室があるような坊ちゃまと対等に話すには、よほど自分自身の生まれ育った環境とか、そういったものを棄てる覚悟でなくては無理なような、そんな天と地の差だからだと、神崎は思っている。
 で、何が言いたいのかというと、要は、レッドテイルの面々とは全く関係がなかったわけでもない。むしろ友達として仲良くやっていたように思うし、それでレッドテイルの総長である大森寧々がそれについて感知していなかった、なんてことすら神崎自身としては気持ちいい程に不知だった。
 ということを、今、パー子から聞かされた所だった。



「姉さんとは付き合いあるって思ってたッスよ。だから言ったんスから!そしたら姉さん、最近顔合わしたけど、それっきり連絡とってるワケじゃないって言ってたし、しかも最近会ったのも2年ぶりだったって言ってたッス」
 そもそもコイツらは何を根拠に大森寧々と神崎が関係があると踏んで話しているんだろうか? そう思うと腹立たしさすら覚えるのである。勝手に停学喰らったことなんかを洩らしたりして、迷惑なヤツだと思ったのでこめかみを握り拳でグリグリとしてやる。とりあえずはそれで勘弁してやることにした。どうやらパー子自身は悪気なく、むしろ善意でソレを大森寧々に話したらしい。
 神崎にしてみれば、2年ぶりに話した一時期(学年違いと言えど)クラスメイトだった相手にヘラヘラと洩らしてほしい話でもない。何より相手がどう言うかは分かっているのだ。それは見なくてもバカと言うに決まっているのだ。

「大当たり…」
 静かに谷村にそう言われた時は、そのおかっぱも一発くらい殴ってやろうか、とも思ったけれど、神崎とて子供ではない。止めておいた。――むしろ、谷村のカワイソウなものを見るかのような視線が、それを止めさせたのだったけれど、それは神崎の胸の内以外では内緒だ。


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 大学で停学になるようなやんちゃをしたのは確かにバカだった、としか言いようがない。それでも神崎のオヤジが退学を止めたのは、もちろんきっと、カネの動きによるものなんだろう。それについてはオヤジに聞くこともなかったし、聞きたいとも思わなかった。オヤジが金を出したことを知ってしまえば、自分自身がみじめになるからだ。
 理由は合コンの時にしてしまった、暴力事件。
 神崎にしてみれば初めての合コンが悪い思い出にしかならなかったことについて、息を詰まらせる以外、何ができるのだろう。


 合コン。
 それとは遠くあり、近くは全くなかった。別にブサイクとかそういうんじゃない。ただ、興味を持てなかっただけだ。異性を好きになったことがないわけじゃない。ただ、異性を嫌いになったこともない。そう、特別な感情を持ったことがないだけだ。それについて深く考えたことがない。だからといってホモだとかいうわけでもない。確かに神崎の周りには男ばかりが訪れるし、仲間内も神崎組という名前がある以上は、女がでしゃばる世界じゃないし、女がいても足手まといになるだけの世界だということは、神崎も分かっていた―――自分が関係すれば、いずれは組をも巻き込むことになりかねないからである―――。
 それを踏まえた世界観で生きていた。男気こそが大事な世界で、その中で夏目という男を選んだのはある意味賭けだったのは確かだが、その賭けに間違っていなかったのは高校時代の東邦神姫時代に身を以て分かっているわけで。結局は男気を押し進めるような世界は大学という狭い世にはないらしいが、それを知ることができただけでも人生勉強だったのだと大人になった気持ちで見下ろしていた。
 要は、男とか女とか、そういう世界に生きていないがためにそれを忘れていたということ。あまりに笑える程、間抜けなことに気付いたのは、少し前に2年ぶりに大森寧々に会った日だった。



 女に熱情を持って、キスをしたのは何年ぶりだったのだろう。
 初恋は、そう遅いと言われるような時ではなかった。中ぐらいの時期だったのではないか。小学四年の夏。ああ、あの時も夏だった。恋慕った女に口づけたのは大分時間が経ってからだったと記憶している。それ程、異性に向けて自身を持てる程の自信があるガキはそうはいないだろう。何より、ガキには金とかそういった概念はないのだから。それでもモノにした女にキスまでは施した覚えがある。相手の女も当時は嫌な顔をしてなかったのだから、今となってはきっとそう悪い思い出ではないはずだ。神崎の今の姿を見てどう思うか、はまた別の問題だが。

 だが、女がどうこうだとか、そんなことを思ったことは十年ぐらいはなかったということになる。つまりは、異性に無関係な時を十年ぐらい過ごしてきたのだろう。
 それについては特に問題はない。確かに神崎と異性が関わるようなことはなかったように思う。そして、異性を気にするような事象も何もなかったと。だが、それが崩されたのは神崎がその身で語っている。
 大森寧々と2年ぶりに会ってから、女を意識し始めたのは周りから見て明白だった。



「女、……作るか……………」
 彼女の一人や二人ぐらい、いなければハクがつかない。そんな勢いでそれを口走った。だが、それが強がりだということはきっと仲間内に見破られていた。特に夏目はもう最初から。


11.07.24〜28

ネタがあったはずなのに、書かないうちに忘れたような思いに駆られているので区切ります(笑)


大学神崎と寧々の一応続き。つまりはもっと続いちまうってこと

ちなみにこれはDoAs誓い聞きながら思い高めつつ書いてましたけどね。mp3手に入ったんで聞くのは問題なかったんだけど、思いついたそのときのテンション、みたいなものを保持するのってやっぱり無理だったんだね。って気付いた。ネタを覚えていようとも、何であろうとも、その時々の気分とかテンションって変わるものだからそれによって綴る文章ってまったく変わって来るんだよね。そう気付いていたけれど、気付かない振りをしていたんだって分かりました。

2011/07/28 00:37:22