内緒内緒の話をしようか


「神崎先輩、どうして花澤さんのこと、パー子って呼ぶんですか?」
 ふと気づいたことを質問してみる。その声の主はもちろんレディいれば俺もいる。ナイスガイ古市貴之(何につけてもザ・自称)。近頃は悪魔騒ぎで個人個人のことを気にする間もなかったが、ちらと見てみれば少し変わったところがあるじゃないか、と。
「…そりゃオメー、頭くるくるパー子だからだろ」
 何の興味も気もなさそうに、神崎がそっけなく答える。その答えにキーキーと文句を垂れる花澤の姿が妙にほほえましい。頭くるくるパー子と言われた彼女へと視線は集まる。みんなの目が言っている。
『確かに』
「…それってマジ、パネェっすよ! アタシそこまでパーじゃねッス! つーか神崎先輩それマジひどいッス!!」
 その喋りがまた納得を一つ確かにするのだということは、その場の誰もが理解する所であり、でも口にしないことでもあった。
「ま、いいんじゃね? パー子らしくてよ」
 その時、神崎が花澤の頭を軽くぽんとやる。悪魔らの話の中、一番和んだ時間だった。



 夜になり帰り際、古市が花澤を遠慮がちに呼び止める。同い年だがレディースの一員を気安く呼ぶことはできない。何より古市自身は腕っ節も弱いし、ケンカだって見る側なのだ。何より智将・古市と呼ばれるゆえんは、アバレオーガに適切なアドバイスをやり、勝利に導くからである(と古市自身は瞬時に話を作った)。
「花澤さん………は、神崎先輩のどこがいいと思った?」
「ハ?」
 古市が真面目腐った顔が急に訳の分からない質問をするものだから、思わず聞き返す。言っている意味が分からない。そして古市はいつになく真剣な眼差しを投げかけてくる。その目を見返して数秒、この男が一生懸命モテようとしていることを思い出した。
「古イッチ、マジキメぇ! パネェ! だからモテないんだあ」
「……………」
 急な反撃の言葉のボディブローに古市は普通にヘコんだ。しかもコイツ悪気ない…。
 古市は精神的ショックから立ち直るために、花澤のスカートから覗く足を見つめた。肉付きが悪いわけではない。しかし少し細すぎるかな。自分の好みとすれば、もう少しむっちりしてた方が好きだ。でも、華奢そうな中にも躍動感がある軽いステップはこれからの未来に光が持てる。ふくらはぎのふくらみなんかはいいかもしれない。すべすべの足だから触ったら良さげだ。レッドテイルは中々の上玉揃いで、見ていて飽きがこない。でも…
「じゃあさ、邦枝先輩のことはどう思ってる?」
 現総長である大森寧々は乙女モードに入った理由である男鹿のことを激しく敵視している。それは花澤としても分からないでもない。自分も寧々同様、邦枝葵のレディースのヘッドとして憧れる部分があってこの世界に足を踏み入れたのだ。だが花澤は寧々とは違う。彼女のそういった人となりもすべて受け入れて、やっぱりパネェ人なんだと感じている面もある。もちろんこれは寧々には言えないけれど、それでも言いたいと思っていた。
 誰にも、特に寧々先輩には絶対、と釘をさしておいてから言葉を紡ぐ。
「アタシはいいと思うッスよ。男鹿ッチのよさっつーのは分かんないッスけど。でも、恋する乙女っつか、姐さん可愛いッスから! アキチーなんてドツボみたいッスよ」

