「本当に決着、つけるんですか?」
 そっと静かに傍らに居続けた城山が神崎に声を掛ける。放課後の決着に向けて、周りの反応はヒートアップしている。だが、どこでとかどう決着をつけるということは、神崎自身からもまだ一言も発されていない。
 城山もまた夏目が同様に思うことがある。神崎という男はフェミニストというわけではないが、やはり女子供に対し容赦ないような非道さを持ち合わせているわけではなかった。アルイミ常識人ではあるのだ。そういう所にもやはり城山自身認めるところがあってずっと共にいるのだ。それ故、今回のレッドテイルとの決着うんぬんという話は違和感を感じずにいられない。そして夏目もそう思っているし、今回は夏目の思いも理解できている。
 当の神崎は呆けたような顔をしたまま気のない返事を返してくる。というか、これは答える気がないようだ。ぼんやり顔のままレディースのメンバーに囲まれて何やら話している大森寧々を見ている。作戦を練っている表情にも見えない。
「つーかよ、何であのアマ俺につっかかってくんだ?」
 今さらな疑問。神崎は城山に聞いたつもりだった。だが答えたのは夏目。
「神崎君にしても、そう見えたけど。…お互いサマなんじゃない?」
 夏目の答えが気に食わない。睨みつけたが金を投げ渡す。「おっと」と夏目は慣れたようにジャラ銭を受け取る。何かにつけて「ヨーグルッチ買って来い」なのだ。まぁ校舎をぶらつくのも楽しいかもしれない。夏目は何も言わず立ち上がり、神崎の命に従う。
 歩き去る夏目の後ろ姿を見送って、城山が再び神崎へと視線を戻す。レディース軍団もどこかに行ったようだ。だが夏目とは別の方向だったようだ。その軍団の去った後のがらんとした座席らの方へと神崎の視線は泳いでいる。ぼんやりと止まっている。呆けている。いつもの覇気と凄味が薄い。
 殴られることは解っている。だが、城山は黙っているのもどうかと思った。言うべきではないか。
 また今この瞬間も、神崎は誰もいない座席を見つめて何かを思っている。もちろん神崎の考えなど見ることはできないが、それでも常日頃共にある仲間として大抵の想像はつく。そこにあるのは敵意ではないことも分かる。だがボンヤリ思うことを口に出来るほど語彙があるわけでもない。それは神崎とて同じこと。
「神崎さん。どうして、大森のことを考えてるんですか?」
 少ない語彙でできるだけ直接的な表現を省いた…つもりだったが、かなり直接的な表現になってしまったことはいたたまれない。目の前に「は?何言ってんのお前?」という表情の神崎が停止していた。で、神崎は顎に手をやってふと考えてみる。確かに今、大森寧々のことを考えていた、と思う。それは何を考えていたのだろう? 単純に大森寧々というヤツを気になっただけだ。城山はどうして、と聞いたが理由なんてあるのだろうか。思い出すことに理由があるわけがない。大森寧々はさっきまですぐそこにいたのだ。その前にドンパチムードになった。だから大森のことを考えるのは、思い出すのは当たり前のことだろう。それを城山に言わなくちゃならないのだろうか? 神崎は夏目同様に城山の言葉も気に食わなかった。凄んで睨みつけてやる。
「おい…、さっきああいうふうになったんだ。ったりめ〜だろうが」
 もちろん、神崎がそういう結論に至ったのはごもっともなことだと城山も感じる。しかし、今の状況は違うだろう。神崎が言うような理由であれば神崎組としてレッドテイルとどう決着をつけるのかとか、場所とか、そういったことを話すはずである。ぼんやりしているわけがない。今の神崎は闘う意思など全くないようにしか見えない。
「さっき、言いましたけど………俺は、神崎さんの決めた人なら、着いていきます」
 神崎が何故認めようとしないのか。それを自分たちへの思いかもしれないと思えばこそ出る言葉。そして、それは少し前に神崎自身から否定された言葉。勘違いするな、と諭された言葉だった。それでも、神崎の態度は否定にはあまりに弱いと思ったから、再び城山は告げたのだ。殴られることを覚悟して。
 再び告げられた言葉を聞いて、神崎自身が思い出す。好きとか嫌いとか、そんなくだらないものが何より大事だと感じたということ。それに振り回されていることだって、十数年生きていて否定できるわけもない。何より自分の好きなように生きてきた。嫌いなことはなるべく破壊するようにして、負けないようにして。負ける時はそれはそれで割り切って。勉強は最低限、とか。どんなに自分自身が認めなくったって、好きと嫌いを選んで生きているんだって。好きと嫌いの間で揺らぐことがたくさんあるんだって。
 だから気付く。城山や夏目が感じるほどに自分が揺らいでいるのかと。それに大森寧々が関係しているのだろうか、と。それについて考えなくてはならないのだろうか、と。冷静に考えるために今すぐヨーグルッチが欲しかった。教室はタバコのにおいで満たされていたけれど、神崎はタバコの代わりみたいにヨーグルッチのストローを咥えていたから、タバコのにおいはそんなにイイモノではなかった。昔から慣れているから嫌なにおいだとも思わなかったけれど。
「夏目がヨーグルッチ買ってきたら、出る……!」
 自分自身と、静かな場所で向き合う必要が、あった。


愚かしさと紙一重
クロエ


11.06.27
神崎と寧々シリーズ6

神崎と寧々のやつ。まだ続くんだよな〜〜

なんか終わんなくてすんません(思ったより長引いてます)


テーマはべるぜの主題歌落として、一番聞いてるノースリーブス(初期ED)のカップリング(笑)
ノースリーブスいいよー。思ってたより全然歌がいい。ソロの3曲目聞いてました。


次回は神崎が寧々のことをマジで考える話
って……何を??って感じです。自分で言っといて。



同人サイト巡ってたら、どうやら神崎と由加のほうがメジャーですね。自分も最初そうだと思ってましたから、納得するんですけどね。でも神崎と寧々っていうのはマイナーらしす。ふ〜〜ん(イツモノコト)
もうね、この二人だと18禁手前くらいのネタも書きたいなぁって思ってるとこなんすよ。
ヤンキーなので認めてしまえば展開は早いってな。そんな感じで(笑)とりえあずべるぜアニメが多分1年クールで続くことを半ば確信しつつ喜んでいるワタクシです。

2011/06/27 18:29:58