鮮烈ですらあった眩しさもそのすべて形づくる無二の名も




 今なら、この頬の古傷も痛まないかもしれない。だから、ねえ、僕の名前を呼んでくれないか。


「お早う、男鹿君」
「よお、カズ」
 男鹿は全く手を振り笑顔の三木を、まるで存在しないかのように黙殺している。そのまま三木の方を誰もが見ようとせずにそのまま男鹿の家から古市、男鹿、和也の三人で登校の道を辿る。和也は六騎聖であった三木のことを黙殺することはできないので、渋々玄関まで連れてきたのだったが、それ以降は今の有様である。
 やはり数年間のブランクをそう簡単に埋めることはできないのだろう。何より事情を知らずに男鹿に逆恨みしてしまったのだ。あのバレーボール対決以来、男鹿はあまり学校に来ていないこともあって、こうして共に登校しようという話をしたこともない。昔のまんま憧れて、昔のようにまた戻りたくて三木が勝手に押しかけただけ。だからこういう態度なのは分かる。だけど…
「男鹿っ!! 一週間以上も僕に声を掛けてくれないなんて、ちょっとヒドすぎるんじゃないのかっ!! あんまりだよ! 僕だって、謝りたいんだ。君と、話したい…!」
 思わず叫ぶように言った言葉には、三人はあからさまに反応した。
 男鹿は宇宙人を見るような目で、古市と和也は他人を憐れむような目で。だが無言。
 それは刹那のことで、すぐに三人はくるりと向き直り登校の道を辿っていく。負けてたまるか。これは裏切りではない。これは男鹿なりの照らいもあるのだろうと思って。そしてもう一度、男鹿と呼んだ。願いをこめて。
 脇の二人が男鹿に話しかけている。チラチラと三木の方を振り返りながら。やはり道の真ん中で何度も大声を張り上げる相手を放っておくわけにもいかないのだろう。二人は男鹿を説得し始めていた。
(男鹿、三木のヤツ、何回でも来るんだから一回ぐらい話聞いてやれって)
(男鹿さん、だって、あの三木ですよ?! にじり寄ってきてるし、逃げらんねーッスてば!)
「ダヴ…」
 ありえない、絶対ありえないといった感じでベル坊が嫌々している。気持ち悪い生き物くるんじゃねえよと言わんばかりに青い顔をして首を振っている。もはや三木が傍に寄ることはただごとではないのである。男鹿は、それを誇示するために背中のベル坊を無言で、抱きかかえてその表情を二人へと見せつけてやる。
 その間もツカツカと寄ってくる三木にベル坊は激しくガン付けをカマす。そして何やら喚き立てる。彼なりのとても汚い言葉で。
「マ゛ーマ゛マ゛マ゛ーーーッ!!」
 ていうか、何でベル坊こんなに三木のこと嫌いなんだろう…? 内心古市はとても聞いてみたかった。だがベル坊は言葉を話すことができない。ちょっと残念…。
「男鹿。お願いだ、僕を無視しないでくれ」
「うるせぇな。俺はお前なんかに用はねぇよ」
 逆恨みとか復讐とか、そんなことで話したくないというほど男鹿が気にするような男だとは思わなかった。前に何ヶ月も付き合いがあったのだ。それくらいは三木でも分かる。単純に話すことがないのかもしれない。数年という時間は、学生時代ではきっと長いものだから。
「分かったよ、男鹿。僕との勝負、まだだったよね…?」
 そういう手できたか。と古市は眉を寄せる。何となく姑息な男のように見えてきた、三木…。
 ザワリ、と周りの空気が揺れる。これは男鹿が楽しむ兆候だ。冷たい風が四人を包む。登校途中の生徒たちを包む。不穏な空気が流れ始める。だが暑い夏の始まり、これが不穏だと気付いたのは古市と和也くらいのものだったろう。
「……そう、だったな…。てめぇとの勝負はオアズケだったな」
 愉しそうに悪魔のような冷たい笑みを浮かべだす男鹿。この男は勝負とかケンカとかいう話になると、全く別の生き物へと変貌するのが悪いクセである。そういえば東条もその類のケンカバカだったな、と古市はため息をつく。
「放課後、僕が迎えに行くから、その時に広いところで勝負しないか」
「おお」
 その間ずっとベル坊は何やら罵るような言葉を吐き続けていたが、言葉が通じない彼らにはもはや、三木はだめだ気持ち悪いという悲鳴にしか聞こえなかった。ついでに言うと、迎えに行くからっていう言葉も気持ち悪くてもうなんか、ダメだった。
「じゃあ、遅刻しないように。僕は先に行ってるよ」
 素早く、そしてさわやかな少年のような笑みを浮かべながら三木は学校へと走り去っていった。迫り来る放課後を楽しみにして。



「うーし、じゃ行くか」
「ああ行こう。しかし気持ち悪かったな」
「そうですね、かなり気持ち悪いッスね」
「ウィー!(※行くぜ野郎ども的な)」
 悪魔の冷たさのような空気は一瞬にして消え去った。もしかしたら、あまりの気持ち悪さに男鹿も、放課後の勝負について記憶から消してしまいたかったからかもしれない。


11.06.20

だから廃人ですかって程書いてるベル文(造語
今回は三木と男鹿。まだ勝負のところは書いてませんが、絶対放課後、三木が迎えに行ったときには男鹿の姿はないでしょうね(鬼)普通に古市とかとコロッケ食いながら帰ってる思います。

小説でベル坊ってあんまり書けないので(絵でも子供、むしろ赤ん坊って描いたことあんまりないので苦手)話に混じって良かったです。
ベル坊のキャラってすごくイイんだけど、言葉がしゃべれない以上は話にカラまないって悲しさがあるわけ。まぁ今回とてつもなく汚い言葉を吐きまくってくれて有難う。そんなベル坊が可愛くてしゃ〜ない今の心境です。

そのうちこの話の続きを書くことになりそう。
でも三木がいい思いをすることは多分ないでしょう(言い切りっ!)

夜風にまたがるニルバーナ

2011/06/20 20:35:18