澄み渡る青空に向って真っ直ぐに聳え立つ尖塔を抱える時計台を中心とし、円を描くよう造られた街。そこには赤や茶色の屋根屋根がびっしりと敷き詰められている。しかし頂上より射す太陽により、蜘蛛の巣のごとく張り巡らされた通りには日の光が隈なく満ち溢れていた。
街のシンボルでもある時計台。堂々とした風貌で構えるその建物は、街の中心を突き抜ける一本の大通りを見下ろす。活気に満ち溢れる通りは両脇に市場を構え、街内外から多くの人を招いていた。
そしてそんな大通りの中途。喧騒からほんの僅かに逸れた小さな教会の軒下にも、この賑やかな中心街に挑まんとする旅人二人の姿があった。
ただしいましばし休憩中の様子ではあるが――。


「人に酔った」


質素な教会の正面扉の前。日陰になった階段に腰掛ける青い顔をした少女は魔女ハノン・ハイヴ。彼女の相棒である魔法帽夜重は彼の愛車、緋色のバイクを適当な場所に停めてくるついでに、手近な井戸で濡らしてきたハンカチを彼女に手渡す。


「ったく、本当軟弱だよな」
「・・・っるさい・・」


自分でもそう思ったのか、ぶっきらぼうにハンカチを受け取ったハノンの声音はいつもよりも若干控えめだった。
彼女は適度に濡れたハンカチを額に当て、フウ、と長く息を吐く。そして黙り込んだ。
夜重は、仕方ないな、と小さく漏らし、薄紫色の頭にそっと手を添える。


「ちょっとここで休んでな。 なんか飲み物買って来てやるよ」
「なんか果物のジュースがいい。 あれば蜜柑。 なければオレンジジュースでも可」
「はいはい」


急に元気を取り戻したように勢い良く顔を上げたハノンに、夜重は呆れ顔で返事をする。そして彼女に背を向け、じゃ行ってくるわ、と、背中越しにヒラヒラと手を振った。




「いっつも思うんだけど、普段のハノンって絶対に限界の百歩くらい手前で頑張ることを放棄してるよな」


大通りへと戻りながら、夜重は誰にともなく相棒への不満を零した。無理をされても困るのだが、もう少し頑張ってみてほしいというのが彼の希望である。


「だがまあ、こんなにも人が多いようじゃ、な」


再び舞い戻ってきた人ごみに、彼はうんざりした。ただ歩くだけでも辛そうな人通りである。先日立ち寄ったばかりの静かな街が恋しい。





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