 途中で花澤の話は支離滅裂になったけれど、それはとりあえず置いておいて、どうやらレッドテイル内でも恋愛とかに興味がないというわけでもないらしい。掟とか何とかいうものがあるから、みんながみんな頭が固いのかと思っていたので、古市にしてみれば意外な気がした。
 そして世の女性たちは『ワル』の方へと恋心を向けていく。だめんずとかだめ男とかいう言葉があるが、普通の、否! 女性に対して敬意を表する気持ちのある若者にはどうして彼女らは目もくれないのだろう? これは現代の女性からの『男性観』というものの歪みを感じる。いずれ地球は悪魔に侵略される前に、ろくでなしの男に侵略されてしまうのではないか。とそう思うほどに、女性は優しいこころをもった男を見ようとしていない。理不尽だ。古市は強くそう思うのだ。
「だからさ、花澤さんも、どうして神崎先輩のことが好きなんだろうって…」
 最初に聞きたかったことへと話をぶり返す。そもそも最近まで会話している様子もほとんどなかったのに、最近ときたら神崎と花澤はしょっちゅう楽しげに話しているという有様。いつの間にか神崎は花澤に「パー子」なんてあだ名を付けてそれでしか呼ばない。確かに同じ学校の々教室で同じように暮らしていて接点がないとは言えないけれど、急激に距離縮みすぎじゃね? というのが古市の智将ならではの見解である。
 数秒。花澤はキョトンとした顔のまま固まっていた。すぐに恥ずかしげに顔を赤らめた。それで違う違うッスよアタシはそんなんじゃないッスー、と否定。これはアヤシイ。というか肯定と取ってもいいのでは? 明らかに嫌がっている素振りではないのだから。
「そ、ゆんじゃないンスけど…。その、こないだ神崎先輩マジ強ぇってか、パネェって感じだったンスよね。漢って感じで。オーラで悪魔野学園のやつらやったっスから! 東条先輩も押されてたけど、それを神崎先輩オニパねぇって感じだった後から、アタシもよく喋ってるッスけど………そんだけっ!」
 花澤の言葉は頭ワルすぎて理解に苦しむところがたくさんあるが、要はこの世界、強い男がモテるのか、と内心深く傷付いた。男鹿との腐れ縁でずーっと一緒につるんでいるが、別段自分自身が強くなるということはまったくと言っていいほどない。というか、別に強くなりたいというわけでもない。むしろ、男鹿がいる以上は自分は男としてのやさしさを育めばいいのだと思っていた。この思いは変わらない。ケンカは野蛮人、つまりは男鹿のような者のやることなのだ。
 古市は寂しい思いでフッと鼻で笑う。よくよく考えてみれば、このパー子花澤も可愛そうな乙女なのだ。女性を幸せにする脳のない野蛮人に救いの手を伸ばす哀れな子羊なのだ。できれば抱きしめてやりたいものだと思うが、それを野蛮人らの力は許しはなしないだろう。だから古市はまず、やさしくしてやろうと思う。
「花澤さん…。何か、悩みあったら、俺に相談してよ。いつでも」
 さっと静かに花澤の手にメモを置く。花澤はぼんやりしたような顔でそのメモを見つめる。

『 古市貴之
 090-XXXX-XXXX 』

 彼女はきっと今、感動しているだろう。やさしい男の姿を見つめて。ゆっくりと古市は振り返る。
 臭いものでもあるようにエンガチョ持ちのメモをつまんだ格好の花澤が渋い顔をしていた。
「古イッチ、キモさパねぇ! でもマァ一応もらっとくッス」
 素早く花澤は懐から携帯を取り出し、古市のメモの番号をプッシュすると、すぐにメモ紙を投げ捨てて、古市に自分の番号を教えることなく、背を向けて歩き去っていった。今日は、なんとなく悪い日だったと、捨てられたメモを握り潰しながら古市は眉間に皺を寄せるのであった。


11.06.20

見上げた流星 聞きながらザラザラ〜っと書いた話。

昨夜から古市とは別の意味合いで寂しい思いをしていて、それを活かした話を書いておきたいなぁと。でもこの話は活かせなかったけど(笑)べるぜではちょっとむりぽ。

今回は神崎←由加 の伏線のような(や、まんまじゃん、て)。
自分の中では一応話と話同士のつながりっていうのは、そこそこにあって、こんなシーンもあったしこんなシーンとつながったら、ややこしいよなぁとか色々思うんだけれども、今回の由加が神崎にちょっとドギマギするような感じは、寧々との関係とつながるのかなぁって謎はありますね。
まったく別物として書いてる人って多いと思うんですよ。同人だと。
こっちでは別物の話としてこのカップリング、こっちではこういう設定だけど、前に書いた話とはつながってませんよ〜的な。それってすごく書く側に都合がいい。つじつまを合わせる必要がないし、みんながそれぞれ幸せになれる可能性があるから。
そういうのもあって、どうしようかなぁというのはありますね。

直接的なつながりうんぬんは後から考えようかな、と。
今の感じではつながりはあるって思ってますけど、つながりを作っちゃうと絶対に仲は進展しないんだけど(上下関係とか原作のカラミもあるんで、つい)それがいいなぁって思いもあるので。
や、別に見るのはいいけど、自分が書く以上はべるぜの世界でちょっとした恋愛要素があるのはいいけど、ガッツリそういう話にいくのはいかがなもんかなぁと思ってますので。基本はケンカとか勝負ごとがあって、悪魔があって、普通の学校生活?というかヤンキー生活があって、みたいな基本があるわけで、その中でちょっとした息抜きみたいに恋愛要素があればいいな、という感じなので、どう頑張ってもR指定はありえない。

や。待てよ、R指定ありえるかも。ホラ、男鹿がスプラッタ事件を起こすかも……(笑)


透徹

2011/06/20 20:09:19