大通りの両脇に並ぶショーウィンドウを叩く雨粒の勢いは弱まっていた。水滴はただ幾筋にもなってガラスを伝うだけ。しかし水はけの悪い路地に出来た大きな水溜りを打つ雨粒はまだまだ止みそうになかった。


「つまり、酒場は特に収穫無しか」
「昨晩は、な。 平日だから人もそんなにいなかったし」


肩を濡らして歩道を歩く黒豹。彼は大きな欠伸を噛み殺しながら前を歩く夜重に答えた。
黒いジャンパーのフードをすっぽり被った後姿。表情は窺えないがその頭が僅かに道路側に動く。そして隣を歩いていたハノンのコートを掴み寄せた。


「なに?」
「別に」


不思議そうに見上げた露草色にそう言い捨てたものの、彼女のコートを掴む手に力を込める。そして歩道の道路側から店側へと引っ張った。逆に自分は道路側へと移動する。つまり場所を入れ替えたのだ。それと同時に石畳の水滴を巻き上げ、黒光りする車が彼等の脇を通り過ぎた。
一連のやり取りを後から眺めていた黒豹はニイッと口を横に広げる。


「ヤッシーやっさしぃ〜」
「もう轢かれろあんた」


でもさぁ、と、夜重の言葉には特に反応を示さず、彼はのんびりと言う。頭の後ろに組んだ腕。それを外して背後へと過ぎ去っていった車をグルリと仰ぎ見た。


「『車』だなんて高級品。 持ってるほどの貴族がこんな静かな街にもいるんだね〜。 俺の街でも滅多に見なかったぞ」
「ああ。 例の急成長した貴族だったりしてな。 あんたの言ってた」


夜重も同じように車を見やる。しかし勢いよく角を曲がって行ったその後姿が一瞬見えただけだった。雨で視界が悪いというのに随分と飛ばしているものだ。乱暴な運転に夜重は鼻を鳴らした。そんな彼の腕がツンと引っ張られる。視線を落とすと眠たげな二重が何かを訴えていた。


「どうした?」


この街に来てからのハノンの様子は少しおかしい気がする。今朝だってやたらに早く起きてきたし・・・。
『ブラッディー・ソーサラー』の気配を確実に感じ取ったからなのかもしれない。どことなく落ち着きがなかった。今だって夜重を見上げる表情はなんだか切なげで。もしかしたらいくら常に無気力かつマイペースを崩さないハノンといえど、ついに相見えるであろう敵に思うところがあって緊張していたりするのか・・、


「お腹減った」
「はいはい」


どうやら思い過ごしだったらしい。過剰に心配してしまった夜重は、やはりハノンはハノンだ、と思い直した。



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