鈍感も大概にしやがれ


 姐さんのあまりのカワイさに胸を打たれてしまった。
 千秋はそれに気付いてしまったので、堪らずにツカツカと歩み寄る。
 ろくでもないと言われている男鹿辰巳という者も、もしかしたらそんなに悪いやつではないのかもしれない。赤ん坊をあやす姿を見てしまえば誰もが気付くだろうに、結局それに気付いたのは姐さん、こと邦枝葵と谷村千秋だけ。もちろん千秋は頬を染めたりはしないのだが。
 頬を染める葵はすごくカワイイ。これを見て気付かない男鹿も男鹿だが、許さないと憤る寧々さんも寧々さんだ、と思うのだ。
 否定しない理由なんて言葉にするのも馬鹿馬鹿しいが、好きとか嫌いとか、そんなものは許す許さないの問題ではなくて、ただの感情なのだから。感情を否定してしまえば、すべてを否定しなくちゃならなくなる。そんなことを強要するのは解せない。だから、男鹿という男のことを知らせたくて、千秋は目の前に立つ。
 目の前の男鹿の胸にはべる坊君がいて、それはとても微笑ましい。迫力のある笑顔をしている悪魔のような男には、とても見えない。『子連れオーガ』とはよく言ったものだ。
「男鹿、おまえの好きなものは!」
 急に千秋のかけた言葉で、しん、と教室中が静まった。

 ・・・・・・

 皆が黙って固唾を呑む。
 教室の真ん中で、普通の休み時間。クラスメートは当たり前にゾロゾロといる状態で、このシチュエーションって何? と半ば呆れた声と、あんぐり口を開けた寧々と葵と。目を瞬かせている男鹿に古市。その他もろもろ。
 告白タイムなのか? と信じられない思いで皆が見つめている。そもそも展開が急過ぎて誰もがおいてけぼりだ。
「……あ?」
 とりあえずこの状況では、男鹿ですら普通の人に見えた。そして、早く「好きな女の名前言っちまいなァ!」と心の中で足踏みしているクラスメート達と、ハラハラして固まったままのレッドテイルメンバー。答えが思いの外遅かったので、千秋は同じ言葉をもう一度口にした。聞いていることには答えてもらわなければならない。
 そして、言葉どおりの意味を男鹿が理解するのに、数秒。べる坊は不思議そうな顔をして辺りを見回している。

「ケンカ」

 え、と周りの空気が不穏に淀む。そんな話じゃないっつーの……
「土下座」
「コロッケ」
 もはやいつもの男鹿の調子に、古市は堪らず笑いだす。そもそもどうしてこんな乙女心の分からないヤツがレディに声を掛けられることが多いのか。顔だって自分の方が二枚目だし、何より自分は優しい眼をしている。悪魔の笑みなど生まれてこのかた浮かべたこともないし、ケンカには弱いがレディを守ることなら何とか頑張る気持ちはある。現にしたこともあるしね!だからどうしてレディがそのような話を男鹿にするのかまったく分からない。それともあれかな、男鹿に近寄って実はタカユキさん…なんて展開にうまくもっていこう、なんて…。それなら別に遠慮することはないんだよ。僕は君を拒んだりしない。だって、君は十二分に素敵なレディなんだから。さぁ、怖がらないでこちらに……ごばへっ??!
 と古市が思いながら千秋に向けて身体ごと手を差し伸べている所、気付かぬうちに男鹿の肘打ちがヒットした。

「お、いたのか古市」
 さっきからずっといたよ……。教室中のすべての者は感じていたが、黙っていることにした。そこのキモイヤツはどうでもいい。
「気になる者は!」
 とにかくこの千秋というおかっぱ少女(歳は変わらないのだが)、主語がなくひどく意味が伝わらない。こういう所、千秋と男鹿はとても似ている。そう古市はボロゾーキンになりながら感じていた。
 千秋の発したその質問は葵を狼狽させた。気になる…どういう意味で聞いているのかは分からないが、気になる、という言葉がひどく気になる。おかしいのかもしれない。意識してしまう。男鹿の表情を見てみたいと思う。でも視線を上げることができない。
「…んー、東条。かな、」
 東条に勝った。べる坊の力無くてもそれは適った。だが、まだ足りない。そう男鹿は感じていた。もっと強くなって、もっともっとコテンパにやっつけてやらなくては本当の意味での『勝ち』ではない。口にはせずとも思わずにはいられない、あまり納得のいかない結果。東条自身もいつだって喧嘩なら買うと言っているし、近々挑みに行くのも悪くないかもしれない。
 この答えには正直皆が溜息を吐いた。女の名前を出せ、とやってらんねぇといった空気が漂っている。古市はボロゾーキンのまま。
 べる坊が「だ」と声を発しながら男鹿にしがみつく。実は鼻血を垂らして伸びている古市を見て喜んでいるのだが、そんなことは周りの者には分かるまい。だから教室の空気が和む。怖い赤ん坊、というよりは怖い男鹿が少し丸くなったといった方が正しいからだ。そういえば、あの金髪美女の男鹿嫁の名前が出てこないことが気になる。
「そういえば、アイツも気になんな〜……」
 男鹿の嫁の名前を知らないことに、クラスメイト達は気付いた。否、聞いたけど横文字だから忘れてしまったのだ(古市以外)。英語なんてオール1に近い者どもばかりなのだ。例外はいようとも、男鹿の嫁に手を出そうとは思えない。教室内はざわめき始める。いつもの日常的な休み時間。


「あおい、…だっけ」


 空の方を見ながらぼそりと男鹿が呟いた。
 あの時もこんな青空だった。公園デビュー。べる坊と同じ位の歳の子供。
「なっ……、ななななななななな、葵さん?!」
 くたばったはずのキモ古市は復活した。女の名を聞くと復活するなら、ずっと女の名前のCDでも流してろ。と、思ったので男鹿は軽く手を振った。
 同時にゴチッという音と、再び古市が倒れる音。
「お前の知らねーーヤツ」

 それと同時に、邦枝葵も倒れた。顔は、ゆでだこのように真っ赤だった。
 嬉しいの半分、絶対に自分の正体を言えないと思うのも半分、すごく複雑で、オーバーヒート。寧々が呼んでいる声が、聞こえなくなった。
 その葵の様子を見て、千秋が抱きしめに行ったのは言うまでもない。


2011.06.15

リンドバーグの「さよならをあげる」「君に吹く風」辺り聞きながらカタカタ打ってマシタ。

男鹿は恋とかそんなんダメ(笑)絶対ありえない。
同人サイトちょっと見てみるけど、もうキャラがないんですよ
書くのはいいけど、原作好きなのかなって思うので。



これはちょうど今アニメが東条編終わった辺りですかね。その後くらいの話かと思うんです。
とりあえず葵カワイイってか自分は千秋が好きなんですよ。あのボソってツッコミ。いいキャラですね〜
で、早乙女はどう見てもジェクト(FFX)だし…
最近、神崎も好きだなー……あとカワイイモノ好きな東条(笑)


まぁノリとしてはどちらかと言えば千秋と葵の百合なんだけど(笑)
最終的には男鹿と葵はくっついてほしいけどね。
この文章に関しては、男鹿は青井くにえのことが、単純に気になってるわけで、別に好きとか恋愛って深読みではないのです。念のため。
ただ、周りのクラスメートとかが勝手に勘違いしてくれればいいなぁ、と
で、あおい、で止めてるので葵ってことになって、勝手にくっつけられるんだけど、男鹿はフンって感じですな。


透徹

2011/06/15 09:10:02