誓い


 魔族が何だ、ベル坊の兄貴が何だ、と思う。それでも全く歯が立たなかった。全て邦枝に見られて、ヒルダを助けられた。
 早乙女とかいうワケの分からん先公に助けられて、ただぼんやりしている間にミイラみたいな包帯だらけの格好にさせられて。呼吸も整わないうちに姉ちゃんに邦枝を送っていくように言われる。今日という日は厄日ってヤツだ。そう思う。
「すまなかったな」
 ヒルダの素直な言葉が胸に刺さる。こんなことをコイツが言うのはひどく気持ち悪い。素直なヒルダなんてヒルダじゃないような気がする。それだけ相手は強いし、手の着けようがないってことなんだろう。ごくりと息を呑んだ。緊張をさらに高める音だから、鳴らす気なんてなかったんだけど。
 もう少しゆっくりしたかったけど、ヒルダのこんな痛々しい姿を見てんのも癪だ。やっぱり姉ちゃんの言うとおり、邦枝を送った方がいいような気がした。自分の部屋なのに、他人の部屋みたいに冷たい空気が流れてんのも気に食わねえ。
 部屋の外には邦枝。目が合う。相手は何だかやりづらそうに逸らす。そりゃそうか、ベル坊が悪魔だとか、さっき知ったばっかりだったっけ。俺としちゃあ古いネタなんだけどな。そしてコイツ、マジ順応早ぇ。
「邦枝。送る」
「いいっ!!一人で帰れるからっ!!!!!!」
 慌てて手を振ったけど、その手を掴んで外に出た。姉ちゃんの怖さってやつは俺にしか分かりゃしねえんだ。いくら手を振ったってコイツを一人で帰らせられるわけなんてねえ。しばらく邦枝は下を向いたまんま、黙ったまんま。
 おとなしいんなら問題ねえ。そのまま俺はチャリを跨ぐ。「乗れよ」
 ぽかんとした顔の邦枝。チャリ通学してねえからビビったのかもしんねえな。たまにメンドクセー時はチャリ通なんだけど。毎日じゃなきゃ分かんねえだろうし。俺だってチャリぐらい乗れるってーの。とツッコミたかったが、おとなしくケツに乗ったから黙っておいた。邦枝がどこに捕まればいいか分からないふうにして、椅子の脇を握った。
「おい、飛ばすんだからよ。肩にでも掴まってろ」
「……う、うん」
 肩を遠慮がちに両手で弱く掴む。さっき言っただろ、飛ばすんだから、そんな強さじゃ足りないって。漕げば分かるだろう。そう思ったから勢いよくチャリを漕いだ。夜だって遅いし、疲れてるけど身体を動かすには悪い気分じゃない。むしゃくしゃした時はやっぱり身体を動かした方がいいに決まってる。特に、負けちまった夜なんかは。
 邦枝の声が聞こえた気がしたけど、チャリを漕ぐ方が忙しくてよく聞こえない。ただ、後ろからしがみつくみたいに掴んでるのは分かった。だから言っただろ、っての。曲がり角を曲がって駅をそのまま通り抜ける。邦枝の家まで送るように姉ちゃんは言ってた。駅なんかで降ろす気なんてない。それにびっくりしたのか邦枝が何か言ってるが、俺にはどうでもいい。
 後ろのヤツがどんなヤツでもいい。今はチャリを漕ぐことが俺の気晴らしになるんだ、って思った。



 もう、二度と負けたくねえ。



2011.06.15

song of ハイカラ for Dear

べるぜバブ!10巻で邦枝を送っていくシーンです。
やっぱりどう考えても色気のないオーガですわ。
一人称ってなんかハズイ(笑)んですが、今回は記憶違いで最初、邦枝もケガしてるって勝手に脳内変換してたみたいで
途中まで書いててマンガ読みなおしてアホーってなって(笑)まぁほとんど知識アニメなんでマンガはまだ買ってないから
来月辺り買おうかなって密かに先月からもくろんでるんですが…
大人買いする金がねえ!!


実は古市と男鹿でエロ本について話すネタがあるんですが(笑)文にするかマンガにするか悩み中です。
あとは神崎をうまく使いたい今日この頃。

2011/06/15 22:18:21