「ああ、やっぱり。 だから気乗りしなかったんだ・・・」
「やあ、青年たち! 奇遇だな〜!」


びしょ濡れの雑巾のように水を滴らせながら二人が道の駅へと入ると、まるで待ち構えていたかのように特徴的な垂れ目を緩ませた男がそこにいた。夜重はあからさまに顔を顰める。
出発前、夜重の猛烈な主張により、交通手段は同じものの別々に目的地へと向かっていた黒豹。彼は二人の姿を見つけると目を輝かせて瞬時に走り寄ってきた。


「クロも来てたんだね」
「ちょっと雨宿りにな。 あと地域限定品を覗きに!!」
「おお!」
「あんたそういうの好きなんだ」


拳を構えて無駄な気合いに燃えている黒豹。その横では珍しくヤル気満々のハノン。夜重は温度差を感じながら、ならハノンと気が合うんじゃない、と彼らに白い目を向けていた。遠巻きに熱気に満ちる彼らを眺める観光客同様に。


「冬季シーズン限定発売の蜜柑味ソフトクリームはプリュシュ地方農家の新鮮な蜜柑を贅沢に使用。 濃厚なミルクとジューシーな・・、」
「暗記してたのかよ!!」


先ほども聞いたような売り文句をツラツラと並べ始めたハノンに、夜重は全力で突っ込みを入れた。そして頭を抱える。彼女のこの情熱とヤル気をもっと別な方向に傾けられないものか、と。


三人は早速売店で蜜柑味ソフトクリームを購入。そしてそれぞれのソフトクリームを手に、広間に設けられたテーブルの一つに腰掛けた。


「・・・にしてもひっどい雨だな〜」


机に頬杖をつき、黒豹は外を見やった。窓には大粒の雨が殴るように叩き付けている。
道の駅には次から次へとびしょ濡れの人々が大慌てで流れ込んで来ていた。


「雷とか」
「鳴りそうな勢いだよね。 あの雲の黒さは」


ハノン、続いて夜重も外の荒れた天気を見やった。雨が止む気配は一向になく、雨脚は強くなるばかり。それどころか風まで狂ったように強く吹き荒れ始めていた。まるで嵐のようだ。


「さっきその辺の女の子達に聞いたんだけどさ、この地域、雨季でもない限りこんなに雨が降ることなんてない穏やかな地域らしいよ」


最後のコーンの一欠けらを人差し指で口の中へ納めながら黒豹はお土産売り場で戯れている若い娘たちを指した。その視線に気付いたのか、彼女たちが振り返る。黒豹が緩い笑みを浮かべてヒラヒラと手を振ると彼女たちはキャッキャッと歓声を上げていた。


「地元の子達っぽいから確かだと思うよ」
「おいオッサン、大概にしろ・・・」


いまだ彼女たちに満面笑顔のサービスを向け続ける黒豹を前に、夜重はげんなりとしていた。対してハノンは微塵も気にしていないらしい。大事そうに両手で持ってゆっくりと食べているソフトクリームから顔を上げ、黒豹を見据える。


「つまり、いまのこの状況は異常気象?」
「ああ。 しかもここ数週間ほどこんな異常気象が続いてるって話だ」
「・・・・」


ハノンは僅かに眉を寄せる。そんな彼女の微妙な表情の変化を夜重は見逃さない。
異常気象。それはすなわち理の崩れ。彼の知らない何かをハノンは知っているのかもしれない。そう思って次に続く彼女の言葉を待っていたのだが。


「ああっ!!」
「どうした!?」
「ハノンちゃん!?」


突然、悲痛な声を上げて目を見開いたハノン。


「・・・コーンの下から、ソフトクリームが垂れてる」
「「・・・・」」


彼女はまるで世界の終わりか何かのように暗く沈み込んだ。


「ハ、ハノン、大丈夫だから! ほら、このティッシュで押さえて!」
「手がべたべた・・・」
「あっち! あっち水道あるからとりあえずもう早く食べちゃいな!!」
「なんか、すごい失望感・・・」
「あ! それすっごい共感! だから俺、ソフトクリーム食べるときはなるべく急いで食べるんだ〜」
「もっと早く教えてよ、それ・・・。 あー、なんかヤル気が・・・」
「ちょっ、ハノーンっ!!!」


テーブルにダラリと突っ伏したハノンを次の街へ行くよう奮い立たせるのに、夜重はかなり苦労したのだった。道の駅へ立ち寄ったことを彼が深く後悔したことは言うまでもない。





47 / 57
prev next


bkm
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -