きっとそこには失われない青があるのでしょう


 ゲリラ豪雨。
 こんな天候ならば一瞬にして思いつく、本日の夕方のニュースに何度言われるであろう言葉。

 一滴、一滴と雨粒が身体に感じられたと思ったら、もうあとはバケツの水をひっくり返したような邪魔な雨が天から降り注いでいる。耳障りなざあざあ、という音が懐かしい程に大量の水が降ってくる。とりあえず脇目も振らずに近くの屋根のある場所へと非難。
「どーせ、んな降り方じゃすぐ止むだろ…」
 短い雨宿りのつもりで校舎の軒下に身を寄せていると、遅れて見覚えのある波のようなパーマがかった赤茶けた髪がふわり、と神崎の前を漂う。女の髪、と言えば聞こえはいいが連日続く猛暑のため、シャンプーの匂いといったロマンあるものが感じられるはずもなく。むしろ、このバカみたいな大雨の中、そんなものを感じる余裕もなく、ただ横切った人物が傍らに背中を預けているというだけの話だ。
 案の定、現れたのは濡れ鼠になった大森寧々その人。レディースの総長を務めるクソ生意気な女である。よっぽどのバカでない限り、今のこの状況下でケンカを売ってくることなどないだろうが、たまにワケの解らないことを言ってキレてくるため、相手にしないようにしよう、と神崎は大人の対応を心に決めた。
 だが、何も喋らずにここにいるのも気まずい。
「………よう、大森か。」
「っ、い、いたの?!」
「……………最初からいたっつーの」
 大人の対応が揺らぎかけた。気付いていなかったのなら、と話しかけてしまったことに後悔の念すら抱く。
 当の大森は別に神崎などどうでもいいようで、髪を拭くために精を出している。濡れた髪を拭くのにハンカチぐらいでは足りないことなど解っているだろうに、ムダな足掻きを続けている。
「暑ィ。雨降ったんなら、ちったぁー冷えてほしいよな」
「ホント。ジメってるから乾きゃしない」
 多分こういう状況にいる諸君らなら、きっと同じような会話を繰り広げていることだろう。あと、とりあえず雨止め。
 猛暑のクセにゲリラ豪雨。でもって全然気温が下がらずに35度観測とか。そんなことをボヤきながら神崎は何とはなしに大森の方を見て、ふと思う。そういえば最近、レディース姿を見ていないことに気づく。いつも見せびらかすように特攻服を着ていたはずだが。
 雨の水か汗か解らないが、制服が肌にぺったりとくっついている。肩に透けて見えてしまったブラジャーの紐が目に入る。色は濃い。黒?黒なのか? と思わず凝視してしまう。まったく悪気は無しに。
「おっ…、おま…、男のトコにでも行くのか?」
 前にレッドテイルの掟は男を作らないとか何とか言っていたクセに。ちゃんと高校生として愉しみは闊歩しているらしい。黒の下着など相当妖しいシロモノである。だから後先考えずに思わず口走ってしまっていた。
 ズゴッ。
 言葉より先にどうやら大森のカバンが神崎を襲ったようだった。衝撃で倒れなかったのは、やはりこの女については神崎自身も気を付けている部分があるからだろうと思う。何よりこの状況で倒れると、折角雨にうたれずに済んだ意味がない。踏ん張ってよかった、などと場違いなことを考える。その後でようやく今この状態で殴られたことに対するふつふつとした怒りがせり上がってくる。大人の対応。もう忘れた。
「痛ェーーな、クソアマ!」
「ワケ分かんないこと言ってんじゃないよ」
 殴られたことの方がもっとワケ分かんないことのような気がするのは、神崎の気のせいだろうか。半端に聞くのも癪だと思った。
「んじゃあアレか。好きな野郎がいるとか」
 ドゴッ。
 もう一発、避ける間もなくカバンが飛んできたらしい。下腹に衝撃。瞬時に離れていく得物が何であったか、見る間もなく腹を押さえて痛みを堪える。そもそもこんな風に殴られる意味が全く分からないのだが。赤面した大森が神崎から嫌そうに目を逸らしてカバンを手にしながら言う。
「何でそんなこと言うのよ。ナメんじゃないわよ」
「そりゃ……、お前のブラ、誘惑してるとしか思えねえ黒、」
 ズボッ。
 話そうとしている矢先に飛んできたカバンは屈んだ格好の神崎の顔面に飛んで来ていた。避けるも何ももう、ぶつかっていたのだからムダな話。神崎も衝撃を喰らいながらバカ正直に答えるなんて自殺行為だったな、と情けなくも感じていた。もはや衝撃は神崎の身体を支える術を失っていて、その場に崩れるように倒れる。後ろへと倒れたため、仰向けに倒れているらしい。濡れた地面に触れてしまったようで、ひどく気分が悪い。折角濡れないできた意味がない。
 だが、それも無意味ではない。雨足はどうやら弱まっているらしいと見てとれたからである。すぐ止む雨。お天気雨。それを証明するかのように、いつの間にやら空は晴れ間を見せている。だが、まだ雨は止んではいない。
 いつまでも寝ている訳にもいかない。ちょっとはケンカで慣らした腕だ。そこら辺の坊っちゃんらよりは力もあるし、筋肉だってついている。腹に力を込めて勢いよく足を上げてその反動で手を使わずに起き上がる。最初にやることはまず、目の前の大森寧々のせいで汚れたシャツの汚れを払うことだ。
 弱まった雨足を見ながら、このくらい小ぶりになっているのなら多少は濡れてもいいだろう、と思う。待ち合わせの時間には間違いなく遅れた。神崎自身、常に上にいる立場上待たせることに罪悪感などというものは持っていない。だが、一日はどう足掻いたって24時間しかないのだ。その限られた時間を楽しいと思うのと、雨が止めと願うのと、どちらがいいかと言えばもちろん前者だろう誰だって。だから空を見上げている。何度もこうやって。
「クソアマの相手、してるヒマなんてねーんだよ」
 大森の頭にバサッと音立てて何か大きなモノが置かれる。急に何かと驚きながらもすぐに押しつけて行った手は離れて、それが何かを知る前に抑え込むハメになる。上げた視線には早くも走り去ろうとしている神崎の後ろ姿。その姿は上半身裸で、手にあるそれが神崎のYシャツだと気付くまでほんの数秒。けれどその間にも神崎の姿は雨に霞んでいった。
「何よ!いらないわよ、こんなの、」
 言った所できっともう聞こえてはいないだろうし、咄嗟のことで呆気にとられていた大森はすぐに対応できなかった。ただぽかんとした表情のまま、渡されたシャツを押さえているだけだった。やがて、雨が上がっていく。
 いつ返すべきか。学校で渡すのはあまりにおかしいように思えた。伝う熱気は神崎の残した体温なんかではきっと無かったけれど、それでも意識してしまうのが嫌でシャツのやり場に一人アタフタする。どうして渡して行ったのだろう。きっと神崎は下着の透けているクラスメイトに気をつけろ、と言いたかったのだろうと思う。ヤクザ神崎組の息子として有名になった神崎だが、女やらの浮ついた噂は耳にしない。硬派というヤツなのかもしれない。古臭い言葉だけれど、ヤクザの息子なら古風なのは何となく合点がいく。
 気付いたら雨は止んでいた。本当に短い間の、激しい通り雨。残したのは神崎のYシャツ。
 ボンヤリしながら大森寧々は総会へ向かう。場所はムリヤリにも借りた、邦枝葵元総長の家。ぐずぐずなどしていられないのだ。シャツのことも神崎のことも今は頭から振り払って、邦枝をどうやってレッドテイルに戻すかを考えなくてはならない。だが、手の中にある神崎のシャツがしっかり重さを伝えて、集中できない。遅れてしまったかもしれない。走って向かうことにした。



