一週間振りにあの神崎が学校に現れた。
 神崎を恐れる者は黙って道を譲り、目立たないように気を使った。ヨーグルッチを咥えながら歩く様は全く変わっていない。冷たく無慈悲に光る目が得物を狙っている野獣のようで、そういった意味では姫川よりも関わり合いたくない相手であった。
 教室の右と左で、とある影が連なる。神崎組と邦の字のレッドテイル現総長・大森寧々が教室に入る前にはち合わせた。
 この二人、ちょうど一週間ほどまえに教室で熱く抱き合っていたことが話題になっていた二人である。それもこの石矢魔の生徒の間では三日ともたない話題であったが、それでも二人が揃ってしまえばボソボソと前のことが話題にのぼるのは当然なわけで。
「何か用なら言えや」
 神崎の放ったヨーグルッチの箱が一人の不良にヒットして、そのまま倒れた。カラじゃなかったのか? と皆が不安になって拾いに行ったが、やはりそれはカラ箱で間違いなかった。指圧にてカラの紙箱を強力な武器とする神崎の力に恐れをなして、弱い不良どもは口を噤むこととなった。



 神崎は自分が作ったグループがあって、そこに属している以上は自分自身が王だから不自由なんて感じたことはない。だから誰かが作った何かに属する苦しさや、理不尽さのようなものを感じることはできない。自分で作ったものは強いと思う。自分で作った以上、自分で好きなようにルール変更ができるし、それをする権限があるのも自分なのだ。だが、その権限は自分が任せた者に受け継がれるものであったよいのではないか? と思うのだ。自分が信じた者がルールを変更するのは、任せた以上時代の流れもあるし、致し方ないことなんだろう。そう思うのは間違いなのだろうか? 前に決めた者のルールに馬鹿の一つ覚えみたいに従う犬ッコロのような態度。それがアタマに立つ者の態度なんだろうか。と神崎は思ってしまう。
 そう思っている以上、そこにいる馬鹿馬鹿しいルールに絡められている大森の姿を見てしまう。こいつに解らせてやりたいと思う。自分の持論を話せばきっと、納得せざるを得ないと思うだろうから。人一人が関わったぐらいで、やすやす絆が崩れるわけがないと知っているだろうからこそ、絆というものの理解が女ごときに解っているのかどうか。神崎が知っておきたいと思ったから。



「何だい? 尻尾巻いて逃げてたと思ったら、何か用かい?」
 数度目、目が合ったのは。だから気のせいではないと思った大森が神崎に堪らず声を張り上げた。
 安い挑発に乗るのは女らしいと言える。しかし今回、神崎は挑発をしたつもりなどなかった。ただ、単純にいろいろあったから気になっていた大森の姿を見ていただけのことである。それが目が合って、タンカ切ってると思われただけだ。それも仕方がないのかもしれない。何より、総長の座を受け継いだばかりの大森は多少浮かれもあるのかもしれない。神崎が分からせやる必要があった。どんなに凄んだって女ごときでどうこうできるものではないのだと。
「調子クレてんじゃねぇぞ、クソアマ。」
 これこそが挑発の笑みだ。冷たい笑みが二人の間に広がる。教室中の馬鹿どもが喜ぶようなラブコメなんてありっこないということが空気で知れ渡る。教室の空気は冷たく彩られていく。視界に届くわけではないのに、どうして解ってしまうのだろう。教室の中でゴクリと息を呑んだ数人がそう感じていた。(ああ、俺達はKYなんかじゃねえからヨロシク!)
 神崎は感じた。大森の方からチャリ、と鎖の音がしたのを。だから素早く動くことができた。大森が絡めようとしてきた鎖を軽く受け流し、何とか形を変えたその鎖をぐしゃりと掴んだ格好で。してやったりな笑みを口元に浮かべたままフンと鼻を鳴らす。
「んな程度、だろ?」
 強がりが入っていたことは、クラスの奴らにはきっと解りはしないだろう。腕に絡む鎖をじゃらりと音立てて解くのはある意味パフォーマンスと言える。実は神崎自身、鎖の存在には冷や冷やしていたのだから。
「決着、つけんなら……後、だ!」
 丁度いいタイミングで担任が顔を出した。だから、それをダシにした。どこということも言っていない。きっと大森は気にしているはずだろうと思う。もちろん、レッドテイルというレディースのヘッドとして。くだらない組織に縛られながら。縛りのない自分は本当に身軽なものだと思うばかりである。
 鎖はすぐにそこから消え去り、大森の懐(?)へと消え去っていった。懐にしまっているからこそ、いつでも取り出せるのだろう。あの長い鎖をどこにどうしまっているのか問いただしてみたいけれど、くだらない授業が始まったのでやめておいた。
 後は、大森がどう出てくるか、それに尽きる。神崎自身としては深追いするつもりもない。レディースがどうこう言ったところで、あの邦枝葵が抜けたレッドテイルに光を感じることはなかったからである。



王の凱旋


11.06.23
神崎と寧々シリーズ5

まだ続く神崎と大森寧々(笑)


気になる所で続く。という展開は同人には要らんよなあと思ってやめておいた。
読みたくない人が読まないタイミングで辞めますってな。


しかし寧々と神崎の話が終わらんな〜
次回にかなり大詰めになると思われます。ちなみに休みの日以外ほとんど小説(?モドキ)も書けないので、更新とかナントカは後回しになります。何よりワタシクシは携帯もってませんし(スマートフォンなら有りますがね)。うちづらいって理由を含めて、激しくメール回数減っています。

そーいや、神崎も寧々もメール短そうとか思う。結構似たもの同士じゃないだろうか。


べるぜネタでホモはなしですが、ノマカプはありですね。がっつり書きたい気がするのが、神崎×寧々だったりします。
とあるネタではマンガか小説か、考え中なものもあります。とりあえず早く話し終わらせろって話か。


2011/06/23 20:38:00