決めること、決めないこと、決まらないこと



 放っておくわけにもいかなくて、向き合う。特にこれといって何かをしたいわけでもない。ただ、相手が睨んできただけ。そう感じたのは神崎だけだったのだろうが。ひどく冷たく張り詰めた空気。教室の中には似つかわしくもない。それは昼休みという憩いの時。
「なんだクソアマ」
 面倒な授業をサボってしばらく後。しびれを切らしたみたいに大森寧々が神崎を睨みつけている。だから神崎も凄んでそう返すのだ。スパッと聞けばいいのに、と思う神崎。そして、早く言えよと思う大森。相入れないすれ違いに何の意味があるのだろう。どちらも、互いの思いを口にせずとも理解していた。むしろ、他に口を聞く理由がないのだから。
 大森が口を開きかける。それを遮るようにして神崎が立ち上がる。間近に寄って小さく耳打ち。
「石覇矢公園……」



 どうせ大森の聞きたいことはそれだけだ。自分の思いで、自分の思いだけで神崎組と決着をつけるとかどうこう。神崎は正直、面倒くさかった。
 けれど、城山と夏目は言わなくても神崎と大森をくっつけたがっているような雰囲気であるし、クラスメイトも、前に事故で抱き合うような格好になってしまった二人を深読みしようと構えている。それに応える気はもちろん無いし、応えてやる必要もない。そもそも神崎と大森がくっつくことに何の意味があるのか。それは男鹿と邦枝だろう、と内心ツッコミを入れた。
 だからこそ神崎はどうこう言われたくないがために、学校から少し離れた場所に位置する石覇矢公園を指定した。そこに来るか来ないかは問題ではない。もちろん来なければイライラするだろうし、次の日に殴りに行くかもしれない。それでも今はよかった。クラスメイトらを撒くのが目的の第一なのだから。
 それを聞いた大森は息を飲んでいた。それは聞こえたが、それ以降の何らかの言葉や声は聞いていない。立ち上がりどこかに行く振りをして神崎は、その場からすぐに立ち去ったのだから。もちろん行く先はヨーグルッチの自販機に決まっている。少し遅れて城山が着いてくる音がした。夏目は……………着いてこなかったのを後から知った。別に構わないが。



「どう、したんですか。急に」
「ヨーグルッチの自販、こっちにしかねぇみてぇーだからな」
「イエ…、そういうことではなくて、」
 神崎は、城山が何を聞きたいのかということを解って、知らない振りをして返していた。そして、直接的な言葉で問われるまでそれについて言う気などもちろんない。直接的に聞いてきたからとして、まともに答える気なんて、全くない。面倒なことは捨ておくべきだろうか。
 そう思った瞬間に、出た裏拳。それには悪気も他意もなく。ただ、純粋に出てしまった、としか言うしかなくて。倒れてしまった城山があまりに哀れであった。ドターン、と音立ててその場にひっくり返る城山。城山としても急に拳が飛んできた、と思ったのだろう。流れ出した鼻血を手で拭いながら立ち上がった。
「――すみません」
 返したのはその言葉。それでこそ城山だ。まだ神崎の拳には殴り付けた感触が残っていた。それは心地好い様な、しかし、城山が鼻血を抑える様を見ていると後悔の念を感じさせるような、そんな感触であった。そんなことを思っていることはおくびにも出さず、そんな思いを悟られないように神崎はすぐに城山から目を逸らす。
「下らねえ詮索してんじゃねーーよ」
 返す言葉はこれ以外に必要ではないだろう。冷たく突き放すようにそれだけ告げて、城山を顧みることもなく、ヨーグルッチのある自販機を目指した。
 ああ、早く、早くヨーグルッチ飲みたい。


11.06.29
神崎と寧々シリーズ8

GLAYのHAPPIYNESがオチない文のテーマ曲(笑)


とうとう場所まで決まってしまったけれど、どうなるか全く解っていません先生!
石覇矢は捏造の地名ですよおっかさん!許せ。

どうしてそこを指定したのか。それを理由づけしてる文章。あらま。

寧々ラバー様、神崎ばっかですみません。。。。。。

2011/06/29 18:31:08