教育が必要なようです


 東邦神姫

 石矢魔高校の4つ柱が折れた。4つが4つとも男鹿辰巳に負けた時、どうしてか校舎自体が壊れて、石矢魔高校自体がそこから消えた。

 それからしばらくして、聖石矢魔高校にて学校生活を送っている。
 あまりに平和すぎて、ふと気付く。東邦神姫の中で一番変わったヤツの姿を目に映して、ぼんやりと呟いた。
「なんで邦枝は、……普通の制服着るようになったんだぁ?」
 前は特攻服だったじゃねーか。
 そんなことを思ったから口に出しただけ。その男の名は、神崎一。
 元より邦枝が総長をやっていたレッドテイルの面々からの得物が神崎の目の前に突き出される。当人としてはただ口にしただけの言葉がそれだけの意味があるのか全く分からない。ただ生命の危機を感じ、その場から飛び退るように席を立った。この時、椅子が倒れて辺りに高い物音を響かせたけれど、この状況なら当たり前のことなので気にしないことにする。
「なっ、…なんなんだ、テメエら…!」
 大森寧々の持つチェーンと、谷村千秋の持つエアガンの銃口と、花澤由加はヘアピンに手をかけていて、完璧な臨戦態勢である。当の邦枝葵には神崎の呟きが聞こえていなかったらしく、長物を持っている素振りもない。それもそうか、と神崎は軽く理解してしまう。邦枝は今、あの男鹿辰巳と話をしている。
「アタシは、今だって姐さんが総長だって…思ってる」
 寧々が悔しそうに絞り出す声。それと同時に神崎に向けられていた武器のそれぞれが力なく下ろされていく。この言葉に何らかの暗号でもあるのだろうか?神崎には全く意味が通じない。ただ、己の生命の危機は脱したらしいということだけが理解できたので、再び自分の席に腰を降ろし直した。それだけの話である。
 神崎はつらそうに言葉を吐く寧々の視線の先を見遣る。どうにも例の総長の姿を見つめているようだ。所謂、姐さん=邦枝葵の姿のようだが……、その葵と来たら見られていることなど全く気付かずに男鹿に何かを話しかけて、表情をくるくると変化させている様。目は輝いているようで、その姿を見ればよほどの阿呆でない限りは思わずにいられないだろう。
「……よりにもよって、男鹿、かよ」
 それだけで共感してしまったことが理解できた。だから寧々は堪らず神崎をその場でどつく。容赦なく思いきり。
「ごばへっ」とかあまりにカッコワルイ音のような声を発しながら、椅子から教室の床へとへばった。不意打ちは効き目が違う。くらくらする頭を抑えながら数十秒間のインターバルの後、神崎が復帰した。復帰率の方はかなり低いレベルだが、そんなことはどうでもいい。今はケンカするつもりも何もないからだ。
 しかし寧々が睨み付けてくる視線がひどく痛い。これ以上ないくらいにキツイ視線でガン付けカマす。理由など分からないのに、どうして睨まれているのか分からずに、神崎もそれに睨み返す。もちろん返す言葉は「クソアマ」だ。

 ちゃり…
 静かに神崎の首に巻きつくチェーンが、命の危機を感じさせなかったのは、そのまま力なく胸元へと垂れたから。それと数秒の差はあっただろうか。寧々の顔が悔しそうに歪んだ。チェーンから手を離したその手で、神崎の胸倉を掴んだその力は、チェーンのそれとは違い、やっぱり一人の女の力に過ぎない、と神崎は思った。
「アンタに何が、分かるってんだ……!」
 近く見えるその目は悔し涙に歪んでいるように、見えた。
 感情に歪んだその目は、邦枝の方向を見てはっとしたように正気に戻る。それは瞬時のことで、神崎もそれについて言及することもできずただ過ぎ去る時を見つめているだけ。寧々が手を離したらそのまま神崎は席に着いたまんまの恰好で、戻って来た邦枝が寧々にどうこう言っている様を見せられているだけ。
 寧々が言った言葉は微塵も理解ができない。何も分かるわけがない。
 ただ、今日売られて買ったはずのケンカを先送りにされた理由を、いずれ聞く必要がある。そう感じた。


2011.06.17
神崎と寧々シリーズ1

レッドテイルの掟を知らない神崎の話。
ちなみに神崎と寧々もいいけど、神崎と由加もいいなってカナーリ悩んでます。6巻バブ51でカラむ神崎と寧々のイメージで書きました。
神崎と姫川が意地は張ってナンボって言うシーンはかなり男を感じますな。
でも姫川はチェリーとかウブって感じが(今の所)しないのでどうしても恋愛ネタにはカラみにくい。
神崎は恋愛ゴトにはウブな感じがするので上記2人について悩み中。

テーマソングはガーネットクロウの静かめな曲・数曲。


title/guilty

2011/06/20 20:20:09