11.7.08〜〜書き終えたの7.20

かなり書くのに時間がかかってしまったんで、最後のほう、あまり上手くまとまっていないんですが(汗
風邪をこじらせまして、パソコンと向き合う時間を取らなかったんです。
風邪がひどいのもありましたけど、あんまり暑くってパソコン動かすのもどうかな〜って感じもあったんでね。ゲームも殆どPSPばっかでしたもん。熱でイくのも悲しいですしね……
や。オチは決まってたんです。ゲリラ豪雨で雨宿りして、ブラが透けた寧々を気にする神崎が、別れ際にシャツ(もち学校指定のもの)を脱いで渡して去っていく…ってベタっていうか、ベッタベタですけど(笑)そういう青臭いネタって今や書かれないですもんね。もう同人っていうとエロみたいな感じになっちゃってて。青臭いloveにもならないような、イチャイチャすらしてないこんなネタが沢山書きたいわけですよっ!!(恥)

まぁべるぜでエロって言ったら厳しいですかね〜〜。でもちょっと脳内構想では神崎と寧々はエロもありですけど(笑)
でもあっしが考えるヤツってば絶対に寧々が攻めですけどね。なんでやねん。
あとは友情モノをメインにしていきたいという。悪魔な連中はうまくからめられるかどうかってのは、これからの本編の流れ次第だと思いますけどね。今のところは学校生活とかですね。

クロエ

2011/07/20 18:33:50