人通りの少ない閑静な商店街。ほとんどの店が開いているものの重々しい静けさが鎮座していた。その間を抜け、三人は進む。
ふと、ハノンが足を止めた。人形が並ぶショーウィンドウの前だ。どの人形達もレースを豊富にあしらえたドレスを身に纏っている。彼女は鼻がくっつきそうなほどに顔を近づけ、ガラス越しに人形を見つめていた。


「やっぱなんだかんだ女の子だな、ハノンちゃん。 ヤッシー買ってあげれば?」


カラフルなリボンで着飾る人形達。サテンに光るひらひらした洋服は全ての女の子なら誰しもが一度は憧れるというもの。しかし。


「あんた値段見て言えよ。 ただでさえハノンは金遣いがなっていないんだ。 おれだけは財布の紐を死守しなきゃなんねぇんだっつーの」
「君、実はすごいみみっちい性格だよね」


懐から夜重ノート第二弾。家計簿なるものを取り出した夜重。若干チャラそうな身なり、そして乱暴な言葉遣いに反する意外な性格に黒豹は失笑するしかなかった。


「それにハノンは人形を見ているんじゃない」
「え? じゃ、なにを・・、」


ガラス窓にかじりつくハノン。その視線を辿れば答えは明らかだった。彼女の露草色の瞳が射抜いているものは明らかに人形ではない。人形の後ろにショーウィンドウの飾りとして置かれたスーツケースだった。そしてその四角いボディには隙間が見当たらないほどにびっしりと色とりどりのステッカーに覆われている。


「あれは・・・一週間前に通り過ぎた小さな町の地域限定切手」
「はい?」
「長く留まらなかったから見つけられなかったけど・・・」


普段より饒舌なハノンに黒豹は目を丸くさせる。


「やっぱりあの町にもあったんだよ限定切手。 夜重、戻ろう今すぐ」
「ええ? またぁ?」


夜重のジャンパーの胸倉を掴み上げ、そのまま道を引き返して行こうとしたハノン。あまりに凄まじい腕力に引きずられる。しかし夜重は足を突っ張ることでなんとか留まった。
露草色が上目遣いに見上げる。懇願に満ちた大きな瞳は若干潤んでいるようにも思えた。ダメ? 小首を傾げるハノンに夜重は、うっ、と身を強張らす。反則としか言いようのない表情。しかし彼は思わず上下に振りそうになった頭を寸でのところで左右に激しく左右に振った。
黒豹からは、おお、と尊敬の感嘆詞が漏れる。しかし対照的にハノンはブスッとむくれた。


「ケチ」
「ケチで結構。 ったく、地域物が絡むとすぐに旅の本来の目的を見失う」
「本来の目的? 切手集め?」
「実はメインそっちなんですかハノンさん!?」


拗ねたように口を尖らせてそっぽを向くハノンに結局折れたのは夜重。この町での目的を達成したら一週間前の町に戻って地域限定切手を買いに行くことを約束した。



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